魔法の箱
箱の中に物を入れ、ボタンを押し、蓋を閉める。
あとは放置するだけ!
こんなに簡単な方法が今までにあっただろうか。
僕にとって彼女は愛の具現化だった。
なめらかな栗色の髪は、嫌がられると分かっていても犬を撫でる様に、ワシワシ、と激しく触りたい衝動が爆発しそうになるし、
その雪の様に真っ白な肌は、目の端を横切るだけであまりの美しさに意図せず、口から音が溢れる。
そうして溢れた音に気づいて振り向く顔が例え眉が歪み、生ごみを見る目と同じだったとしても、僕にとっては最上の喜びであり、例えようのない熱と興奮に体が包まれるのだった。
彼女の手料理で僕が一番好きな物はパスタだった。ただのパスタではない。その冷たく凍った塊がじわり、ジワり、と、汗をだし、とけていくのを見ることで、僕はいつでも彼女の姿を思い浮かべられる。
彼女と初めて出会ったのは上場企業を経営する親にさせられた見合いの席だ。僕が彼女に好意を持った事を僕の親へ伝えると、僕の知らぬうちに婚約へとコマが進んでいた。相手の親も弟もたいそう喜んだらしい。
彼女の帰りは遅かった。彼女はいつも、昼頃に、僕のプレゼントしたブランド物の服やバッグを体に飾り付けて家を出ていく。そうして僕がちょうど仕事で家を出ていく頃にようやく家へ帰ってくる。そのどうにも触れることの出来ない焦れったさが僕を夢中にさせるのだ。なんと恋愛の分かる彼女なんだろう!
彼女は毎日僕に暴力を振るった。彼女はそれを「愛ゆえの行動なのだ」と、言った。種類は実に様々で、言葉であることもあれば、殴ったり、蹴ったり、首を絞められたことなんかもあった。彼女の無限の愛に僕の幸福は頂点へと達していた。
その日は、いつもの様に彼女の様に彼女の愛を浴びていた。彼女の愛は激しく、衝撃により、僕の世界は回った。
9回目の振り下ろされる愛を受けとった時、
突然、僕の世界は暗闇へと変わった。少し時を置いて、僕の心は暗く、重い、コールタールで満たされた。
ある日、僕は親から借りた倉庫に彼女を呼び出した。
彼女の電話の履歴にある番号を使えばそれは至極容易な事であった。
何もない倉庫に戸惑う彼女を蹴飛ばし倉庫へと押し込み、僕はボタンを押した。
最近、新しく倉庫を3つ借りた。
その内2つには既にロックがかかっている。
最後の箱に入る荷物もなんとか手に入りそうだ。
満足感に浸り、冷たい金属製の倉庫に寄りかかる。
そして、彼女の母親の携帯の番号を開き、ある番号を自分の携帯で打ち込む。
……
コール音が止んだ。
「…もしもし?」
携帯は義弟の声を吐き出した。
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