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【第182話】箱庭 空 その3

(うひゃあ ・・・)


 巨人の動きはゆっくりだった、そりゃ大きいから…。


 膝や肘のようなものは見当たらない、関節がないようだった。どれほどの重量なのか想像してみたが、途方もない光景に圧倒され思考すること自体バカバカしい。


( ・・・ )


 そいつがゆっくり投げた網についていたヒモを絞る。すると網は袋状に形を大きく変え、その網の下でキレイに咲く花火をその内側に捕らえていった。


 パイン達はそれをどうする事もできぬまま、ただ見守ることしかできなかった。


「助けないと ・・・ どうするの?」

 そうクルートに尋ねた。


「助ける? ・・・ 助けてどうするんだ?」

 クルートは逆に問いを投げかけてきた。


「どうすることもできないけど」

 そう言う。


 わからないけど。あんな不気味なのに捕らわれてしまっていたらいい気がしないのは当然じゃないか。


「もうすでに捕らわれている 今見てるのは「現象」そのもの」

「結果を再生しているのに近い ・・・」

 クルートが補足をつけ足してくる。


 確かにそうなのかもしれない。


「だったら ・・・ なんでわざわざそれを見る必要があるの?」


 そう彼に問いかけてみる。自分達は無理やりこの映像を見させられているのか?


(いや ・・・)

 多分だけどそうではないと思った。もし無理やりであれば今までここで起きたことのほとんどがあの「とり」にとって不都合な気がしたから。


「俺も詳しくはわからない ・・・ だがこうしてお前と俺で奴の中で抵抗できているんだ」


「それに 俺1人でこの空間を移動すると必ずあいつが邪魔をしてくる」

「つまりやる意味はあるってことだ」

 そうクルートが言う。


「それをしたらどうなるの?」

 単刀直入に聞く。


「お前 ここが現実ではないのは分かっているんだよな?」

「うん 」


「現実に戻りたくないのか?」


(っつ! ・・・)

 クルートの問いに答えようと現実を思い浮かべようとすると激痛が走った。

 戻りたいに決まっている。だが、それを考えると頭の中で何かが邪魔をしてきてそれ以上思考することができない。なぜだ。


「ふん 母親にも会わせてやって あとなにが必要なんだお前は」

「わからないよ ・・・ 」

 そう会話する。本当にわからない。


「とりあえず あいつの中にいる元凶のような奴を片っ端から沈めて行こう それでだめなら次を考えるぞ」


「分かった ・・・ ありがとう」


 少しめんどくさそうにクルートはそういうが、自分をちゃんと見てくれているその感覚は悪いものではなかった。


「あいつがお前をどう利用するのか知らんが 逆に利用してやろう 焦ってるぞ奴は」

 そうクルートが言うと翼を大きく上下させ、上へ上へと上がっていった。


 巨人はこちらの動きは見えていないのか、網をまとめる作業を続けている。


…。


 かなり上まで上がってきていた。先の水平線は丸みを帯びていた。


「見ろ」

 クルートがそう言う。


 その言葉の差す方向を見る。


 巨人の顔が見えた。ただの丸い頭は首が無いのか胴体からそのまま丸いのが半分だけ突き出ている。鼻はないように思う、小さな目とただの空洞の丸い口。


 その巨人がまとめ終わった袋の先端を口に当てる。


『『ビョォオオオ~~~~~~~~』』


 そんな低い音を立て袋の中身を吸い込んでいるようだった。そして、首元にも縦長の切れ目が現れ白い雲のようなものを吐き出している。空気の流れを作っているようだった。


 そして…。


「な なんだあれ!?」


 パインは巨人の目の隙間から小さな点が湧きだしている事に気が付いた。そしてそいつらはこちらにかなりのスピードで飛んできているようだ。


「あれだ あれが俺の飛行の邪魔をしてくる お前がいればなんとかなるかもしれん!」

「いつもはここまでで断念していた」


「えっ!?」

「とにかくあれらをどうにか処理するぞ!!」」


 そう会話するとクルートは小さな点から逃げるように背を向け、それと距離を取る。


「つまり ・・・ 俺がここでどうこうしなきゃなのはあれってことね?!」

 彼の首を急いで掴み、要点だけを再度聞いた。


「そうだ」

 彼は短くそう返してきた。


(そうだってよ ・・・)


「どうすればいい?」


「 ・・・ 」


「おい!」

「とりあえず様子見だ」

 そう会話した。


…。


 後ろを振り返ると確かにそいつらが群れを成して追ってきている。数10匹かあるいはもっといるのかもしれない。白い鳥だと思う。カモメか鳩かどちらかな気がした。


 そいつらが今度は上に上がり、斜めに降り、加速しながらこちらに迫ってきていた。


「「避けて! 来るよ!!」」

 クルートにそう叫ぶ。


「おっけー!」

 様子見か…。どうするってのか。得物すらない。あるとすれば拳くらいなものか…。


『『ビュン!』』 『ビュンビュンビュン!!!』


 鳩のようだった。群れが自分等に狙いをつけそのまま突っ込んできた。


 クルートがどうにか身を回転させそれらを避ける、も。


(ったぁ …)

 一匹が自分の腕を捉えていた。深くは無いがかなりの脅威であることは間違いがない。だって…。


 どうにかできる気がしない…。


 腕一本でクルートの首を掴み、もう片手でどうにかするって?


 いやいや…。


『ビュン!』 『ドシャ!』


「「ああぁああ!!」」


 飛んでくる鳩を掴もうとした。しかしやはり無理だ。右腕を大きく損傷させてしまう。


 かなりの速度、そして明らかにこちらを落とそうといった勢いを彼らから感じる。


「まずいよ ・・・ こいつら」

 そう言い、後ろを振り返る。


「だっ大丈夫か!?」」


 クルートの背には2羽、鳩が胴体を彼の身に半分以上埋めており、そこから血しぶきをあげさせていた。


「問題ない」


 そう彼は言うものの、2回ほど交えただけでこのダメージを負っている。捨て身とはいえ彼ら全部がこっちに突き刺されば「問題ない」訳ない。


「下!下! 逃げるよ!!」」


 クルートにそういい、速度を上げさせた。


…。


 少しだけ距離を取ることに成功。大分高度を下に下げた。


「「ちょ ちょっと 前!!」」


 そう叫び慌ててしまう。


 今度は別の物が眼前に迫ってきていた。いつの間にか巨人がパイン達に向けて放っていただろう巨大な網があったのだ。


「「うあぁああああ!!」」 「「うおぉおおおお!!」」


 その網にぶつかってしまう。自分らもこの群れも一緒に飲み込むつもりだろう。


「「クルート! 刀になって!」」


 そう叫び、一瞬で反応した彼が刀に姿を変える。


 網に引っ掛かりながら刀を手に持ち、


『シュパッ!』


 コの字に切れ込みを入れ…。


 開けた穴から脱出!!


『『ビュオオオオオオオ!!!』』


 パイン達目がけて群れが襲い、パインが開けた穴を通過。その周囲に何匹かの鳩が通過できずに網目に捕らわれ、もがいている。


 コの字に切り裂いた網の端をどうにか手で掴みやり過ごすことに成功した。


「「クルート! カラスに!」」

 そう叫び網を持つ手を放す。


『バサァ』


「よし」

 再びカラスの姿に戻った彼の背にパインは乗り、そう独り言を言った。


 解決の糸口が見えた気がする。


 群れの場所と未だに網に引っ掛かる鳩を交互に見た。

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