第三話 寝返り
「はぁ・・・」
首領が大きくため息をついた。
エルゼを見やる。
「億劫だねぇ・・・最初からヴァルスに任せときゃあ良かったわ・・・ヘイ!ヴァルス!」
校庭に上がる巨大な砂嵐。
「何かが・・・降りてくる」
紫が呟いた。
降りてきたのは巨大な獣だった。
「【疾風迅雷】!」
「・・・【彼岸〈惨烈〉】」
風と稲妻と雄蕊と雌蕊が獣を襲う。
「エルゼ!?」
一番驚いたのは首領だった。
「私が出した命令に逆らっている・・・もしや、【監視者】を自力で解いた?」
「フラッシュバックのおかげだよ」
首領は【監視者】で服従する前のエルゼの記憶を消していた。
だが、フラッシュバックという人類の本能的な事は変えられなかったのだ。
「【彼岸〈惨烈〉】」
雄蕊と雌蕊が首領の体中に突き刺さる。
「ぐっ!」
「【不可説不可説〈転〉】!」
首領に直撃した。
首領の目が光ったのが見えた。
巨大な爆発。校庭をえぐった穴がさらに深くなった。
吹き飛ばされ校庭に深々と突き刺さるエルゼ。
「エル・・・」
首領の目が再び光り、校舎が半壊する。
「【大検索】!皆!聞け!」
颯太が叫ぶ。
「たった今、シブヤで大爆発が起こった。詳細位置はまだ特定出来ない!見つけ次第報・・・」
首領の目が光り、巨大な光線が颯太を襲う。
「【具現化】!」
紫の右手が物凄いでかくなり、光線を受け止める。
「うっ・・・」
「【起死回生】!」
再生する腕。
「キモっ!」
紫が叫ぶ。素直でよろしい。
そうだよね。初めて見たらキモいよね。その気持ち分かるよ。うん。
でもね、花より団子っていうじゃんか。見た目を多少犠牲にしてでも使わなければ死ぬからね。
「ていうか!何で地球を襲うの!?」
「訳があるのだよ。貴様ら愚民どもには理解できないほどの最悪で・・・素晴らしい計画がな」
地球にはスキルより強い兵器というものがあるらしい。
瞬間移動スキルの持ち主から首領がそう聞いたのは三ヶ月程前の事だった。
彼のスキルを応用し、地球に幾つものカメラの様な物を設置した。
地球の兵器を利用し、自らの惑星もインフェルノからぶち壊す。
それが首領のビジョンだった。
だが。
首領は歯ぎしりをした。
エルゼに一度【監視者】を破られたら二度と術をかけることは出来ない。
【監視者】をエルゼに組み込んだ際の油断と奢りが仇となった。
さらにインフェルノを作り出したのはエルゼだ。
【空間】はエルゼの意志で消すこともできる。
つまり、今首領はエルゼにインフェルノにいる何万人ものアバーハイトの人質を取られた訳だ。
首領に残された唯一の手段は、エルゼを殺す事のみ。
「【空間】!」
格子状の空間に首領と潜在固有スキル保持者と転移者が送られた。
次回予告 第四話 シブヤ ~開戦~