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【第147話】大集合 その3 

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「ぅっうえぇ おじさん ママどこぉ?」

 小さな女の子が自分の顔を見上げながらそう聞いてきた。


(おじさんか ・・・ ふっ)


「一緒に探そうか」

 顔を低くし子供を抱え、避難した人だかりの中で彼女の母を探す。


 パイン達が中に入って1時間ほど待機していた、そして突如として目の前の百貨店の火災報知器が鳴り響き店の中から一般人達の群衆がここに押し寄せてきていた。


 中で何かあったのは間違いがない。ミグーナがアッシュに連絡を取るもまだ返事は来ていない。


 こんな仕事は想定外だが……。


「パパねぇ ・・・・ お花が咲いて ずっと眠っちゃってたんだよぉ」

 抱きかかえる子、おそらく3、4歳だろう、その子がそう自分に言ってくる。


「黄花病」で父親を亡くしたのだろう、それに対してなんて声を掛けてあげればいいのかわからない。


 チャーギがこの仕事を始めてかなりの年月が経過している。でも今回のように大がかりな事態は初めてだった。


 仮にこうして前線にいなければ自分は一体何を考え、何をしていたのだろうか。


 しかし、適正っていうのを考えると、たまたま拾ってくれたコーダンが目の前に居たりと、はっきり言って向いている仕事だとは思っていなかった。


 しかし……。


「あ!! ままぁ!」

「「ああ!!!すいません!!ありがとうございます!!」


 女の子の母を見つけ、抱いたこの子を彼女に託す。


 母親は目から涙を流し喜んでくれた。


「またね! おじさん!」

 手を振る子供とお辞儀する母親に会釈で返す。


 今の自分はその世の中に対して真っ向から向き合える、その選択を取った過去の自分は間違っていないのだと実感することができた。


「チャーギ あなたはここで誘導お願い 私は中行ってくる」


 ミグーナがそう自分に声を掛け百貨店の中に入っていった。


 そして……。


 彼女は自分に想像以上の優しさを与えてくれた。初めは自分の事を見下し、さっさとこの仕事辞めろと促してきさえしていた。仕事の最中も決して優しいとは言えない彼女が、まさか自分の手を取るとは思いもしなかった。


 高嶺の花、そう思い、考えにすら及んでいなかった事を。特別自分が優秀でもない、器用ですらない。男としての魅力は平均以下だと思っていた。


(その俺が ・・・)


 確実に運は自分の味方に付いていた。


…。


『くるっぽーくるっぽーー』


 チャーギは鳥の鳴き声に気が付きその方向の自分の足元を見た。


 アスファルトの上で鳩が人だかりとは逆に自分達の足元に押し寄せているのは少し不気味だった。


「中はもう大丈夫!!」

 ミグーナがそう口にし、店から戻ってくる。


 鳩を見るのを止め、帰って来た彼女に目を向けた。


 タジマ達も自分らと一緒に人だかりの誘導などの仕事に勤しんでいた。


「「皆さん しばらく中には入らないで下さい! 原因は調査中です!!」」

 チャーギはそう人だかりに声を上げた。


 恐らく危険なことが起こると判断し、道路も片側だけ封鎖した。


 コーダンは……。


 アスファルトの地面にあぐらをかき目を閉じている。


 この姿は何度も見たことがある、こうして雑音が鳴り響く中でわざわざそれをするのには訳がある。


 瞑想……。


 ミグーナですらわからないコーダンの直感。彼は何かを勘づいている。これから起こる出来事に対処するために極限まで意識を集中している。


 その姿を見ると経験上チャーギも気を引き締めてしまう。今回の仕事はかなり大変なものになる。あのピーナツ号と同様に。


 ある程度周辺の騒乱が落ち着きを見せはじめている。座ることはできなかったが、コーダンを倣い、目を閉じ意識を集中させた。


…。


『『ドゴドゴ!! ドガガガ!』』


(お出ましだ!!!)

 パッと目を開いた瞬間見た人、いや物体。それに驚くも体は自然に事態を理解したのか足を動かし、手を動かしていた。


「「キタナァ! バケモノ! サルカー!!! ウハハ!」」

 コーダンもすでに立ち上がり、鉄板付きの拳を顔の高さにまで上げてそいつと向き合っていた。


「「おい姉貴!こっちだ!」」 「「はいよっ!」」


 タジマも同様にサルの塊に体を向けた。


「「コーダン?! タジマ!? ま 待ってくれ!」」


「なっ ・・・」


 塊から声がした。人……。


 ヒントが生身の状態で塊の中に埋もれてそう叫んでいた。


 その一瞬怯んだ隙を化物は見逃さない、いや……。


 コーダンの元を抜け、人だかりの……。


「「きゃああああああ!!」」

 化物は子供を鷲掴みにして再度自分達の下に飛んでくる。


(人質2人 ・・・)


「「コーダン コーーーダン! ウケケッケケ!」」


「「やめろ兄貴! 何してんだ!」」


 化物の片方の頭のサルがコーダンを挑発。ヒントがそれを止めさせようとしている。


 腕の中の子供は意識を失っている。


 ミグーナは母親の元に走り、こちらにこないよう制していた。


(助ける ・・・ 絶対に ・・・)

 

 チャーギは歯を食いしばり、拳を強く握った。


 化物が抱えているのは、彼がさっき助けたばかりのあの子だった。


--------------------------------------


『バガガガガガガガガガガガ』


 怪物の2本の腕から黒い棒が伸びコーダンに攻撃を浴びせている。


 コーダンはそれを必死に防御する。物凄い早さ、だが相手はコーダン、決め手にはならない。


 だがコーダンは子供とヒントがいることに躊躇。手も足も出せない……。


「狙える所狙うしかない!」


 ミグーナがそう言い矢を放つ。


 チャーギも足元を狙い銃の引き金を引く。


 コーダンの仁王立ち、全ての攻撃が彼の体に集中する。


 彼のHPは大して減るはずもない。


 ツルギの棍が化物の足に入る。


 少しだがダメージを与える!


 コンの剣劇。


 急所を狙うもミス!彼女も人質がいることで狙いがつけづらいようだ。


 ミグーナとチャーギの後方攻撃!


 化物の足に入る。だが大してダメージは入らない!


「なっ!」


 化物は毛でヒントとあの子供を覆い、吸収したかのような姿になる。


 ヒントの声はこの時もうすでに聞こえることは無かった。


 早くしないと2人の息が持たない。


 コーダンが攻撃を与えない限り、この化物に致命傷を負わすことは困難。


「「早くしないと死んじゃうよぉ! コーーダン!」」

 化物が泣き喚くようにそう言う。


 コーダンは何かぶつぶつ言っているようだがこの位置からでは聞き取れない。だが、化物も化物でコーダン以外に攻撃をする様子がない。


 恐らくコーダンの防御を解いてしまえば、足を粉砕されると読んでいるのだろう。


 それは間違いがない、逆を言うと縫い留められているのは化物の方。一番ダメなのは化物を人だかりに向かわせ被害者を出してしまうことだ。


 それをコーダンは分かった上で防御の選択をしている。


 根くらべ。


 コーダンの体力は無限と仮定しておいて分があるのはこちら。しかし、人質の息がその前に尽きる……。


(よし ・・・)


 銃を地面に捨て、こぶしを強く握った。


「「コンさんツルギさん! コーダン一瞬借りますよ!」」

 そう前衛に声を掛ける。


「「オッケーー! 5秒なら持つと思う!」」

 ツルギがそれに答えた。


「あんた ・・・・」

 ミグーナが自分の拳に手を添えた。大丈夫、笑顔で彼女に頷いて返した。


 そして短剣2本を腰から引き抜いた。


「「コーダン!! 今!」」

 チャーギはコーダンに合図を送る。


 ツルギの棍でバランスを崩しかけた塊にミグーナとコンの刀が1本の足にある程度のダメージを与えた。


 コーダンもチャーギの合図で何をやるのか分かっていた。お互いに走り距離を縮める。


そして……。


【回天】


 コーダンがチャーギの体を持つと、勢いよく塊の中央に投げた!!!


『ヒュンッ!』


「ちゃく ち!!!」


 身を捻り、いやもはや勘だ。怪物の棒撃の間に入り、腹に着地することに成功!


 意識が朦朧としているから恐らく数発入ったのかもしれない。


 だがしかし、そんなの関係ない!


 持った短剣で毛を切る!!!!


「ホレホレホレホレホレホラホラホラホラホラ!!!!!!!」」


「「くすぐったぁ!!!やめてコケェ!!!」」


 化物が何か言っている。知らん!


 見えた!見えるぞ!!


「「こぉなぁくそぉおおおおおお!!!」」


 毛が針のようになり、チャーギに牙を剥いたが、それも関係ない!


 子供を、悪いけど、地に投げ。


「ホレホレホレホレホレホラホラホラホラホラ!!!!!!!」」


「「どりゃ!!」」


 ヒントを足で突き飛ばし地に投げる。


「なっ ・・・」


 毛がチャーギの体を覆い被さってきた。それを必死に短剣で払うも追いつかない!


「交代だよーん」

 上のほうからそう聞こえた。


「「チャーギ!」」


 ミグーナがこちらを見て叫んでいる。後ろを振り向き、


「「コーダン!!! やっちゃってくだ


 叫ばなくても大丈夫だった。


 彼は既に右の拳を脇にしまってこちらにダッシュをしていた。


(大丈夫 ・・・ もう運は ・・・)


『『コーダン だめーーー!!!』』


 顔まで毛が覆い被さったため、ミグーナの声はくぐもって聞こえた。


…。


 コーダンのあの拳につけた鉄板は「爆裂拳」。


 普通の鉄板なのだが、コーダンのパンチで鉄が溶け、飛散する。その威力を見てきた。


 直径1mの巨木をも抉り、なぎ倒す威力。


 仮に自分に直にその拳が当たらなくても鉄の溶けた破片が飛び散り爆発する。そんな所に居たら無傷どころか。


(いいんだ ・・・)


 俺は十分やった。


 目の前が真っ暗になる。


 あとは頼んだ……。


(あれ ・・・ 変だな ・・・)

 その相手はなぜか、あのむかつく笑顔のガキ。


 なんでかわからない、あいつの笑顔を見ると腹が立っていたのに。鯨の中からか?なぜか奴に苛立ちを覚えなくなったのは……。


 最後はミグーナの笑顔を見たいはずなのに、奴の笑顔が邪魔して彼女の顔が見れねぇじゃねぇか!!!


(くそがっ ふふっ ・・・)

…。


 コーダンの右ストレート「爆裂拳」が化物の中央に吸い込まれ、


『『『ボフーーーーーーーーン!!!!』』』


 辺りに爆発音を響かせた。

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