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【第155話】ドンジのお話 教団潜入

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『この世は仮初の世界 ただ生きただ死ぬ 何もわからぬままに』


 荘厳な音楽が流れる中、心地よい1掛けのソファにドンジは座っている。

 大きなスクリーンに白い霧がかった背景に黒い人影が映し出され、その人物がそう語り掛けるように喋っている。ドンジの他に6名ほどその部屋にいた。


『我らと仕事をせよ』


 広大な自然の景色、活き活きとした動植物の生の営みがスクリーンに映し出される。


『我ら然迎会の仕事こそが救いの道』


 それらの声と共に雑音が混じっていた。



「本日はブラックパディ支部に来ております 教団の方にインタビューをしてみますね!」 

「Aさん 調子はどうですか?」


 場面が変わり、工場のような所で働く人々をインタビュワーの綺麗なお姉さんがそう白装束の人に質問している。


「肌のツヤが良くなりました 何をするにも楽しくてしょうがないです」

 50代かそれくらいの女性がそうお姉さんの質問に答えている。



『何もしていない人々と我々では大きな差が生まれる』

 また白い背景に戻り黒い人物がそう言う。


『我々は元の世界に帰るべき存在 それをする方法はただ一つ』


『我らと共に業を受け入れ 徳を成す仕事をしなければならない』



…。


 ソファでその映像を見る人から「ワァ」だとか「アァ」だとかそういう声が次第に上がってきた。なんだかよくわからない薬品の匂いがその部屋に充満していた。


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 俺はあの後、リントにもらった名刺の電話番号にかけた。だがその電話は何故か電源が入っておらず繋がらなかった。そして書いてあった住所に行った。


 そこは「然迎会」の事務所だったんだ。名刺を見せ「リントにもらった 入会させてくれ」、そう言うと事務所の連中は慌てたようにして自分を奥まで案内してくれた。最初は不動産関係で悪さをしているものと思い込んでいたが、それより更に悪いことをしているとその時思ったのを覚えている。


 自分の勘はこうだ。リントは裏でこいつらと何か悪さをしている、そうに違いないと。諦めた自分の人生がそれを暴くことでやっと戻って来たような感覚があった。


 リントはかなり上層部にいるようだった。書いてあった事務所のどの教団員よりも偉いポジションだったのは彼らの動きですぐにわかった。実際役所でもほぼトップなんだ、当然といえば当然だろう。そして自分が元冒険者稼業をしているのもそこの連中はすぐに分かっていた。自分もその人らに見覚えのある奴が何人かいたのを覚えている。


「すぐにでも入会できますが 上と連絡しましたところ一応このビデオを見ていただきたいのですが」

「よろしいでしょうか?」


 そう事務所の奴に言われ、さっき言ったヘンテコな映像を見せられたんだ。


 然迎会にとってこの町の状況は好都合だったんだろう、俺の他にも一般人で入団希望者が列をなしていたよ。CMまで打ってたからな。そのどの連中も前の自分みたいに生きる目標を失ったような連中だった。目を見れば大体分かったよ。


 自分はいきなり結構な役職を任されることになったよ。組織でいうところの「課長」くらいだな。


 そこから潜入活動が始まった。


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「えっ? どうしてそんなすぐに?」

 リンデルが驚いたようにそう聞いてくる。いきなり「課長」クラスだなんて普通はありえない。


「多分リントが失踪して教団も焦っていたのだろう、それに入団希望者が多かった。リントの知り合いとなれば話が早い。あまり気にする人らはいなかったな」


「それだけで ・・・・ ?」


「自分でいうのもなんだが 俺は ・・・ すぐに信用されちまう」


「た ・・・・ 確かに」


 彼女とそう会話した。


(まぁ ・・・ そう思うよな)

 自分のその性質に彼女も何か心当たりがあるのかもしれない。


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 あのビデオを見た後は、早速その「仕事」って奴を研修と称してやらされた。


 ひどい仕事だった。


 どこのどいつでどの生き物だか獣だか分からないが、その血抜きを終えた臓器を切り刻み、「ある部位」を容器に入れる作業だ。


 その臓器の一部をどれだけの量を納めるかでインチキくさい奉納制度が定められていた。「トクトクエイト」と呼ばれていた。


 それは下から順にストーン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、レジェンド、ミシック、ウガカンダって階級になっていた。


 自分は正直そんなことしたくなかったが、やらないとおそらくこの研修を終えられない。吐き気を抑えながらもテキパキそいつをやってやったんだ。しかし、他の連中ときたら楽しそうにその仕事をやっている様子だった。俺は冒険業をしていたから慣れってのもあるが、一般人がそれを普通にできるとは到底思えない。


 そいつらは目の光を失っていたよ。


 そしてその理由もすぐに分かることになった。


「すいませんでした 一応全員この研修しておりますので ・・・」


 それが済むと自分はこの事務所で一番のお偉いと面談と称して、すぐにでもやってもらいたい仕事を言ってきやがった。


「新設された事務所で教団員達に仕事を与えてください うちのも行かせるのでご心配なく」


 そう言われ、あっという間に事務所のトップに君臨したわけだ。


 自分で立ち上げた冒険者業の事務所とは打って変わって豪勢な作りだった。随所に「ウガカンダ様」の肖像画と不気味なシンボルマークが金で装飾されていた。


 そこでやる仕事も簡単なものだった。ただヘンテコな上下繋がった白いローブを着て机に居ればそれでいい。指示系統も簡素化されており、一言二言で仕事は終わりだった。


 それが幸いして、色んな情報を得ることができた。


 まずはあの映像だが、音声の他に本当に薬品をあの部屋に噴霧していやがった。それが脳神経に働きかけるようであんな仕事をしても耐えられるくらいに「気持ちよく」なる仕様だった。なんで俺がそれが効かなかったかは謎だったが、成分が「体力剤」に似ていたことが一因だと思う。普段からそんな高価な飲み物に手を出す一般人はほとんどいない。


 音声も細工がしてあったようだ、ウガカンダ様直々の洗脳ボイスだ。


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「やっぱり あのトリが教祖で ウガカンダ様なのね ・・・・」

 リンデルがそう言う。彼女の顔には憎しみの色が幾重にも折り重なって見えた。


「そうだ ・・・」

「なんでドンジさんには効かないんでしょう?」

「それは 今もって謎だ ・・・ 」

「何か秘密がありそうね」

「そうだな ・・・ 」

 そう会話しグラスの酒を口に運ぶ。


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 「トクトクエイト」での階級アップを教団員達は楽しそうに競争して仕事していた。だが実際にはそんなものでもない、ただの飾りだ。


 一般人達は基本プラチナを目指す。はっきり言って、毎日その仕事をやっても20年以上はかかる量だ。しかし、教団はその事を上手い事言って躱していた。


「今世で積んだ徳は来世でも受け継がれる 我が支部の長はみな前世でもこれをきちんと行っていた」


 そう嘘をついてたんだ。実際自分が課長クラスになってるんだ、いきなり階級はプラチナになっていたよ。笑えるだろう。


 あの洗脳も入り、そんなこと一々疑う人はいない、例外を除いて……。


 そう、例外が出てくると自分の本当の仕事が回ってきたんだ。


 どういう理由か洗脳が解け疑いを持つ人が出てくる。そいつを軟禁させ、あのトリの強めの洗脳ボイスを聞かせることになる。それをされると基本的に皆と同じようにまた洗脳される。最初それをやった時は気が引けた。2回目からは嘘をついて逃がしてやった。


 最終的には「始末」まで上からお願いされてだ。


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「ひどい ・・・・」

 リンデルが吐き捨てるようにそう言う。


「やらなかったぞ ・・・ それくらいの細工俺ができない訳がない」

「でも ・・・・ 疑われなかったの?」

「疑われたさ ・・・ それがまた良かった まぁそれは少し待ってくれ」


 そう会話し話を続ける。


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 その内臓の出どころの話だが。


 あれは冒険者が狩った獲物だった。冒険者のトップはほぼリント達。ずぶずぶだったわけだ。


 「地域活性隊」という名の組織だったな、そいつらを知らない冒険者はいないだろう。奴らは役所からの指示で討伐後の獣を隠れて然迎会の事務所、事務所というより工場だな、そこに運び入れていた。


 連中の肩書は冒険者だったが、実際は然迎会の荒くれ、腕の立つ奴らだったんだ。できそうな奴を指名して冒険者にさせる、そして獣を狩らせるというもの、または死骸運搬だ。


 なんでそんなに内臓にこだわるのかはまたあとで話そう。なんとなく予想はついているんじゃないか?


 そして黄花病が流行ったことで工場にあるものが大量に届いていた……。


 「トクトクエイト」のゴールド以上になると死骸の解体もさせられる。これ以上は言わない方がいいだろう。彼らはそれにも喜んで手を染めて言っていた。胸糞が悪いったらありゃしない。


 運営資金だが、基本的に寄付だ。その「仕事」が楽しくてしょうがない連中は配給の金をほとんど教団につぎ込んでいた。貯めた金も信用スコアもすべて底をついても彼らはそれで構わない様子だった。


……。


「ドンジさん 依頼したあの人ですが 目撃者がいるようです ご説明をいただけませんか?」


 数日経ったある日、自分が逃がした教団員の目撃情報を得た部長クラスの奴がそう自分の所に来て言ってきたんだ。


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「どうしたの ・・・・ ?」


「俺はその機会を狙っていた」


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