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第6話 空腹の少女とピグカツサンド

 小屋に住み始めて3年経つが、今まで誰かが訪問してきたことなど一度もない。

 ここは街からかなり離れた場所にあるらしく、自分で街に行かない限りは人の声を聞くことすらほとんどなかった。


「……はい」


 恐る恐るドアを開け、隙間から外の様子を伺う。

 するとそこには――


 ――お、女の子!?

 え、こんな山奥に? 1人で?


 しかもこの子、なんかフラついてないか?


「……を……い……」

「……え?」

「何か食べるもの、を、くださ、い……」


 その女の子は、それだけ言うと倒れてしまった。


「お、おいっ!?」

「おなかがすいて力が出ない……」


 どうにか意識はあるらしい。


「……ちょうど今、ピグ肉で作ったカツサンドがあるんだけど」

「か、カツ、サンド? でも何かいい匂い……」

「ひとまずほら、立てるか?」


 オレは女の子に手を差し伸べて立ち上がらせ、小屋に招き入れた。


「……あ、ありがと」

「そこに水道もあるから使って。これ、タオルな。洗ったらこれ食っていいから。あ、飲み物はお茶でいいか?」

「え、ええ」


 女の子は手を洗って席につき、目の前のピグカツサンドを凝視している。

 ……カツサンドは重かったか?


「違うものがよければ、これから作ることもできるけど……」

「う、ううん! このピグカツサンド?っていう料理を食べたことがなくて。どうやって食べたらいいのかしら」

「ああ、そのまま手に持って、好きな場所からかぶりついてくれ」

「か、かぶ――!?」


 抵抗を感じるのかしばらく思案していたが、意を決した様子で手に取り、恐る恐るかぶりついた。


「んーーーーーーーっ!?」


 どうやらとてもお気に召したらしく、二口目からは黙々と食べ続けてあっという間に完食してしまった。


「……ふう」

「落ち着いたか?」

「え、ええ。突然ごめんなさい。私はリディ。道に迷ってしまって、もう2日くらい何も食べてなかったの」

「それは災難だったな。オレはレイアだ。落ち着いたら街まで送っていくよ」

「え、ええと……その……それより、少しの間ここに泊めてもらえないかしら」

「――え?」


 こ、こいつ何言ってんだ?


「じ、実はその、ちょっとした事情があって……」

「……事情」


 こいつ――リディにも、実は何か人に言えない事情があるのかもしれない。

 もしそうなら、ここから追い出したら――


「……はあ。分かったよ。小さな小屋だけど好きにしてくれ。食べ物くらいは用意するよ」

「本当!? ありがとう! これからよろしくね、レイア」


 ――レイア。

 こうして誰かに名前を呼んでもらうのはいつぶりだろう?


 胸の中に、じわっと温かい何かが広がっていくを感じる。

 実家を追放されてからも、べつに1人でも困らないと思っていたが。

 でも実は寂しかった――のかもしれない。


「ああ。よろしくな、リディ」

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