第15話 メインヒロインとの遭遇
それから数年間、俺はガンナやモナと共に呪物を収集するためにダンジョンに潜り、着実に強くなっていた。
数年前、『聖なる雫』をモナに渡してから、モナも俺の呪物の収集活動に付き合ってくれていた。それどころか、呪物で商売していたこともあってか、少し前のめりだった。
今では二人とも後遺症の影響もまるでなく、街の有名冒険となっていた。俺はその二人のパーティのサポーターとして活動していた。
そして、そんなある日。俺たちはいつも通りダンジョンにいた。
「ちょっと、ノーン。ここ前も来たんじゃないのかい?」
「いえ、この階層の隠し部屋にはまだ行ってないはずです」
「隠し部屋? そんなところあったのかい?」
モナは俺の言葉を聞いて、ほぅっと小さく声を漏らす。俺はゲームをプレイしていた頃の記憶を頼りに、以前スルーしてしまった隠し部屋を探す。
確か、この階層はダンジョンのどこかの壁を登れるようになっていたはず。そして、下からは見えない場所に隠し部屋へと向かう道があったはずだ。
「あ、あったあった」
俺はそれらしき壁を見つけたので、さっそく駆け寄って壁をよく観察する。こうして近くで見ると、いちおう上れそうな踏み場があるんだな。荒い階段に見えないこともない。
でも、下から見た感じだと階段を上った先に何もないように見える。多分、一番上の踏み場まで行って、背伸びでもしないと隠し部屋が見えない感じの造りになっているのだろう。
「一見、ただの謎空間。当然、こんな場所をゲーマーが見逃すはずがないよね。よいしょっと」
「え? ノーン、ここ上るのか?」
俺が壁と同化しているような階段を登っていくと、それを見ていたガンナが間の抜けた声を漏らした。
「前にも言ったでしょ。こんな謎空間を放っておくことなんかできないんだよね」
「いや、上っても先に何もないぞ」
「大丈夫。この先にちゃんと隠し部屋があるから。少し待ってて」
俺はそう言ってスタミナが未定義なのをいいことに、ひょいひょいっっと登っていく。そして、その一番上に立ってからジャンプをして階段の先に何かないかを確認する。すると、不自然に壁がくりぬかれた先に、扉付きの隠し部屋があった。
「ビンゴ。よっと」
俺は隠し部屋があるのを確認してから、もう一度ジャンプして不自然にくりぬかれた壁の中に入っていく。
「え? ノーンが消えた?」
「本当に隠し部屋があったみたいだね。それにしても、なんであの子はあんなにダンジョンの知識があるんだい」
ガンナとモナはそう言ってから、俺に続く形で階段を上ってきた。そして、隠し通路に入ってきたガンナとモナは扉のある部屋を見て眉をひそめる。
「『ゴブリンの小部屋』ではないよな、これ。あんまり見ないタイプの部屋だ」
「そうだねぇ。魔物が住処にしていないか不安ではあるね」
すると、ガンナは長剣を引き抜き、モナはロッドを構えて臨戦態勢を取っていた。俺はそんな二人を見て、小さく首を横に振る。
「大丈夫、魔物はいませんよ。ここはただアイテムとか呪物が落ちているだけの部屋なんで」
俺はそう言ってから、目の前にある扉を押して開く。すると、そこには初めから明かりが灯されている部屋があった。
部屋の広さは『ゴブリンの小部屋』と変わらないが、『ゴブリンの小部屋』のように魔物が襲ってくることはない。あるのは散乱されているアイテムと呪物、それと布を被らされて拘束されている女の子――女の子?
「え、女の子が落ちている?」
「いや、この場合は落ちてるとは言わないんじゃないかい?」
俺はモナにツッコまれてから、改めて布を被らされている女の子を見る。高貴な人が着ていそうな質感の良い服と、両手両足を縛られて顔も隠されてるという状況。
どう見ても、事件性があるようにしか見えない。
俺はそこまで考えてから、ようやくこの子が何かの事件に巻き込まれていることに気がつき、慌てて女の子のもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
いや、縛られた女の子が部屋に倒れているなんてイベント、俺は知らないぞ。
俺は何が起きているのか分からなくなりながら、女の子の顔に被せてあった布を取った。
「え?」
そして布の下にあった顔を見た瞬間、俺は一瞬言葉を失った。
赤色のリボンで括ってある金髪ツインテールに、澄んでいる碧眼。その女の子は、ツンデレのテンプレートのような容姿をしていた。見間違えるはずがない。この子は『月夜に浮かぶ乙女の魔法』のメインヒロインの幼少期の姿だ。
「……シルヴァ・ソフィア?」
口を縄で結ばれているその少女は、俺の漏れ出た言葉を聞いて、親の仇でも見るような目で俺のことを睨んでいた。
いや、なんでメインヒロインがこんな所で拘束されているんだ? こんな展開、ゲームにはなかっただろ。
俺は思いもしなかった展開を前に、戸惑いを隠すこともできずにいた。
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