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第21話 『グリモワール大遺跡』の門番


 俺が扉を開けると、そこには大きくて真っ暗な部屋が広がっていた。シンッとした静けさを前に、思わず入るのを躊躇いそうになる。


 それでも、俺が唾を呑み込んで部屋に入ると、ガンナたちも俺に続く形で部屋へ入る。そして、最後尾にいるソフィアが部屋の中に入った瞬間、重厚な扉が勢いよく閉まった。


 すると、俺たちを迎えるかのように壁際にあった灯篭に明かりが灯された。そして、明るくなった部屋の中央には、俺たちの何倍もの大きさのミノタウロスのような魔物がいた。四本ある腕には大きな戦斧が握られており、俺たちを見つけるなりその戦斧を地面に叩きつけた。


「ブモオオォォ!!」


「おおっ、デーモンミノタウロス。やっぱり、随分でかいんだね」


「いやいや、そんな悠長にしてる場合か! 突っ込んできたぞ、あいつ!」


 俺がデーモンミノタウロスの膨れ上がった筋肉や、体の大きさに感心していると、慌てた様子でガンナが俺の肩を揺らしてきた。


 ガンナが言う通り、デーモンミノタウロスは斧の一部を引きずりながら勢いよくこちらに迫ってきている。このままこっちに突っ込んでこられたら厄介かもしれない。俺はふむと考えてから頷く。


「とりあえず、ソフィアは俺の後ろに。ガンナはいつも通り突っ込んでいってよ。俺とモナさんで援護するから」


「こいつ相手に突っ込めってか……はぁ、分かったよ」


 ガンナは一瞬目を見開いてから、諦めるようにため息を吐いて長剣を引き抜いた。それから、ぐぐっと屈んでから勢いよく地面を蹴ってデーモンミノタウロスに突っ込んでいった。


「ちょっ、ちょっと! あの人、大丈夫なの?」


 すると、ソフィアが俺の服の裾を引っ張って、ガンナを指さす。まぁ、道中で戦ってきたどの魔物たちよりも強くて大きな相手だし、一人で突っ込ませるのは危険だと思うか。俺は微かに震えているソフィアを落ち着かせるため、口元を緩める。


「大丈夫だよ。ガンナは強いから」


 俺はそう言ってからガンナに目を向ける。すると、ちょうどデーモンミノタウロスがガンナに向かって戦斧を振り下ろしていた。俺は右手をデーモンミノタウロスに向けようとして、その手を降ろす。


どうやら、まだ援護は必要ないらしい。


「『光瞬』」


 ガンナはそう言うと、一気に加速してデーモンミノタウロスの戦斧をかわした。戦斧が地面をえぐり、その破片がこちらに飛んでくる。


「きゃっ!」


「おっと」


 ソフィアが悲鳴を上げたので、俺はこちらに飛んできた破片を軽く手で払う。すると、その破片は壁に叩きつけられて粉々に散った。


「ソフィア、大丈夫?」


「……あなた本当に人間なのよね?」


「いちおう、そのつもりなんだけど」


 俺が華麗に助けたというのに、ソフィアは眉をひそめて疑うような目をこちらに向けてきた。これは、ソフィアなりの『ありがとう』なのかもしれない。


天邪鬼変換するのなら、『あなた本当に人間なのよね?』は、『白馬の王子様なのかしら?』っていう感じになるのかな……可愛過ぎるな。さすが、メインヒロインと言った所か。


「戦いにくそうだね、ガンナの奴」


 モナに言われてガンナの方を見てみると、動き回るデーモンミノタウロスに苦戦しているようだった。


 デーモンミノタウロスって、体がでかいのに動きが素早いんだよなぁ。俺がそんなことを考えていると、モナがロッドを構えて続ける。


「どれ、足を奪ってやろうかね。『領域氷界』」


 モナがそう唱えると、デーモンミノタウロスの足元に青色の円が描かれた。そして、次の瞬間、その円の内側にいたデーモンミノタウロスの脛から下と周辺の地面を一気に凍りついた。デーモンミノタウロスは地面と足を固定されてしまい、動くことができなくなりその場に倒れ込む。


「ブモォォ!」


「おらぁっ!」


 そして、倒れ込んだデーモンミノタウロスに、ガンナが何度も斬り込む。着実にダメージが蓄積していく中、デーモンミノタウロスが踏ん張っているせいかモナの氷の拘束がひび割れていく。


「……長時間はもたないね」


「いえ、十分です」


 モナが歯ぎしりをした隣で、俺は右手をデーモンミノタウロスの両ひざに向ける。そして、進化を続ける『吸血鬼の腕輪』を意識して、自分で作った魔法を唱える。


「『魔力弾――マグナム』」


 すると、魔力を固めた大きめの銃弾の形をしたモノが六つ形成された。俺は、それを三つずつに分けてデーモンミノタウロスの両ひざにそれらを撃ち込む。しかし、デーモンミノタウロスは四つある腕を器用に使って、俺の撃ち込んだ『魔力弾』を戦斧で防ごうと振り下ろしてきた。その結果、戦斧と一つの『魔力弾』が衝突し、『魔力弾』が爆発した。


 カッ、ドドンッ!


「ブモォ⁉」


 デーモンミノタウロスは『魔力弾』が爆発するとは思っていなかったのか、驚きと爆発の威力でよろめいた。そしてその瞬間、残りの『魔力弾』がデーモンミノタウロスの両ひざに着弾した。


 ドドッ、ドドンッ、ドドッンッ!!


「ブモオオオオ!!」


 デーモンミノタウロスは泣き叫ぶような悲鳴を上げて、両ひざから大量の血を流した。おそらく、膝の皿は粉々になっていることだろう。……自分でやっておいてなんだけど、少し気の毒になるくらいのやられようだな。


「とりあえず、これで足は止まりましたね。今のうちに、倒してきちゃいます。モナさん、ソフィアをお願いします」


「あ、ああ。わかったよ」


 俺がそう言うと、モナは少し引いた表情のまま何度も頷いた。うん、多分倒し方が惨いから引いてるんだな、これは。


 俺はせめて早くとどめを刺してやろうと思って、日本刀を一本引き抜いてデーモンミノタウロスのもとに突っ込んでいく。


 すると、俺の接近に気づいたデーモンミノタウロスが俺に向かって戦斧を振り下ろしてきた。


 ……『魔力弾』で弾くか。


 俺がそう考えていると、俺とデーモンミノタウロスの間にガンナが滑り込んできた。そして、スキルを使って強化した剣でデーモンミノタウロスの一撃を弾く。


「おらぁっ! やっちまえ、ノーン!」


 俺はガンナの言葉に頷いて、ガンナの隣を通り過ぎてそのまま突っ込んでいく。デーモンミノタウロスはガンナに攻撃を弾かれて微かにバランスを崩していたので、俺はその隙を逃さず地面を強く蹴って、デーモンミノタウロスの首元に向かって跳んだ。


「これで終わりだ」


 そして、俺は日本刀をデーモンミノタウロスの首にぶっ刺し、そのまま力づくで頸動脈を掻っ切った。すると、斬られた部分から血が噴水のように噴き出していった。


 俺は血が噴き出ているデーモンミノタウロスを見ながら、日本刀についた血を払ってから鞘に収める。


 ……相変わらず、すごい力のある呪物だ。


 俺はそう考えながら、収めたばかりの日本刀をみる。普通の長剣なら、ダメージが入ってる状態であっても、いきなり首に剣を突き刺すようなことはできなかったかもしれない。ただ、それが呪物なら別の話である。俺は今二本の日本刀を腰から下げている。そのうちの一本がさっき使った呪物『村正』だ。


 徳川を呪ったと言われている村正だが、このゲームに出てくる『村正』は呪いをマシマシで作られた特級呪物になっている。一振りすればHPがゼロになり、その代償に爆発的な攻撃力を得ることができる。そんなぶっ壊れ呪物で攻撃されれば、いくら屈強な体をしていても太刀打ちすることはできないだろう。


「ブモ、モオ、オォ……」


デーモンミノタウロスはそんな声を上げてのたうち回ったのち、それっきり動かなくなった。そして、黒色靄のようなモノを出してから、素材と大きな魔石をドロップして砕けて消えた。


 そして、デーモンミノタウロスが砕けて消えたおかげで、部屋の一番奥の見えなかった扉が見えた。


 部屋に入る前にあった重厚な扉とは違い、ダンジョン内にある小部屋のような部屋の扉。その扉は、ゲームで何度も見た部屋へと続く扉だった。


『グリモワール大遺跡』へのワープゾーン……やっとたどり着いたな。


 俺はそう考えて、ドロップした素材を回収してから奥にある小部屋に向かうのだった。



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