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俺の『代表作』

 とある小説賞のレギュレーション(投稿の基準、ルール)が変わり、過去作で今まで送れなかった作品を送れるようになった。

 いずれも思い入れのある作品であり、「これらの作品が駄目なら、この賞にはもはや興味はない」と思える。傲慢だけど、向こうに"選ばれる"だけじゃない。こっちも選びたい。

 ともあれ、実力などすべてさておいてそんなことを考える傲慢な作家の、この舞台における最終ステージだ。

 ただ、それら作品を読み返しもせず、目をつむって送るほど不誠実ではない。今の実力で最高と思える形に直しながら、評価を受けようと思い、今四作品の校正を終えたところだ。


 そして迎えた四作品目。『破戒の海』。

 俺が今公開できる中でもっとも長く、もっとも思い入れのある物語を完結まで読んだ時、俺は言葉を失っていた。

 もともと、俺にとって"物語を描く"というのは、旅をすることと似ていた。

 生きるとは何か、人を好きになるとはどんなことなのか、なぜ人は生まれてきたのか。

 ……たとえばそういう、漠然とした人生の命題に、一つの答え(その物語の中での)を出すことが、俺が物語を描く、もともとの意味だった。

 だから、俺の作品は読者に対する問いかけでもあった。そういう答えのない答えを導くために、一緒に考えていきたいというのが俺の作品だったから、語り部は俺自身だし、ことあるごとに"筆者"も参加するのが、俺の物語の特色だった。

 俺が読者と、そして登場人物と共に、人生の命題に対する問いの答えを探すことが、俺にとっての物語だった。


 でも、そういう物語は今の時代の潮流ではない。『破戒の海』も感激してくれる人もいたが、一般的に理解を得られたかといえば、そうではなかったから埋もれて消えた。だからたぶん、今回コンテストに出しても入選はすまい。それはいい。

 その後、

「こういう手法では今は受け入れられない。ではどうすべきか」

 俺はそれを考え続け、その後も作品を生み出した。去年こそ一つの作品に苦戦したため及ばなかったが、数年間、一年間で完成した物語の総文字数は、五十万文字を下ることはなかった。

 だけど……「どうすれば受け入れられるか」を考えながら、それでも自分らしさを忘れたくないと、流行を追うことはせず描いてきた作品を読み……そして『破戒の海』に戻ってきた時、……さっきも言ったけど、俺は言葉を失った。


 俺は、魂を忘れていたと思う。いや現在進行形か。『魂を忘れて"いる"と思う』。

「そうだ。俺は、こういう物語を描くために、作家を目指したのだ」と……。

 俺の目指した"旅"が、そこには存在していたのだ。

 それを忘れたその後の作品から、"筆者"の存在感は消えていた。「どうすれば面白い展開になるか」とか、「どうすれば個性的な物語になるか」とか……くだらないとはいわない、しかし、俺にとっては瑣末な要素に支配された作品郡を気がつけば……俺は生み出し続けていた。


『破戒の海』も、だいぶそういう要素を削り、ミナサマにソフトな作品にして送ろうと思った。事実、かなりそのように描き換えもした。

 しかし、化石のように残っていたその魂に、俺自身が気がつけば引き込まれていた。これを否定して、この要素のない『破戒の海』を送り出して、この本がもし売れたとして……俺にとって何の意味があるんだろう。

 そう思える、"旅"が、そこにはあった。


 実際、今回いろんな物語を読んで、同作品の面白さ自体は、まぁぼちぼちトントンだと思う。てか、ナルシストな俺としては、他の作品も捨てたものじゃない。俺の作品は、それぞれに面白いと思ってるよ?

 だが改めて思う。如何に他の作品の方が高評価を受けたとしても、俺にとっての、今のところの代表作はやはりこの作品だと、胸を張って言える。そして俺にとって、こういう作品が受け入れられない世の中で作家をやって、果たして本当に意味があるのだろうかと思ってしまった。

 だって俺、こういう"旅"がしたくて、作家になりたかったのだから……。


 今回、だから、『破戒の海』はコンテストから引っ込めようかなと思い始めた。

 最後のステージだから全力で……と思ったけど、文字数の都合で全編は提出できないし、深く読み込まない連中に途中まで読んでがちゃがちゃ言われたくもない。

 まぁ、迷うとこなんだけど……それくらい、この作品は俺自身に、数年の時を経てもう一度衝撃を与えてくれた。

 数年経っても、俺自身に衝撃をくれる作品。俺は、本当は、やはりそういう作品を残したい。ただ面白いだけの作品なら、俺じゃなくたって描ける。もっと素質のあるやつだって、いっぱいいるだろう。


 本当にこれからどうしよう……かね……。


 ともあれ、ショックが大きかったので、備忘録として書いておく。

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