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銀河鉄道の旅

 この二ヶ月、長い旅をしてきた。

 旅といっても旅行ではない。4月10日のコンテストに全力をつきこむために、計七作品の長編作品と、二作品の短編作品に触れた。

 すべて自作品。もう一作品を送り込もうと企図したが、どうもこの旅は終わらずにタイムリミットを迎えるようだ。


 それぞれ世界観の異なる世界。現実世界もあれば異世界もある。異世界も、どれ一つとってもまったく別の異世界だ。現実世界を扱った作品も四作品あったが、関連してないためにやはり別世界のように思える。

 言わば、九つの世界をこの数ヶ月、回ってきたともいえる。総文字数にして136万161文字の旅だった。


 『銀河鉄道999』ではその昔、一つ一つ世界の異なる星々に停車しながら、さまざまなドラマを展開し終着駅まで向かう銀河鉄道の、長大な軌跡が描かれた。シリーズによってエンディングは違うようだが、俺の知るシリーズの一つに、主人公鉄郎が地球に戻って、『999』が新たな世界に向けて旅立つのを見送るラストのものがある。

 その長い長い旅を総括し、ナレーションが一言、このように述べるのだ。

『それは、"青春"という名の旅だった』

 ……何かを求めて、いろんなことを思い、さまざまなことに傷ついて、そして、いつしか"自分"という場所に帰ってくる。物理的にどうとか、損得がどうということではなく、そういう、どこか夢のような時間を、"青春"という表現で総括したラストだった。

 ……と、記憶している。正直、幼い頃なのでいろいろあいまいだ。


 思えば俺の旅は、そういう旅だった気がする。

 作品を追ったのは、たった二ヶ月だったかもしれない。

 しかし、この九作品136万文字を描き上げるまでの間に費やした年月は1年や2年の話ではない。

 いろいろな想いが芽生え、いくつもの言葉が消えていった。子供が生まれ、コロナで世界が変わり、何度も「やれる」と意気込んで、何度も「もう駄目かな」と目を伏せて、……そんな背景を生きた男が残した136万文字に、俺は今一度触れたのだ。

 なるほど。あるいは『青春という名の旅だった』……のかもしれない。


 これらの作品は、ひょっとすれば一つも日の目を見ないかもしれない。

 現に自作品はプロ業界において、まだ一文字だって認められたことがないのだから、その作品がどうでも、その作品に賭けた想いがどうでも、自信などはもはやもてるものではない。今までどれほどの自信作が蹴散らされてきたことか。

 そして日の目を見なければ、俺が今までやってきたことなど、まったくの無駄に終わる。


 鉄郎は『青春という名の旅』を終えた時、その旅に出る前と何も変わらぬいでたちで『999』を見送った。明日からの生活を考えれば、「今までの旅に何の価値があったのだろう」と思う瞬間もあるのではないか。

 何も得られなかった。何も変わらなかった。そういう心境で目の裏に記憶されている『999』の後姿と夕日を思い出せば、鉄郎の心境は決して達成感ではなかったと思うのだ。


 暗澹たる思いで見上げる夕日を、俺はどのように思えばいいのだろう。

 振り返れば世間はくだらないことで今日もにぎやかに騒いでいて、それがなぜかキラキラと輝いていたりする。

 いや、ほんとにくだらないのでうらやましくもないが、キラキラ輝いていればなんでもいい虫たちが群がっているのを尻目に映しながら、136万文字という"思い出"だけを抱きしめて、鉄郎は立ち尽くしている。

 この空虚……俺は、どのように思えばいいだろう。



 ただ、同時に思うのだ。

 これがもしまったくの無駄に終わり、俺が創作家として大成できなくても、文字として残ったこれらの思い出は、いつか振り返った時に「俺はあの時、決して手を抜かなかった」と証明できる何かになるのではないか。

 その思い出を懐かしむ日は、逆に俺がなんらかで大成したとしても、きっとくるのではないか。

 無駄は無駄なんだけど、遠い先、ふっと自分が生きた軌跡をこのような形で垣間見た時、俺はひょっとしたら、自分自身のドラマに泣くかもしれない。それはあるいは、多大な虚しさのせいかもしれないし、絶大な感激かもしれない。


 作品はもちろん他人のために描いているものだけれども、最後の最後、人生を振り返った時には、自分自身が何かを感じることができる……と思えた時……

 それが「あの時あの人生の瞬間に、決して手を抜かなかった」と思えるものであるならば……

 あるいは、何もなくとも、俺は納得するのかもしれない。自分の人生に。


 実際は、今回巡った"たった九作品"で136万文字だ。

 今まで俺が描いてきた"思い出"はこれの数倍の作品数と文章量がある。さぁ、これらはいつか、俺の心を豊かにしてくれるだろうか。

 『999』を見送る鉄郎の見た夕日は、本当に素敵なものだったのだと思える日が来るだろうか。


 とりあえず俺も、地球に帰ってきた。

 そして俺はまた、明日から物語を描いていくのだろう。

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