表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/228

【第123話】木を這うようにして その4

「いらっしゃいませぇ~」


 ドスの効いた低い声で奥から男性の店員さんが声を張っていた。


 サクラの店での打ち合わせの翌日の今日。アッシュに住所を教えてもらい、刀匠がいるとされる場所にパイン達は足を運んでいた。


 役所からの連絡はまだ来ていなかった。


(ここでいいのか?)


 このお店、表の看板に刀の文字1つすらない。パインはそれに違和感を感じていた。


 「金物 松風」と小さく看板が立てられているのみであった。


 2人して首を傾げながら店内へと入った次第である。


 車が1台入る程度のガレージのような狭い店内には包丁や大工道具がガラスケースの中に陳列されている。そのガラスケースが壁に沿うような形のレイアウトだった。どれも確かに高級そうな物で値札さえ無かった。


(うぅ〜〜ん ・・・)


 だが、やはり刀は1点も置かれていない。


「えっと ここは武器等は置いてないですよ」

 奥で座る中年の男の店員がそう自分らを見て言ってきた。自分達が冒険者であることは雰囲気で分かったのであろう。


「えっと 知人にここに行けば直してくれるかもって ・・・」

 手に持った刀を軽く前に突き出してそう言った。


「えー ・・・」

 店の男はぽりぽりと頭を掻いていた。


「すいません 無理ですよね ・・・ 失礼しま」

「そいつか?」


 引き返そうと思ったその時、間を置いてそう声をかけてくれた。見せてくれるかと言ってきたのでパインは彼の座るカウンターの前に刀を置いた。


…。


「うぅーんひでぇなこりゃ 新調したほうがマシな程度だが ・・・」


 やはりとパインは思った。そもそもアッシュから刀なんて使うなって言われてるもんだからな。


 しかし、「早い」とも言っていた。いずれ使う機会が来るかもしれない。


 男が刀を重たそうに上に上げ、柄の裏側を見ていた。


「んっ ・・・ ちょっと待っててくれ」


…。


 そう言うと店の奥の居間に這いあがっていった。静かで暗いが優しい雰囲気の店の中にポツンと2人は残された。手入れされた店の棚の木々から甘くて涼しいいい香りが漂ってきていた。


「諦めなさいよ そもそも使う気あるの?」

「またボロボロにしちゃうだけでしょ ・・・ あんたの馬鹿力で」

 リンデルがそう話す、確かにそうなのかもしれないが。


「うーん ・・・ そうだねぇ」

 煮え切らない気持ちを携え、しばらく店内に展示されている包丁を眺めていた。


(刀でなくてもかっこいいな ・・・)


 どれも丁寧な仕事で作られている。それぞれに独自の名前も付けられていた。


 銘と言うらしい。


 いずれ自分も包丁が欲しいとも思っていたので見ているだけでも楽しかった。


…。


「お待たせ た たしかにうちで作ったもんだ ・・・ 銘がうちのだ」

 ガラガラと引き戸を鳴らし、男が焦ったように居間からこちらに入ってきた。


「「「えええ!!!」」」

 一瞬その言葉の意味がわからなかった。2人して声を上げてしまう。まさか作り手の店に一発で来てしまったのだから。


「すまんな よそ者扱いしてしまって 俺の名は ・・・」

 慌てたようにして男が自分の名前を言ってきた。そこで改めて挨拶を交わすこととなった。


 男の名はサワ、刀匠ではないが父の業を引き継いでいるようだ。そして彼の父が今は引退しているものの刀匠だったことを教えてくれる。


 髪は角刈りで首から白いタオルを下げていた。まさに職人という風貌だ。


「だが こんなくそ重い刀 うちで作らねぇよなぁ ・・・」

 男は首を傾げながらパインの刀とにらめっこしている。


「ちと奥で茶でもしばいていてくれ 道場から親父来るからよ」


(道場? 刀匠じゃなくてそっちなのか?)


 その疑問はさておき、居間に上がらせてもらう。


「お邪魔します」 「失礼します」


 居間は人が4人も座れば満席になるような狭い空間だった。畳が4枚、今はもう見るのも珍しい床であった。


 あのトキさんのお家ですらフローリングだった。


 畳みから草のいい香りがしていた。


「あら お客さんね 珍しいわねぇ」


 サワさんの母親、ラツさんがひょっこり顔を出す。サワさんに紹介され、軽く挨拶を済ますと彼女はお茶を出してくれた。白いシンプルなエプロンをゆったりと着こなしている。


(ん?)


 どこか自分の母に似ている気がした。多分気のせいだ。しばらく会っていないからか。


「今道場に電話するからまぁ待って 座ってて」

 ラツさんがそう言うと、電話をかけに奥に向かった。


「ありがとうございます」


 何故か2人とも正座してお茶をすすった。正座してはじめて自分の腹の出具合に嫌な思いをさせられたかもしれない。


「おめぇら見たことあると思ったらあれか ・・・」

 サワさんがそう言いだした。やはり気づかれてしまったようだ。慣れてしまったそれとは逆に少しだけ嫌悪の表情を彼は作っていた。いつもは驚かれるか喜んでくれるのに。


「足崩してくれ ・・・ そんなガラじゃないんだろ?」

「すいません 失礼します」


 言われた通り足を崩す。正座なんてガラじゃないようだ。


 リンデルが食いつかないか心配だったが、彼女にしては珍しく、大人しくそのまま正座してお茶を嗜んでいた。


「どこでこれ拾ったんだ?」

 その問いに正直な事を伝える。彼はそれにまたしても首を傾げて何か考えているようだった。


 沈黙が続き、ついには茶碗の底が見えてきてしまった。


…。


待つこと数10分。


「おう 待たせたな ・・・ えっと 俺はクロマだ」


 居間の更に奥の狭い通路から男がやってきた。


「パインと申します」 「リンデルです」


 クロマと名乗る男は半分自分らを無視し、そそくさと刀を持ち上げそれを睨むように目を近づけ眺めている。


 汗だく、走ってここまできたのだろう。鍛えられた体で鋭い眼差しを放っている。身長はサワと同じ、自分より少し低い程度だったが道着姿そのままで迫力があった。頭がツルツルなのもそれに輪をかけていた。


「おめぇ ・・・ これどこで拾った?」

 サワさんと同じことを質問してきた。なのでまた同じように正直なことを言う。


「コーダンか ・・・ ああ分かった そういやおめぇ見たことあるな」

 親子そろって全く一緒の自己紹介になった。


 しかし、


「直せる ・・・ 1時間もかからねぇよ」

「「はぁ!!?」」

クロマがそう言うとサワさんが驚いていた。


「だが ・・・」


 クロマが正座して自分達に向き合うような配置になった。


 しばらくしてから彼が話し出す。


「お嬢さん 覚悟はあるか?」

「はい?」


 なぜかリンデルに質問をしていた。どういうことだろう。


「覚悟がねぇなら やってやらん 出直してこい!」

「あるわよ! 失礼な人ね!」


 2人がそう叫ぶようなやり取りを交わすとクロマが笑った。


「じゃあ 兄ちゃん腕試しだ 道場こい」

「あ かあちゃん 茶を 兄ちゃんに茶入れてやってくれ」


 クロマがラツさんになにか注文を入れていた。


「はいはい あれでいいのよね?」

「そうだ 頼む ・・・」


 2人はかなり真剣に目を合わせていた。


「はい どうぞお上がり」

 ラツさんが冷たいお茶を出してくれた。


「すいません 喉乾いてて ・・・」

 そして無言のままクロマと自分がラツさんの入れた茶をパインは飲む。


(にが ・・・)

 自分が全て飲んだのかをじっと見つめていた。え?


「この人馬鹿力よ あなた大丈夫なの?」

 リンデルが彼に相当失礼なことを言っている。


「見て分かったわい おぬしらの3倍は生きてるのよ」

 クロマがリンデルを軽くあしらっていた。


「精々本気でかかってくることだ ・・・」

 彼はそう言い、立ち上がると居間の奥に向かって行った。


 たしかに身のこなしがただ者ではないのが動作で分かった。1つ1つ無駄がない動きだ。


 しかし、


「道場ってどこよ?!」

 どこか間が抜けているのにも気が付いてしまった。人の事は言えないのだけれど。


 クロマはリンデルの問いを無視して外に出たようだった。


「あら ・・・・ お父さん ごめんね」

「あんた 道場まで案内してやって 店はあたしやっとくから」


 ラツさんが息子のサワさんにそう言った。


「おう 悪いな 親父燃えると周りが見えなくなるんだ」

「なるほど 分かります」


「ばか」


 サワさんの後に続いて店を後にした。


…。


 曇天の空は朝でも尚、澄み切った空気を出せずにいた。蒸し暑い空気はそのままに、ここに来てからジャンパーはバイクの荷台にしまったっきりだ。


 リンデルもTシャツ姿で白い肌が眩しい。自分はすでに大汗をかいてしまっている。


…。


『『バシバシ』』 『『アァアーーーー』』 『ヤー』


 歩くこと20分程度、店とは打って変わり結構な大きさの縦長の平屋作りの道場にやって来た。


 中からは道場生の激しい雄たけびや竹刀の音が鳴り響いていた。


「土足厳禁 靴下も脱いだほうがいいぞ」


 サワさんにそう言われ、道場に上がった。


 裸足で触れる床はヒンヤリしていて気持ちがいい、しかし道場生の熱気が場をかなり蒸し暑くさせていた。


「「やめぇーーー!!」」


 クロマの怒号で道場生は端に身を置いて行った。


「「道場破りにおいでなすった パイン殿だ!」」

「はい?」 「親父 ・・・」 「ええ?」


 ペタペタと道場を歩いていると、クロマが変なことを言っているのが耳に入ってきた。


 パインはそれを聞き動揺していた。


『『ザワザワザワ』』


 道場生も自分の名を聞いたことがある人がいるのであろう、こそこそと何か呟いていた。


「どうぞ ・・・ パイン様」


 いつの間にか道着が用意され、それに身を包むことになる。


(あれ ・・・ なんか気分が ・・・)


 道着に着替え、竹刀を渡される。


 リンデルとサワも今は道場生と一緒になって自分とクロマの試合を観戦する形になっていた。


 ふつふつと湧きあがる感情は床の冷たさも周りの人々の声もまったく気にならなくなっていた。


 ただ目に見えるのは、闘志を自分に向けるクロマだけになっていた。


(やべぇ ・・・)

 そして闘志のみが表に這い出てきた。


--------------------------------------


(・・・ やってやろうじゃねぇか ・・・ 生意気に俺とやり合うってのか?)

 生身の人間が俺とやり合うなんて身の程も知らなすぎる。あはは。こいつが竹刀なのが救いだな親父さんよ。


//////////////////////////////////////


 この時何故か、パインの纏う気はリンデルが数回経験したあの嫌な物になっていた。


//////////////////////////////////////


「「パイン?!」」

「ああ?」

 なんか脇から小さいのが叫んできている。うるせえな。


「「止めて!終わりにして!」」

 そいつがこの場を止めにしようと暴れていた。


「大丈夫です ・・・」

 隣の男が女を制している。そうだよ邪魔してもらっちゃ困る。


「「だめなの あれはダメ!!」」

 無理やり座らせられたもののまだ口は塞がっていないようだ。


『『ザワザワザワ』』


「お嬢さん わしを舐めてもらっちゃ困るぞ」

「あんた死ぬわよ!」

 

 リンデルは必死に2人を止めようとするも、道場の、それなりに実力者であろう方々に取り押さえられ試合会場の外においやられていった。


…。


『『ザワザワザワ』』


「死なんわ こんな小僧で ・・・」


(うっはぁ 坊主頭から湯気みたいなのが出てる おもしれぇ)


「こい 化物!」」

「 ・・・ ふ」

(化物呼ばわりか いつぶりかねそんな事言われるのは)

 坊主の誘いに体が勝手に動く。広い道場はもはや自分と彼との死合い会場だった。


…。


『シュッ』 『『パシィッ!!!』』


『『おおおおおおおおお!!!』』 「「きゃあ!」」


 10mほどを一気にかけ抜け突きをお見舞してやった。常人が避けれるはずもない、首元を狙った一撃必殺の突きだ。


(ほぉ ・・・)


 クロマは寸での所でパインの攻撃を右に避けた。そしておちょくるようにパインの持つ竹刀にまで一撃を入れていた。


「やるな」

 そう言ってやる。


「随分わしを舐めているようだな??」

 坊主の湯気が全身を包み、白い光を放っているようだった。


 黒パインはクロマにちゃんと目を向けた。2人はお互いに強く竹刀を握るとギと音が鳴る。そして距離をじりと詰める。


 お互いの呼吸が落ち着き。


…。


『シュシュシュシュ』 『パパパパパ』


 クロマが初手、物凄い早さの連続切り。パインは避けようとするも何発か彼の身に入る。


(なっ ・・・)


『『ガッ』』


 パインはクロマの剣筋を追いきれていなかった。いつの間にか喉元に奴の竹刀がめり込んでいる。


「ふんっ」


 パインは首の力でそれを押し返す。


 次はこっちだ。


『『シュシュッ ッダン!!!』』


 袈裟切り2連からの突き。


「・・・」 「・・・」


 全て避けるか、やるじゃねぇか。


 クロマ、坊主、つるつる頭がバックステップ、居合切りのポーズを取る。


 それを見る会場の生徒らは息をのむ。彼の静かな凝縮された殺気に見覚えのある者は少ないようだった。


(あは ・・・)

 楽しくなってきた。突っ込んで避けてやる、そのあとは……。


 一方黒パインはそれを軽く横目で見る程度。まだまだ舐めてかかっていた…。


…。


『『ダッ』』


『『シュパ カッ!!』』


『『おおおおおおおおおおおおお!』』


 パインはクロマの間合いに大きく踏み込む。一瞬にして奴の懐に入ると、クロマが剣を抜くタイミングを図って身を大地に沿う格好になる。そのまま奴の得物を吹き飛ばす予定だったが。


…。


 クロマはパインの読みの更に上手を実行に移していた。抜くタイミングをわざとずらしていた。剣を抜く姿勢のままバックステップ、パインの虚をついて小手を払い切りしていた。


(なんだよ ・・・)

 少し気が変わった。殺し合いじゃねぇのかよ。分かったよ乗ってやる。


 パインは不貞腐れていた。生ぬるい道具とはいえ、クロマに一歩リードされていることが気に食わない。素直にこのスポーツをやらないと勝った気にならないと腹をくくった。


 坊主の姿の真似をして竹刀を両手で握る。


「ようやくまともにやる気になったか」

 坊主がパインに生意気に口を叩いてくる。


「ああ 説明何も受けてないからな」

「たわけっ!」


(くそがっ ・・・)

 力での勝負じゃないなら最初から言ってもらわねぇと。むかつくから手加減はしないぞ?


 足を奴の前に進める。お互いに剣を振り上げ、相手の動きと自分の動きの選択を瞬時に実行に移す。その中、パインはクロマと目が合う。


『『パシパシパシパシ』』 「「メーン」」


(む ・・・)

 こいつ、身のこなしが尋常じゃない、打撃を捌くのはなんてことないが、唾ぜりに持っていこうとするとうまく身を躱しやがる。


 パインが力を込めた打撃を打とうとするタイミングを利用してクロマは素早くパインに打ち込んでいた。


『『おおおぉぉおおお』』


 道場の雰囲気は単純な熱気から、みんなの視線が集中する静けさを伴った別の何か、情熱的刺激され得る試合に変わっていた。


…。


(むかつくなぁ 脳天に1発もらっちまったじゃねぇか!)

 次は一泡吹かせてやる。


 パインはギュと足の親指でツルツルの床を掴んだ。


『『パシパシパシパシ』』 「「ドウ!」」


 またしてもこのつまらくタマラナイ情熱的剣劇の終止符はクロマがパインを打つ事で場をリズミカルに支配する。


「終わりにするか?」

 汗でつるつるに輝いた頭の持ち主、坊主がそう言う。


「はぁ? こっからだろっ!」

 そう返す。腹が立つ、こんな得物で本気だせねぇよタコが。



(くそがっ ・・・)

 竹刀だからなんとも痒いもんだが、奴の動きを捉えきれない。ふざけてやがるこんな茶番で俺が。


 しかし……。なんか持ち方がしっくりこねぇな。


(こうか?)


「すきありっ!」


 情熱坊主が突っ込んでくる。パインの喉元を狙った突きだった。


『『シュ』』


 躱した、次は真っ向か。


『『パシィッ』』


弾いた、坊主、距離を取るか。


「っらよ!!」


『シュッ』 『『ピシィ!!!!!!!』』


…。


『『おおおおおおおおおおおお!!!』』


(まじかよ ・・・)

 坊主が飛んだ所を狙った突きなんだが、すげぇなこいつ。


 クロマは竹刀の根本でパインの突きを完全に封殺していた。パインの竹刀はクロマの竹刀の根本を突き破ったが、彼の喉元には届いていなかった。


「舐めてるのはおぬしではないか なぜ今になって利き手を用いた?」

 坊主がそう言ってくる。


「はぁ しらねぇよ」

 こいつ、右腕の動きが悪いんだそりゃ左使うだろ。


「木刀持って来い」

 坊主が手下にそう言っている。


 そうだよ、そうこなくっちゃあ。


「ですが」 「「早く!!!!」」


…。


 端の雑魚どもは棒立ち、口を開けてる奴すらいる。


…。


2人とも木刀に持ち変える。


「これで終わらせてやる 化物 ・・・」

 坊主がそう言ってくる。


「こっちの台詞なんだが?」

 そう言ってやる。


『『ザワザワザワザワ』』


 木刀をギュと握り、こぶしを右肩まで上げ、突きの姿勢を取る。


(またか ・・・)


 坊主が居合の姿勢に入った。


『スゥ』


…。


(はぁ ・・・)

 十分だ、十分吸った。あいつの生意気な口に木刀をめり込ませてやるよ。


 足の指をこの床にめり込ませる。


『シーーーン ・・・』


 その瞬間、静寂が道場を飲み込んだ。


 そして……。


『 …… シュ …… カッ …… 』 『『カーーーーン!!』』


「「きゃあああああ!!!」」 『タッタッタ ・・・』


『『わああああああああああ!!!』』


 決めた。

 奴の居合をわざと誘ってやった、奴のバックステップも考慮してこっちは前に床すれすれに跳躍してかがみ込む。宙に走った刀の持ち手を背中で無理やり押しのけた。


 体勢を崩した奴の木刀を根本から横なぎに払ってやる、奴の木刀は吹き飛び天井に刺さる勢いだ。


…。


 これでおしまいって?いやいや、お楽しみはこれから。


 じゃっ、


(さよおなら)


 悔しそうな顔の奴の口に木刀を突き刺そうとしたその時。


 別の人間が立っていた。


「「止めなさい!!!!」」


 あろうことかそいつは俺の腹に入り込み押さえつけるように邪魔をしてきた。


「放せ」


 手元が狂い、坊主は距離を取った。


「「止めて!!お願い!!」」

「「もう十分よ!終わってるのよ!」」


『『カラン カランカランカラン!』』


 吹き飛ばされた坊主の木刀が床に転がった。


 坊主はそれを拾うとこちらに向かって歩いている。


「は はぁ?」


 口からそう零れる。終わり?あいつまだ立ってるぞ?どういうことなんだ?


「「あっぱれじゃ!」」


 そう彼が言うと拍手をしていた。


『『おおおおおおおおおおお!!』』


(な んだ ・・・ ?)


 木刀を下に向けた。


--------------------------------------


(・・・ あれ?)


「リンデル?」


 リンデルはパインに抱きつき泣いていた。


「え? ・・・ っと」


(なんだなんだ? 何がおきた? ええぇっとたしか)

 ええっと、説明をしてほしい。確かにクロマさんとやり合っていたが、どうしてこんな展開になったんだっけ?


「もうっ!!」」

 リンデルは自分を抱く手を離すと、そのままポンと自分の胸を両手で押しのけた。


(うっわ ・・・)

 周りの道着姿の若い子達がジーと自分らの様子を見てザワザワしていた。

 めっちゃ恥ずかしいじゃないか。


「お嬢ちゃんの覚悟 確かに リンデルさん ・・・ すまんな」

 クロマがリンデルにそう言っていた。


「勘弁してください 何飲ませたの? あなた死ぬところだったのよ」

 リンデルがクロマに向かい、半ば怒ったようにそう言っている。


「わしも覚悟せんとな ・・・ 試す側も死ぬ気じゃわい だはは!」


 パインは棒立ちのままそれを見ていた。


…。


(あれ ・・・)

 しかし、左手で握る竹刀がいつもよりしっくりきていた。


「場所を移そう パインお前の本性見せてもらったぞ」

「 ・・・ 」

 クロマのその言葉に何も返せないでいた。


「「おい!稽古再開!ぼーっとしてんじゃねぇ!!」」


『『『はいっ!!!』』』


 理由が分からない。この湿気のこもった道場、ここに3人で歩いてきた。それだけは記憶が確かだ。その後は確かクロマさんと向かい合って…。


 その後覚えているのはリンデルが抱きついてきた所…。


(なんぞ?)


 パインは困惑しながらも、前の2人に倣って一礼し道場を後にする。


「大丈夫よね?」

 リンデルがそう聞いてくる。


「う うん ごめん ・・・」

 彼女が強く手を握ってきてくれた。


(なんでごめん?っていったんだ俺)

 ただ、おそらくまた病気みたいなのが再発してしまったようだった。


…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 クロマについていき、鍛冶場の中に案内された。店の隣の建物、ただの家かと思っていた所の中に鍛冶場があった。その時気が付いたが、確かに煙突のようなものが建物の外にあった。


 鍛冶場の机の上に包丁の柄が無い鉄だけの板が何枚も置かれている。


 炉もあるが、火は入っておらず、何日も放置されている様子だ。


 3人でそこに入って待っているとサワさんがあの刀を持って入って来た。


「えー何から話せばいいかね」

「何飲ませたのよ」

 クロマはリンデルに少しどやされていた。パインはそれを聞いて内心ドキドキしていた。


「あれは理性 頭の前の方を麻痺させる薬 中身は秘密じゃ」

「そんなことして何の意味があるってのよ!」

「ん? 分からないのかね リンデルさん賢そうだが ・・・」

「この人が暴走して大変なことになるのは知っていた だから止めさせようとしたじゃない!」

「お嬢ちゃん 止めておったぞ?」

…。


 2人が会話するとリンデルは少し静かになっていった。リンデルは鍛冶場の冷たい床を見つめて何か考えているようだった。


「良い鞘も必要なんじゃよ ・・・」

「ホレ見て見ろい この刀の鞘 ・・・」

 クロマが刀の鞘を手に取り宙に浮かせていた。


「こんな鞘あるか? ボロも通り越して スカスカ こんなのは無いのと一緒」


 リンデルは彼女が用意したあの刀の鞘をクロマに無下に扱われ何か言おうとしていた。だが、何を思ったか彼女はそれを我慢しクロマを直視していた。


『シュッ』 『カランカラン・・・』


 そう彼が言うと持った鞘を投げ捨てた。


「ちょっと ・・・」


 パインがそう言うとクロマがニヤっと笑った。


「これじゃ ・・・」


 そう彼が言うと鍛冶場の奥から長い木箱を取り出し、その中身を開けた。


 それはこの刀よりも大分小ぶりな細い鞘がしまってあった。


 黒色で金色で木や草の模様が描かれており、見るからに貴重そうなものだった。


「それじゃ仕舞えないですよ?」

 パインはそう質問してみた。


「ちょっと聞いておれ」

 そうクロマが言うとこの刀の事を続けて喋り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ