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第5話 利害の一致


「え? パーティは組めない?」


 完璧な提案をしたはずだったのだが、俺の提案は簡単に断られてしまった。


「いや、でもさっきなんでもするって……」


「確かに何でもする気ではある。でも、身体的に不可能なんだよ」


 男はそう言うと、大きな傷跡のある右手をちらっと見た。それからしばらくの間考えてから、ため息を漏らして続ける。


「俺は元々冒険者だった。でも、依頼最中に利き手の右手と左足を負傷しちまったんだよ。だから、もう冒険者としてはやっていけねーの」


 男はズボンの裾を雑に上げて足首付近にあったえぐられたような傷跡を見せてきた。


 なるほど。体ががっしりしているなとは思ったが、そんな過去があったのか。どうやら、この男は怪我によって冒険者の道を諦めなければならなくなってしまったらしい。


 俺はその男の傷跡をじーっと見てから小さく首を傾げる。


「でも、切断されていないってことは『聖なる雫』で治るでしょ?」


 このゲーム世界ではダメージを受けるとHPが削られる。そして、HPが0になったとき、人は意識を失って動けなくなってしまう。


 そして、その状態で大きなダメージを負った時、ポーションなどでは治らない後遺症として残るのだ。


しかし、それらの後遺症もアイテムによって治すことができる。その代表例が『聖なる雫』というアイテムだ。


 『聖なる雫』は市場で簡単に手に入ることはないが、ダンジョンの少し深い階層まで行けば手に入れることができるはずだ。


 俺がそう考えていると、男は小さく首を横に振って力なく笑う。


「あんな貴重なアイテム、手に入るわけないだろ?」


「いやいや、近くのダンジョンの42階層で手に入るでしょ」


「42階層って、そんな奥までこの体で行けるわけがないだろ」


 男は深くため息を吐いてそう言った。やれやれと肩をすくめる素振りは、俺がダンジョンのことを何も分かっていないと思っているみたいだ。


 ふっ、舐めるなよ。こちとら元廃ゲーマーだぞ。


 俺は自然と漏れ出てしまった笑みをそのままに言葉を続ける。


「分かった。それなら、俺が42階層まで連れて行ってあげる。だから、俺とパーティを組んでくれよ」


「おまえが? おいおい、無茶言うなよ。子どものおまえが42階層まで行けるはずがないだろ」


「安心してくれ。おれ、ダメージが入らない体質なんだ」


「ダメージが入らない? そんなわけーー」


 男は鼻で笑って言葉を続けようとしたところで、昨日の俺との戦いを思い出したみたいだった。


 男の目が真剣なものに変わったのを見て、俺は笑みを深める。


「試してみる?」


「試してみるって、どうやって試すんだよ?」


「それ、貸して」


 俺が男が腰から下げていたサバイバルナイフを指さすと、男は躊躇いがちにサバイバルナイフを俺に手渡した。


 俺はそのサバイバルナイフをじっと見てから、おもむろに左の手のひらに向かってサバイバルナイフを突き刺そうとした。


「お、おまっ!」


ガッ!


 俺を制止させようとする男を振り切って手のひらにサバイバルナイフを突き刺したはずが、サバイバルナイフの切っ先は俺の手のひらを貫くことなくピタッと止まっていた。


 防御力で弾いたという感じではなく、物理的にそれ以上刃が動かないといった感じだ。


「……おまえ、これって」


「これで信じてくれた? まぁ、こんな芸当ができる代わりに攻撃力もないんだけどね」


 俺は目を見開いて驚いている男にサバイバルナイフを返すと、中指に着けている呪物をちらっと見る。


「プラスで火力を着ければ問題ないんだけどね。この呪物みたいに」


「おま、それ呪物だったのかよ。そんなの着けて大丈夫なのか?」


「ダメージ入らないからね。ノーリスクで強くなることができるんだから、着けない方が勿体ないでしょ」


 俺がそう言うと、男は『だからって、呪物なんか使うか?』と言葉を漏らしてからしばらくの間真剣に考えこんでしまった。


それから、男は意を決したように顔を上げて俺を見る。


「分かった。このまま腐っていくくらいなら、最後におまえと夢くらい見てもいいだろ。おまえとパーティを組んでやる」


「ほ、本当に?」


「ああ。俺はガンナってもんだ。よろしく頼むぜ、えっと……おまえ、名前は?」


「名前?」


 俺はガンナに握手を求められ、その手を握ろうとしたところで、ピタッとその手を止めた。


 そういえば、俺ってまだ名前なかったんだっけ?


 そうだよな、俺って名前も未定義のモブNPCだもんな。


 俺は今の自分の姿などから名前を付けようと考えるが、まるで良い名前が出てこなかった。


 やっぱり、NPCてのをもじるか?


「ノン、プレイヤー、キャラクター……ノーン。うん、俺の名前はノーンだ。よろしく、ガンナさん」


「さんはいらねーって、フランクにいこうぜ、ノーン」


 ガンナはそう言うと、笑って俺の手を握り返してきた。それから、ガンナは思い出したように声を漏らした。


「そうだ。呪物についてだが思い当たる節がある」


「え? 本当に?」


「ああ。ダンジョンに行く前に、そこで少し装備を揃えておこうぜ。案内してやるよ『裏通り商店街』をな」


「『裏通り商店街』?」


 なんだそれ、初めて聞くぞ。


 俺は聞きなじみのない言葉を前に首を傾げてから、ガンナに連れられて『裏通り商店街』という場所に向かうのだった。



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