第7話 女王陛下は、義理の妹と仲良くなりたい。
晩餐会、ウル視点。
晩餐会のループは今回で締めくくりです。
「ウル、紹介する。父と母は、大丈夫だな」
ウルとリオが、皇帝と皇后のほうを向くと、二人は頷きながら優しい笑顔を浮かべていた。
それに対して、ウルも笑顔で会釈する。
じゃあ、と顔の向きを変えたリオが手のひらで指し示す。
「兄のレオンと弟のマオ。そして、兄の婚約者のセレーナ様、マオの婚約者のステラ嬢。お二人は夜の国の第二王女と第四王女で姉妹だ」
「まぁ。ご姉妹で砂の国へ――」
ウルの口から思わず感想が漏れたが、はっとした。
「申し訳ございません。ご挨拶もせずに……。雪の国の女王、ウル・ラド・スノウと申します。どうぞ、ウルとお呼びください」
立っている時のように膝を折ることはできないが、精一杯、丁寧に頭を下げた。
皇太子レオンがそれに応える。
「ウル殿……、いや、スノウ陛下。リオ共々、今後も家族として親しく付き合えると嬉しい」
「レオン殿下、皆様。わたくしのほうこそ、どうぞよろしくお願いいたします。よろしければ、どうぞウルとお呼び……ください」
レオンと視線が合っていないことに気付いたウルは、レオンの視線を辿った。
そこには不機嫌な顔を隠さないリオの姿があった。
レオンが途中で、ウルの名の呼び方を変えた理由が分かってしまった。
ウルはリオの足を踏みつけたい気分になったが、バレないように足を伸ばすには少し距離がある。
視線だけで幼稚な攻防をする大人を見ていたマオが口を開く。
「ウル義姉上も、セレーナ義姉上と同じくらいお綺麗ですね」
とても嬉しいが、マオの隣に座るステラの視線が少しだけ痛い気がする。
「マオ殿下、ありがとうございます。マオ殿下も素敵でいらっしゃいますね。ステラ様と並んでいらっしゃるお姿が、とてもお似合いです」
マオもステラも満足げに笑った表情を見て、ウルは胸を撫で下ろした。
(できれば女同士、仲良くしたいわ。ステラ様はヤキモチを焼くくらい、マオ殿下がお好きなのね。お可愛らしい……。私の隣にいる人のヤキモチは可愛くはないですけど)
ふと、ウルはセレーナの視線に気付いた。
妹のステラがウルを威嚇したことに対して申し訳なさそうに、軽く頭を下げた。
ウルも微笑みながら、ほんの少しだけ首を振る。
おそらく、そのやり取りに気付いたのは皇后とレオンだけだろう。
皇后は大人の女性として、また、女主人としての気配りから。
レオンはセレーナの一挙一動を細かく観察しているように感じた。
(レオン殿下はセレーナ様をとても愛していらっしゃるのね。このお二人も素敵だわ)
二人を微笑ましく見つめていたウルに、セレーナが呼びかけた。
「ウル様。女王陛下にこのようなことを申し上げるのは不躾ですが、どうぞ姉妹のようにお付き合いいただけましたら、幸いにございます」
ウルは少し慌てるように返事をした。
「不躾などと、そのようなことをおっしゃらないでくださいませ。セレーナ様も皇太子妃、いずれは皇后陛下になられるのですから。それに身分など関係なく、親しくしていただけましたら、わたくしも嬉しく存じます。――父を亡くしてから、わたくしには肉親がおりません」
セレーナの表情が寂しげに曇った。
「しかし、血が繋がらなくとも、リオ様という掛け替えのない家族ができました。また、そのご縁から、皆様にお会いすることができ、本当に嬉しく思います。セレーナ様、ステラ様と姉妹のように、時には友人のようになれたら、と願っております」
その言葉を聞いたセレーナの瞳が優しく細められた時、上座から華やかで威厳のある声が響いた。
「母もおりますからね? 忘れないでくださいませ」
「もちろんにございます」
ウルとセレーナの声が重なった。
女性陣がくすくすと笑っていると、男性たちは置いてけぼりをくらったように苦笑いをしている。
朗らかな空気の中、セレーナが少し厳しい表情で硬い声を出した。
その矛先は妹のステラだ。
「ステラ、あなたはウル様にご挨拶をしましたか? 未来の皇子妃として恥ずかしくない行動を」
ステラは一瞬ムッとしたが、すぐに王女らしい表情と振る舞いをした。
「ウル様。王女としても未来の皇子妃としても、まだまだ至らぬ点がございますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
そう言ったステラは綺麗に礼をした。
少し棘がある声音だったが、王女として十分な振る舞いだ。
そこに、すかさずマオがフォローを入れた。
「ウル義姉上、ステラはとても真っ直ぐな人なんです。時折、真っ直ぐ過ぎるところもありますが……。私共々どうぞよろしくお願いいたします」
マオの含みのある言い方に、ウルも周囲の大人たちも笑ってしまいそうになったが必死に堪えた。
「マオ殿下、ありがとうございます。ステラ様に……、もちろんマオ殿下にも、仲良くしていただけましたら幸いです」
気付くと、給仕をしていた使用人たちにも温かな目を向けられていた。
(とても温かで優しい場所……。ここがリオが暮らした場所なのね)
本当にリオにそっくりなマオの姿を見ながら、リオの幼い頃に想いを馳せる。
その後も和やかな会話と、美味しい食事をしながら、夜が更けていった。
何か挨拶しかしてないな……
新しい親族が集まると、こんなもんだろうかとも思ったり。
嫉妬深いのが二人ほどいるしな……
いきなり親しくできないか。
お読みくださり、ありがとうございました。