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【第189話】箱庭 空を踊る その4

「よし!」


 翼が言う事を全て聞き入れてくれる。その為かこの暗い空を飛ぶのにもう十分に慣れてきた。いつの間にかすっかり日は落ち、爛々と輝く月の光と海がそれを照り返している。


 眼前に鶏を下から見たような姿の「とり」がいる。流石にずっとそれを拝んでいられるほどパインの性格は悠長ではない。


「えぇーい! これでも食らえ!」


 奴がそう言うとまだ自分等を追ってきている巨人の指から何かが射出してきた。


(な! なんだあれは!?)


 後ろを振り向き観察すると、それは鉄でできた長く大きな筒状の塊。火を尻の部分から噴出しながら飛び出してきた。ミサイルである…。


 いい加減そろそろ終わりを見たい…。


『シュンシュンシュン!』


 それが3発パインを追うようにして飛来してくる。


(でもまぁ ・・・ しょうがないし 丁度いいや)


 確かに終わりが見たいのは山々。だがせっかくこうして空を飛べる事なんて現実ではできるはずもない、楽しまないと勿体ないのかもしれない。それに腕試しにも丁度いい。


『シュン!』


 旋回を交えて、避ける。


(いける!)


『シュンシュン!』


 避ける避ける。


 しかし、ミサイルの追尾はそれで終わらない。遥か先でUターンしたのか今度は目の前にそれが迫ってくる。


 タイミングを見計らい、それを。


『カチッ!』


 ミサイルが自分の真横で尻の火を消し止まったのが一瞬目に映る。


「 ・・・ なっ!」


『『ドドーーーーーン!!』』


 避ける寸前で爆発!爆風によって吹き飛ばされる、が。


(どうせそうだろうと思った ・・・)


 鉄板を持ちながら腕でガード、爆発の衝撃は宙に浮いている事でそこまで深刻では無かった。


(あと2発 ・・・)


 チラと自分を見る奴の顔が「ギョエ」と言っているようだ。当たり前だ、こんな攻撃でダメージを食らう体では、もう…ない!


…。


 他2発も同じようにして完封、さらにその最後の爆風を活かして奴に一気に迫る!


「「うぅーらぁああああ!!」」


「「あああああ!!!」」


『ザシュッ!』


 鉄板を剣にして奴の短い豪華な尾っぽを半分ほど切り落とすのに成功!やっと手が届いた。


 空中で羽毛と赤い鮮血が飛び散る。それを浴びながらも追撃を開始!翼を用い飛行速度を上げる。


「なっ!」


 しかし、奴も奴。速度を落とすと鷲のような両足でパインを掴み。


『ドガ!』


 片足でパインを蹴り飛ばしてくる。それが正解、飛ばさなければ全身バキバキに折ってやろうと思っていたからな。


「しつこいです! 少し待ってくれませんか!!?」

 奴がそう言う。


(待てって? 何をだよ こっちはとっととこの場所とおさらばしたい)


『ピ』


 前を飛ぶ奴からそんな電子音が響いた。恐らくまた奴は何かを呼んだ。今度は何がお出ましだ…。


 パインはもう大分この展開に慣れてしまっていた。


「お前こそ そろそろ 俺とやり合うのやめたらどうだ?」

 焦りを見せる奴に煽りかけてやる。


「ふっ ・・・ 別にそれが目的じゃありませんけどね」

 そう奴が言う。


(確かに ・・・)

 奴の目的は自分を取り込む事この戦闘が全てじゃないのはなんとなく分かっているのだが、果たしてそれをして何になるというのだ。


『ゴォォォォォーーー』


 少し考え事をしていると、遠くの空から振動を帯びた音が鳴り響いているのに気が付く。


『『ビシューーン!!!』』


「なっ!」


 物凄い早さ。恐らく5、6mの大型の鉄の塊が自分のすぐ横を飛行していった。なんとか避けれたものの、かなりの速度。先のするどい鉄柱が大、小2つの薄い三角形の翼の真ん中を貫いたような形。よくわからないが、とにかく早い鉄でできた機体のようだ。


「とりあえずそれと遊んで下さいね!!」


 奴がそう言う。


(そんなん ・・・)

 遊ぶといったって、あの速度では流石に追いつくのは無理だ。


( ・・・ )


 よって、やることは変わらない。


『バササ』


 翼を広げ奴を追う。


「「しつこいでっす!! ちょっと!!」」

 奴がそう叫ぶ、あんなもの出そうが関係ない。全力で奴の背を追う。


『ビュン!!!』


 自分目がけて機体が体当たりしてくるが、幸い反射神経は良いもんでうまく旋回して躱す。奴も一緒になってあの機体が通った後の突風で空を泳いだ。


 あの機体の突撃は攻撃というより、鬼ごっこに一種のアトラクションを交えた物にしか思えない。


「「うっりゃあああ!!!」」 「「あああああ!!!」」


 全力で羽ばたき、奴の千切れた尾っぽに片手をかける!鉄板は脇に挟んでおいた。


「「頼みますよぉ!!!」」


 奴が無線のようなもので誰かに何かを伝えている。


「「ふぎっ ふぁっ! はっ!」」


 片手と歯の力で奴の体を羽毛を引きちぎりながらよじ登っていく。


『ゴォーーーーーーーー』


 後ろからあの機体の音が聞こえる。だが、こうして一緒になっていたら何もできま。


「「いっ!!?」」


 空高く上った月の光が一瞬だけ影を下に落とした。それで直感が働いた。おそらくあの機体は真上にいる!


 そしてそのまま自分目がけて滑空を決めてくる!!に違いない!!


 「とり」もろとも串刺しにするつもりか?いやそんな事普通させないよな…。今自分は丁度奴の背中のど真ん中まで這いあがっていた。


「「あっれっ!!ええええ!!」」

「 ・・・ 」


 奴もパインに少し遅れて叫んでいる。なんだ、正しく連絡を入れていなかったのが仇となっているようだ。


 空を見上げると、点になったその機体が大きくなり迫ってくるのがわかった。


(片手で ・・・)


『ヒュン!』

 上空から風を切る音が届いた。


「「十分!!」」 「「ああああああああ!!!!!」」


 奴が騒いでいる。パインは両足で奴の背を洗濯ばさみのように挟んで逃がさない。月に片腕を上げ、鷲掴みのポーズを決める。


(ここは 心の中 ・・・ どれだけ早かろうが どれだけ大きかろうが ・・・)


 パインは目を閉じそう心で呟いた。


…。


(今だ!!!!!!)


『ヒュン!』 


『『ガッ! ガガガガガガガガガガガガ!!!』』


「「うおおおおおおおおおおおおおおおああああぉぉぉっぉ!!」」

「「あひゃああああああ!!!!」」


 機体の先っぽにパインの手が触れる。鉄のそれを汲むようにして腕を機体の内部へと滑り込ませた!痛いが、耐えられないほどではないぃ!!


「「あああああっ!!」」


『ギャアアアアアアア!!!』


(よしっ!)


…。


 うまく行った。カッと目を開き状況を確認する。自分の腕は大きな機体の先っぽから中央にかけて粘土につまようじを通らせたように切り開かれ、それが止まった部分を右手で鷲掴みしている。両足はまだ奴の背を挟み込んだままだ。この機体の直撃は自分の右腕がそれを掴んだことで上手く躱していたようだ。


 やってみなきゃわからない!やると決めたらやってみればいいんだよ。そして上手くいけばガッツポーズで喜ぶとな!


 また奴と機体の中の搭乗員が情けなく叫んでいるのがわかった。つまり…上手く捕まえた、自分の何10倍もある鉄の塊を。空中なので質量はよくわからないが、言うほど重いもんじゃない。自分がおかしいのは前からだ!


「「まだまだぁ!!!」」


 声を張り、片手に捕まえた大きな機体、両足で掴んだ「とり」。それを自分のヘソを軸に大きく回転させる!


『ゴォォォォォォ!!!!』


空中でパインを中心にして「とり」、機械の3体がクルクルと回転する。


「「ひぃあああああ!!」」 『あぎゃああああ!!』


 「とり」と機械に乗る乗組員の両名が宙を回転させられ悲鳴を上げている。


 パインは奴を掴む足を緩め、また機体を掴む右手も解いてやる。


(っこれで!)


…。


『シパッ!!』


--------------------------------------


【水平線 ・ 斬】


 あの前に会った機械から拝借した鉄板の端を両手の順手で持ち握りつぶす、左脇にそれを抱え力を瞬時に蓄え…。

 反時計回りに鉄板を刃物に変えぶん回す!!

 水平線は真夜中なのにも関わらず、くっきりと形を残す、そして鉄板が宙を旋回し月の光を綺麗に反射させた!


 単純な攻撃だが、パインの全身の筋肉を持ってすればそれは音速を超えた速度の回転。それに鉄の重量が生み出すパワーはどんな物体でも両断してしまうだろう…。


--------------------------------------


「「わっ ・・・ あれ?」


 あれが転げ落ちる前にそう奴が言った。


(くはは ざまぁない ・・・)


 煙も上がらずに2等分され落下する機体と、「とり」の首。


 奴の首はこちらを見ながら口をパクパクと動かしている、その口が何を言わんとしているのかは音が出ないのでわからなかった。


 (ふぅ ・・・)


 長かった。


 残ったのは宙に漂う火のついた無数の羽毛。それが煙をたて嫌な臭いを上げている。


 しかし…。


『バサバサ』


 自分と向かい合うように残った翼で宙に浮く奴の体、落ちていかない。不気味だった、後味が悪い。


 だが、流石に首が無いんじゃ何もできまい。早いとここいつの元から離れたいものだ。次があるなら次でいいし、終わりならとっとと現実に戻して欲しい。


 そう思っていたのだが…。


( な ・・・ )


 奴の体の首から血が吹き出しながらもそれは、


「きみ こっちにおいでよ ・・・」


 パインに向け話をしてきていた。

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