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第9話 ダンジョン攻略と新たな呪物


『ゴエティアの迷宮』12階層。


 下の階層に向かおうとする俺たちの前には、黒と白の双頭を持つ蛇が俺たちの行く手を阻んでいた。


 ここに来る道中で数メートルはある蛇タイプの魔物は見てきたが、目の前の魔物はその魔物たちを二回りほど大きくした姿をしている。


「ダブルヘッドスネークか。ノーン、道中で倒してきたスネークたちとはレベルが違うから、気をつけろ」


「了解。それじゃあ、いってくる」


 俺はガンナの言葉に頷いてから、勢いよく地面を蹴ってダブルヘッドスネークと距離を詰めようとする。


「「キシャッ!」」


 しかし、ダブルヘッドスネークの黒い方は、俺の接近に気づいたようでそんな音を出して紫色の霧を吐いてきた。


 ……これは、『毒霧』か。


「ノーン! それを吸い込むな、毒だぞ! 一旦退け!」


 ガンナの大声を聞いて、俺は『月夜に浮かぶ乙女の魔法』をプレイしていた時の記憶を思い出す。


 ダブルヘッドドラゴンは、プレイヤーが初めて状態異常攻撃を受ける相手だった。初心者が薬屋に売っている毒消しのポーションなどを買わずにダンジョンに挑んで、返り討ちにされる魔物で有名な魔物だ。


 もしも、俺がモブNPC以外に転生していたら、素直にガンナの言葉を聞いていただろう。


「悪いが、状態異常攻撃なんか効かないよ。モブNPCに毒が効くかどうかなんて、プレイヤーとして検証済みだ」


 俺は前世でモブNPCにダメージを負わせようと必死になっていた日々を思い出して、ニヤッと口角を上げる。


 俺はプレイヤーとして、今転生しているモブNPCにあらゆる状態異常攻撃をして体力を削ろうとしたことがある。当然、その結果は体力を1ゲージも削ることができずに終わった。だから、ダブルヘッドスネークの『毒霧』なんか避ける必要もない。


 俺はそう考えて『毒霧』の中に突っ込んでいき、一直線にダブルヘッドスネークの足元まで距離を詰めた。


「は? え?」


 後ろで困惑しているガンナの声が聞こえた気がしたが、俺はそのまま構わず短剣を引き抜いた。


 すると、その瞬間ダブルヘッドスネークが勢いよく俺に向かって突っ込んできた。頭が二つあるため、攻撃が別々の方向から飛んでくる。


「「キシャッ!」」


「そういえば、こいつって片方の頭を倒してから、もう片方を相手にするんだったっけ?」


 俺はいっぺんに向かってくる二つの頭を前に、どちらから倒すべきかふむと考える。


 ……いや、二つの体で共有しているモノを壊せばこいつも死ぬのか。


 俺は飛んでくる二つの頭を軽くかわして、ダブルヘッドスネークの懐に飛び込む。それから、まだ俺が近づいたことに気づいていないダブルヘッドスネークの双頭の分かれ目に短剣を振り下ろした。


シュンッ……ザシャッ!


「き、キシャッ」


 すると、双頭だった魔物が綺麗に二つに割れて二匹の蛇のように分かれた。しかし、当然体は一つしかないので、無理やり分けられた体で行動することなどできるはずがなく、音を立てて倒れるとそれっきり動かなくなった。


「よっし、討伐完了」


 俺はなんかグロイ感じで倒れているダブルヘッドスネークを見ながら、ニヤッと口角を上げる。


 分かっていたことだが、状態異常も効かないっていうのはかなり便利だな。


 俺がそう考えていると、ガンナがなんとも言えないような顔で近づいてきた。


「セオリーガン無視かよ。あんな力技で倒されるなんて、魔物も思ってもいなかっただろうな」


 ガンナは倒れているダブルヘッドスネークをちらっと見て頬をかく。


 ここに来るまでの道中、基本的に短剣を使うか殴るかで魔物たちを屠ってきた。ガンナも初めは驚いてはいたが、徐々に俺の戦闘スタイルに見慣れてきたらしい。


 正直、ここまでパワー系でやっていくつもりはなかったのだが、今の俺のステータスだと他に戦い方がないのだから仕方がないか。


 俺がそう考えていると、ダブルヘッドスネークの体が砕けて素材をドロップした。


 俺はドロップされた素材を見て小さく頷く。


「『肉塊』に『蛇の牙』、『蛇皮』と『毒袋』……うん、結構お金になりそうだ」


「相変わらず素材とか、アイテムに関する知識はあるんだな」


「もちろん。それに、俺には他の知識もあるぞ。ガンナ、少しだけ寄り道させてくれ」


「寄り道? まぁ、構わないが」


 ガンナは俺の言葉に不思議そうに首を傾げて眉を寄せる。俺はそんなガンナの反応を見て、口角を上げる。


 さすがに、ずっと脳筋みたいな戦いをするのは退屈だ。


 というか、せっかくゲーム世界に来たのなら、魔法を使って戦ってもみたい。しかし、俺はモブNPCであるため、MPが未定義の状態だ。そんな状態では、普通の魔法を使うことはできない。


 でも、普通ではない方法を使えば、魔法で戦うことも可能だ。


普通ではない方法。要するに、呪物を使った方法だ。


 そして、そんな今の俺にぴったりの呪物がこの12階層で手に入れることができるのだ。


 俺は辺りをキョロキョロと見渡して、ゲームのプレイ画面と今の景色を重ねてその呪物の場所を確認する。


「ええっと、あっちが下の階層に向かう階段だから……こっちだな」


 俺は下の階層に行く階段を目印に、南の方にある小道のほうに向かっていった。すると、そこはすぐに行き止まりになっていた。


小道が袋小路になっているのではなく、奥のへと続く道が一部陥没しているため進むことができなくなっている。


 そして、その一部陥没した道の先には、明らかに何かがあるような扉のある部屋があった。


 すると、さっきまで首を傾げていたガンナが何かに気づいたような声を漏らす。


「ああ、ノーンはあそこに行きたいのか。あそこは多分『ゴブリンの小部屋』じゃないか?部屋にいるゴブリンを全員倒せば、ゴブリンが拾ってきたアイテムを奪うことができる場所だ」


「いいや。俺が行きたいのはあそこじゃない。この下だよ」


「下? え、別に何もないだろ?」


 俺が陥没した何もない所をじっと見ていると、ガンナが俺の隣に並んで同じように下を覗き込んだ。


今俺たちがいる場所から10メートルほど下、小道の陥没したような道には、何もないはずなのになぜか明かりが灯されている。


 何もないはずなのに明かりが灯されている空間。当然、ゲーマーがこんな怪しい所を散策しないはずがない。


「ダンジョンにおいて、何もない謎空間こそ怪しい場所なんだって。じゃ、そういうわけだから行ってくる。ガンナは少し待ってて」


「え、行くってどうやってーーの、ノーン⁉」


 俺がそこまで言ってぴょんっと飛び降りると、ガンナが驚く声を上げた。俺は勢いよく落ちていく中、モブNPCを崖から落としたときのことを思い出していた。


 当然、モブNPCに落下ダメージが入るかどうかもゲームで検証済みだ。その時も平気だったから、問題ないはずなのだが……やっていることが、ヒモなしバンジーと同じなんだよなぁ。


「さすがに、人として恐怖心がーーぶはっ!」


 俺がそんなことを考えていると、すぐに俺の体は陥没した道に墜落した。ぼふっと巻き上がる土煙の中、俺は砂を払いながらむくっと立ち上がる。


「ノーン! 無事かぁ!」


「大丈夫。怪我一つしてないよ」


 俺は心配そうに体を前のめりになっていたガンナに手を振ってから、陥没した道の隅の方に向かって行く。


 それから、俺はゲームをしていた時の記憶を頼りに、地面に手をついて辺りをまさぐる。


 ……確か、記憶が正しければこの辺だったよな。


 柔らかい砂地をかき分けるように探っていると、何かごつごつとしたものに指先が当たった。


 俺はその感触を頼りに、砂地を手で軽く掘っていく。すると、すぐに小さな宝箱を発見した。


 俺は宝箱を砂地から取り出して、砂を払ってから蓋を開けて中身を取りだす。


「やっぱりあったか、『吸血鬼の腕輪』」


 取り出した腕輪は銀でできており、その中央の内側に赤黒い色をした宝石が埋め込まれている。


 確か、一説では吸血鬼が間接的に人間からMPを吸うために作られた呪物だと言われていたはずだ。銀の物を身に着けておけば吸血鬼に狙われないというのは有名な話だ。吸血鬼はその発想を逆手に取って、銀の『吸血鬼の腕輪』を人間に渡して、埋め込まれている宝石を通して人間からMPを吸い取るということをしていたらしい。


 装備したときの効果としては、使ったMPに伴い、後払いで同等のHPを削るといった仕様だったはず。


 撃てる魔法は単純な魔力をぶつける『魔力波』。正直、普通に使っても威力は高くはないし、魔力をぶつけるだけなので魔法と呼べるのかは分からない。


 それでも、魔力をありったけ込めればそれなりの威力だって出るはずだ。そして、HPが未定義の俺は実質それが無制限に使い放題。


「装備しない理由がないよな」


 俺はウキウキ気分で『吸血鬼の腕輪』を装備して、ちらっと上にある『ゴブリンの小部屋』を見る。


「力試しにはちょうどいいよな」


 『吸血鬼の腕輪』がどれほど実践で使えるのか。それを試すにはちょうど良い相手かもしれない。


 俺はそう考えて『ゴブリンの小部屋』に向かうため、落ちてきた方と反対側の壁を登っていくのだった。



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