【第3話】目覚め
「「うわぁああああぁあああ」」
彼は辺りを見回す。頭に巻かれた包帯の間から長くだらしなく散らばった彼の長い金髪が彼の頭の動きに合わせ、少し遅れて動いている。
(あれ ・・・ ここは)
ここが彼の部屋だと言う事にやっと気が付いた。朝なのだろうか、カーテン越しに光が差し込んでいる。雑誌や漫画が無造作に床に散らばっている。彼がいるのは慣れ親しんだ部屋のベッドの上だ。
(・・・ 夢か? ・・・)
彼はそう思い、再度辺りを見回す。するといつもと違った物がある。ベッドの後ろのタンスの上にキレイな羽根があった。それを彼は目にし、驚きと不安の混じった表情を作った。あの洞窟で拾ったあの羽根だ。しかし、持ち帰った記憶など無かった。
(夢ではない けど ・・・)
彼はそれに手を伸ばそうと体に力を入れるが、
「いてて・・・」
(どうゆうことだ ・・・ ?)
鋭い痛みが彼を襲う。
この状況に輪をかけて、現実と夢の境をあいまいにさせている。ふと彼は自分の手を見た。そこには包帯が巻かれている。それに彼は首を傾げた。また彼は左耳を触った。するとツンとした痛みが彼を襲う。それとともにゴワゴワとした感触が彼の手に伝わっていた。
「何が起きたんだ ・・・」
彼がそう言ってしまうのも無理がない。そんな状況である。
空調と部屋の外から響くいつも通りの車が通る雑音が青年である彼の小さな部屋に虚しく響いていた。
…。
『ガチャ』
ドアノブを回す音がこの部屋の静寂を破った。
彼はハッとその音の先を見る。見たこともない長身で細身の男がずかずかと部屋に入り込んで来ていた。
「よお! ぶよ男くん」
彼が反応する前に男はそんな暴言にもとれることを言ってきた。そのままこの男は狭い部屋の通路を歩き、ベッドにいる青年に近づいていく。その最中に長身の男はおもむろにポケットから菓子パンを取り出した。そしてその包装を器用に片手で開け、口に運ぶ。
「どなたでしょうか?」
ただでさえ訳がわからない様子の青年。そうなのにも関わらず、さらにもう一つ彼が思案してしまう対象、長身の男が一人暮らしの青年の部屋に無造作に出現していた。
(頭が痛い ・・・)
金髪の青年は頭を包帯の巻かれたほうの手、右手で抑えながらこの部屋に入ってきた男ともう片方の自分の腕を見た。左腕は無事なようだった。
「いや ありがとうでしょ 状況から考えてさ?」
男はむしゃむしゃと菓子パンをほおばりながら不機嫌そうな顔をベッドに向ける。
(あんぱんだ ・・・ じゃなくて この男が俺を助けてくれたのか?)
「ありがとうございます ・・・」
青年は半ば言わされているが、仕方なくそう口にした。本当にこの男があの窮地を助けてくれたのであれば、感謝の言葉を伝えるのは当然かもしれないと思っていた。
青年は視線を宙に浮かせ朧げな記憶を呼び起こそうとした。
(たとえ身に覚えがなくとも ・・・)
「そうだよ めちゃくちゃ重かったんだからね」
男はそう言い、不敵な笑みを浮かべる。
「ああ 座ったままでいいぞ」
青年はベッドにいるのが気まずくなり、そこから出ようとするのが、男がそれを止める。数秒の沈黙と男の目が彼に何か聞いてみろと訴えてきているように思えた。彼は例えそれが間違いであったとしてもここにいる男に甘え、疑問を投げてみることにする。
(おそらく おれを 助けてくれた)
「あなたがこれを その 巻いてくれたんですか?」
なんとなくこれを聞くのが一番先な気がした。
「そうだよ そんなことよりお前重たいんだよ ・・・」
男はそう言う割に目が笑っている。青年は本当にこの人が助けてくれたと確信した。男の仕草や雰囲気がそうさせたようだ。
青年は人見知りなどするタイプではない。こうやってはっきり言ってくれる人は彼にとって接しやすい部類の人間ではあった。
「でさ ・・・ おまえ なんであんな所 いたの?」
男がそう口にした後、半分ほどになったあんぱんを一気に口に放り込んでいる。
「えっとピークックの羽根を探して いまして ・・・」
「ぶはぁっ げっほ ・・・ ぉぇ」
男は青年が口にしたそれを聞くと目を大きくし、あんぱんの咀嚼物で喉を詰まらせかけていた。
男は胸をトントンと叩き喉に詰まったあんぱんをどうにか流し込んでいる。
(何かおかしなことでも言ったか?)
青年は男の苦悶する姿を見て目を大きくし、そのまま宙に視線を投げた。
「ぶは おまえ相当バカだな!」
「あんな所に居るわけないだろ もっと近くにいるだろうによ」
男は涙目になりながらも、そう口にしている。やっとあんぱんが男の胃に落ちたようだ。
「はい でも探しても見つからなくて しょうがないので自転車を走らせているうちに あそこまで行ってました」
青年は嘘を話しても意味がないと思い、正直にそう言う。
「・・・ そうか ・・・」
男は顎に手を当てこちらを鋭く見つめている。
青年も男を観察した。
男の眉と目の間は狭く掘りが深い、その顔立ちのせいでパッと見るだけだと睨まれているように思ってしまうが、その目の奥からにじみ出る優しさと悲しみに青年は気がついた。
男は長身、細い体に程よいサイズ感のジーパンとジージャンを身に纏っていた。髪の毛は短髪で灰色、顎髭があり、1、2センチに切りそろえられている。年齢は40代と勝手に青年は推測していた。
顔立ちは青年とは違い、鼻もすらっと高い。別の国出身であることがその見た目からそう彼は思った。
(どうゆうことだ ・・・ 謎すぎる ・・・)
しかし不思議と、言葉こそきつめであったが、その男に青年が求めていた安心感がその男にはあった。