復讐の箱
夏のホラー企画投稿作品なんですが。
これ、ホラーかなって、すこし自信ないです。
俺は都内の商社に勤める、ごく普通の男だ。
そんな俺が会社近くのわりかし、というか、結構高い賃貸マンションに住んでるのには理由がある。
第一に通勤時間を短縮できる。
同期にはわざわざ都心郊外や、下手すれば隣県から毎朝、電車通勤してるやつもいる。
安い賃貸アパートに暮らしてたり、一軒家の物件を俺の家賃の半分くらいで借りてたりするが、通勤に片道2時間もかけるなんてアホとしか思えない。
time is moneyって言うじゃないか、片道徒歩で20分もかからない俺に比べたら何倍も無駄にしてるわけで、その時間でトレーニングしたり、資格勉強したり、趣味に没頭したりと人生を有意義に使うべきだ。
そして、第二にリスク回避のためだ。
実のところ、同期に一人、痴漢冤罪にあったやつがいる。
結婚を間近に控えていて、結婚後は都内に引っ越してくる予定だったんだが、その時はまだ埼玉からわざわざ快速で通ってたんだ。
帰宅時のラッシュで女子高生に痴漢として駅員につき出され、罪状を否認し続けたが、結局は有罪。
会社も懲戒解雇となり、去っていった。その後は知らないが、あいつのバカがつくまで真面目な性格と恋人に一途なところを考えれば、痴漢じたいがあったかどうかはともかく、犯人はあいつじゃないと思うんだよな。
つまるところ、長い通勤距離は事故やトラブルに巻き込まれるリスクを増大させるってことだ。
まー、あとは勤め先がそこそこ大手で、手取りもいいこと、元々、裕福な家に産まれて、個人資産に余裕があることも理由ではある。
~
いつものように帰宅して、マンションへと辿り着く。あっという間の帰宅で勿論、トラブルもない。
ただ、少しばかり違和感のある出来事はあった。
1階からエレベーターに乗る。俺の部屋は5階だ。当然5を押して1人エレベーターの隅に凭れる。
すると、2階で止まったエレベーターに1人の女性が入って来た。
6と押して扉のやや横、奥隅にいる俺と対角の位置に女性は陣取った。
長髪で肩より下まで伸ばしたロングヘアを髪留めでまとめて降ろしている。
背はそれほど高くなく、入ってきた時に見た顔から同い年くらいだろうかと感じた。
どこか見覚えがあるような気もしたが、同じマンションの住人なら、まぁ見かけたこともあるだろうって話だ。
ただ、「2階」から乗り込んで6階に行くことに違和感がある。まぁ同じマンションに知り合いがいるのかも知れないが、珍しい話だと思うし、まして都心の安くない賃貸マンションでは余計に感じた。
「まぁ、そういうこともあるか」
~
それから1ヶ月ほど、俺は何度か彼女を見かけることになる。顔を合わせる機会が多いと、どちらともなく、声をかけあうようになった。
「じゃあ、やっぱり6階にお友達がいるんですか」
「えー、こんな風に挨拶をかわしてて仲良くなって」
「へー、人見知りの私には無理ですね」
「人見知りなんて、そんなの私のほうですよ」
こんな会話でエレベーター移動の僅かの時間、談笑するのが楽しみになっていた。
そう、帰り道というにはすでにマンションの中だが、帰宅途中の楽しみが出来たのだ。
「たった十数分程度の移動の中のさらにほんの1、2分だってのに、変な縁もあるもんだな」
1週間に1、2回、顔を合わす程度だが、ある時こんなことを言われる。
「たくさん作りすぎてしまって、友達のところにお裾分けに持ってこうと思ったんですが、宜しかったらひとつどうですか」
そう言った彼女は持っているエコバッグのようなものの口を両手で開いて中を見せてきた。
中にはタッパのようなものが3つほどはいっていた。
「おかず、作りすぎちゃって、もしかしたら、ここで会うかもと思って多めに持って来てよかった。貰ってくれません」
「独り暮らしなんで、おかずとか助かりますよ。喜んで頂きます」
それから数日後、エレベーターであった彼女にカバンに入れておいたタッパを返す。
「ありがとうございました。美味しかったです」
「それは良かったです。また作りすぎた時はお願いしますね」
にこやかに言う彼女は俺の差し出したタッパの底のほうを持って受け取った。
変な持ち方するなーと気になったが、渡し方が不味かったんだろうと気にしないことにした。
それからも、数度ほど惣菜などを貰い、貰ってばかりもと、お返しをしたりと交流していた。
~
「助けてくださいっ 襲われそうになって」
いきなりだった。
いつものように乗り込んできた彼女と他愛もない会話をしていたはずが、5階間際で彼女がいきなり、やめて、助けてと叫びだすと、扉が開いた瞬間にブザー音とともに叫びながら飛び出していったのだ。
マンションの住人がちらほらと廊下へと出てくる。1人の女性が彼女を抱き抱え、此方を睨み付けていた。
~
「事前にエレベーターの防犯カメラに工作されててね、画像がとれてないんだよ」
警察の取り調べで、防犯カメラを確認してくれと言った俺に警官がいった。
「あんたと背格好の似た人物がこの暑い中、目深に帽子かぶってサングラスにマスクして、カメラに蓋のようなものをしてるのが映ってるんだが、それが事件の直前だ」
「なら、俺には無理だ、だって会社から帰って来たとこだったんだぞ」
「そんなこと言っても、その蓋がわりにつかわれたタッパの蓋には、あんたの指紋しかついてなかったよ」
タッパの蓋。
「あの女だっ、 お裾分けとかいって、何度かタッパで惣菜とか貰ったんだ。その時のタッパだろ」
「それをどうやって証明しろと、タッパはどこにでもある既製品だし、悪いけど、エレベーターにある監視カメラは48時間ごとの録画制だから、それ以前の画像はない。監視カメラがあるのも玄関ホール付近とエレベーター内だけだしな」
「だいたい、さっきも言ったが、工作してた、といっても監視カメラに蓋を被せただけだが、まぁ、何にせよ、工作してたんはあんたと背格好の似た人物だったんだ。少なくともふたまわりは小柄な女性じゃない」
取りつく島も無いといった感じで、取り調べは俺が彼女を襲おうとしたの一点張りだ。
「工作したのはあの女の友達とやらだろ。6階に住んでるらしいが」
友達と聞いて女だと思っていたが、存外男だったのかもしれない。まぁ、そいつじゃなくても、とにかくあの女に協力して俺を嵌めようとしたやつがいるんだろう。
「何言ってんだ、あんた。6階に住んでるのは被害者の女性で、彼女はマンション内に知り合いはいないと言ってるぞ」
「なっ、あの女が2階に住んでて、6階には友達がいるって」
「あー、健康のために1階分だけは階段を利用してるそうだが、やたらジロジロみてくる気持ち悪い男に理由を聞かれて、怖くなってそう答えたってよ」
なんだそれ、ふざけるなよ。
初めから俺のこと気持ち悪いって思ってたてーのか。それにしたって、冤罪で嵌める必要なんて、
「まぁ、前々からストーカー被害の報告も受けてるし、反省して、さっさと認めなさい」
何で、何でこんなことに。
~
結局は俺は有罪判決となった。
執行猶予がついて、刑務所行きとはならなかったが、おかげで会社は懲戒解雇、家族からも縁を切られた。
なんでだよ、会社からものの30分もかからないとこで、なんでこんな目に。
俺がなにしたって言うんだ。
~
「あいつもこれで弟の気持ちがわかったろう」
「わかんないと思いますよ。彼の裁判のために証言してくれって言ったとき、あの男、『不注意で懲戒解雇されるようなヤツと関わりがあったと思われたくないからムリ』って言ったんですもん」
「まぁ、じゃなきゃ、わざわざこんなことしないもんな、弟のためじゃないんだ。あのクソガキやあの男、弟を首にした会社、そいつらがいなきゃ、弟は自殺なんてしなかったのによ」
「付き合わせて悪いね、あとは俺ひとりでやるよ」
「バカ言わないで下さい。彼を嵌めたあの女子高生を許せないって言ったのは私のほうです。あの子の始末したときから、もう後戻りなんて出来ないんです」
~
『先月、発見されました白骨遺体は3年前に下校中に行方不明となった区内の高校生、紀村佐紀さんだったと判明しました。警察は行方不明になったのち、殺され遺棄されたものとして、殺人事件に切り替えて捜査を進める方針です』
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