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【第16話】修行5日目 反動の処理

 この季節は雨が少ないそうだ。毎晩、手が届きそうなほどの距離で大小様々な星が大きな空を覆っていた。


 パインの手が握れるようになるまで、3日もかかった。だがアッシュが言うには、異常なほど治りが早いそうだが、そんな事を気にする余裕は彼には無かった。


 そして今、こうして2人で夜の川辺で焚火を囲んでいる。パインはめらめらと揺らめく火を眺めながらこの3日間の事を思い出していった。


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 この3日間は午前中に身の運び方の練習、それと腹筋を鍛える(おそらくそう言う事だろう)謎の特訓を受ける。

 その謎の特訓は、木に吊るされ下っ腹にアッシュのパンチを受けるという訓練だ。丹田という場所も鍛えると言っていた。


(ありゃ 彼の趣味というか遊びだったきがする ・・・)


 アッシュの放つ拳が自分の嗚咽と悲鳴を森中に轟かせてしまった。


 そして午後からは地獄の丸太運びだ。


 手が使えなかったので体にロープを巻き、アッシュが伐採した木をテントまで運ぶというものだ。森に入って10分ほどの距離からの運搬でさえ最初は1、2時間掛かっていたと思われる。不安定な地面が丸太の行く道を遮っていた。それに対処するやり方が中々に難しかったのを思い出す。しかし、最終的に体がそれらに対処しだしてきたと思う。


「おら もっと早く引けえ」


 アッシュは丸太にまたがり自分を馬か何かのように扱う。


 それら修行(?)の成果か、今では歩くスピードとほぼ同じ程度の早さにまで速度を上げることに成功している。


--------------------------------------


『むしゃむしゃ ・・・』

 しかし、この肉は美味い。


 パインはがつがつと自分たちで狩ったあのイボアの肉に貪り付いている。直火で焼かれたこの肉は臭みこそ多少あれど、塩さえあればどれだけでも彼の胃に落ちていく。その肉には多少硬い所もあったが、それが彼の食欲を止める訳にはいかず。彼は丸太を引くことで顎の力も強くなったんだと思いこみ、難なくそれを嚙み切ることができていた。


「俺もうその肉見るのも嫌なんだが ・・・」

 アッシュはどこから取り出したのか、あんぱんを食べていた。

(まとめ買いでもしてんのかな ・・・)

「そうですか? すっごくおいひいです ・・・」

 アッシュのあんぱんの件はさておき。


 パインの手からは包帯が外れ、イボアの肉をしっかりと持って口に運ぶことができていた。そして彼のむっちりしていた上半身は腹が引っ込み筋肉が付き始めていた。彼はそれを鏡が無かったので確認することはできていない。


「大食いの番組とかよ それですら苦手なのに 目の前の男がそれしてるとなるとなんか憂鬱だわ ・・・」

「あ え? すいません」 『ごぎゅっ』

 アッシュのパインに対する悪口はパインの口の中で行われていた咀嚼と飲み込む激しい音で返事がなされている。

『おえぇっ ・・・』

 アッシュは思わぬパインの反撃にダメージを受けていた。

「すいません ・・・」

 肉に夢中なパインにとってそれに気を使っている余裕は無かった。

「いや 食べれるなら食べたほうがいいよ まだ 多量に ・・・・」

「え?」


 嘘だろ、と言わんばかりの表情のアッシュ。


 彼ははまだあるはずと思っていた。その肉は干し竿にはかかっておらず、パインのパーカーがゆらゆらと風に揺られているだけの景色しかそこにはなかった。


「無くなったら普通言うよね? つかあれ 6、70キロはあったよな ・・・ お前化物かよ」

 アッシュは本気でそう思っていたはずだ。

「す すいません」

(まぁ 確かにな ・・・ よく食えるな俺 ・・・)

 自分の異常さに今になって気が付いた。

「明日また奥まで入るぞ ハンマー握れそうか?」

「は!! ・・・」

 アッシュがそう口にした後、すぐさま下に落ちている丸石を取り、それを強く握りしめた。

(痛くない ・・・ !)

「いけます!」


 パインの握った丸石は小さく何個かに砕けていた。

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