【第178話】箱庭 農園 その5
『ットタ』
ニストンの全身の力が抜け落ち、ふらつくようにして息の絶えたサージュと共に燃え盛る大地に横になる。
( ごめんなさい ・・・ ごめんなさい )
自分がやったことがフラッシュバックし彼にすがるようにして謝る。
こんな過去があったなんて知らなかった。彼は…。
彼女とお義父さんとただ一緒に入れれば良いと決めていた……。
何故、何故このタイミングなんだ。パインとか名乗ってた奴、あいつはただ命のやり取りを楽しんでいただけだ。
(ふざけっるな!)
…。
『落ち着け ・・・』
(うるさい!! ああああ!!!!)
気が動転しているパインをあの青年が諭すようにそう言ってくる。
「生き返そうか?」
(!!?)
突如としてニストンではない、果たして「パイン」でもない何者かが彼の傍でそう声を露わにして喋りかけてきていた。
「誰だ!?」
ニストンはがばと身を起こし声の主と目が合う。
(こ ・・・ こいつは)
声の主はあの洞窟の壁面にそって立っていた石像のような見た目をしていた。だが、それよりは大分小さい大人の胸高の身長、体は後ろの炎が透き通って見える。顔のパーツは全ては点の様に小さく、喋るその声も小さく事ものように高いきがした。だが頭に響くようにきちんと入ってきていた。
「その女 ・・・ 隣のその男も ・・・」
そいつは続けてそうニストンに言ってきた。
「そんなこと できるわけ ないだろっ!?」
ニストンは大きく2本の腕を上下に動かし泣くようにしてそう言った。もはや彼は彼自身が錯乱状態に陥っているのを自覚しているのか動きが大げさになってしまっている。
「できるよ ・・・」
「 ・・・ ふっ ふはは」
ニストンが木にもたれ掛かり、上を見上げ、笑った。
「どうやって? これでも僕は物知りなんだけどな ・・・ ふっははははは」
木々からは明るい星が枝の間から光り、こちらに顔を覗かせていた。
「こっちへ 来い ・・・」
男が彼の細く長い腕をニストンに伸ばした。それは触手のようになっており、腕の先の手は関節が無いようだ。細いまま3股になって指の形状を示している。先の部分が一部不透明になっているのが分かった、するどい爪が触手の内側に隠れているようだった。
(よせ ・・・ こいつは)
パインは少なからずこいつの悪意に身に覚えがある。むしろこいつ…。
「僕と一緒に世界を救おう」
異形の男がそんなことを言う、だが信用する彼ではないはず。
(おい ・・・ !)
「ふはは! 夢でも見てるんだ これは ・・・ 悪い夢だよね?!」
ニストンはそう笑い、両手で顔を覆った。
「夢? そんなものは無い さぁ 本当の世界 君は見たいんだろう?」
「見せてくれるのか?」
「勿論 さぁ ・・・」
男の透明な体の内部で砂のような小さいものが脈打ち、主にニストンに差し出した腕にそって流れていた。
(やめろ!!)
「ほら 手を かざして ・・・」
男とニストンの手の平が合わさろうとしている。半信半疑のニストンは男をからかうようにして少しじらしていた。
『『今だ!!』』
あの青年の声が響く。パインもそれを待っていた。
『ッタン』
彼らの手が合わさるその瞬間。その前にパインはこの焼ける大地に足を着けていた!
そして……。
その音と同時に刀になった青年を異形の男の眉間に刺しこんだ。
「「っな!! お! おまえ! なぜここに!!」」
ニストンは自分を見て驚く。そりゃあそうだ…。
「「何をした!!!?」」
「ごめんなさい ニストンさん ・・・」
「「おい! ・・・ 」
彼に自分の声は届いていないようだった。ただ、謝るようにして彼の目を見つめた。
「おい ・・・」
『オイ』
『・・・』
ニストン。それにサージュ、お義父さん、そして透明な生物はこの灼熱の風を浴び、砂が飛ぶようにして消えていった。
…。
『よくやった ・・・』
青年がそう伝えてくる。
「うん ・・・」
彼に静かにそう返事し、「歩いた」。
『次に行く ・・・ おい!!』』
パインは青年の声を無視、この灼熱の大地を大股で走る。青年はまた別の場所でタコを潰したかったようだが…。
『『よせ!!』』
青年は焦っているようだった。だがどうしても「それをやらなければ」腹の虫が納まらない。