第6話 側近兄弟の会話内容が、気になります。
今回は皇太子の側近アランと、第二皇子リオの側近ランドのターンです。
晩餐会の護衛をしながら壁際で話しているので、ほとんどが会話文になってしまいました。
しかし、この兄弟のウリはおそらく『言葉』なので、このスタイルもアリかな、と。
砂の国の城で、和やかに晩餐会が始まった。
護衛を兼ねて、その様子を壁際で見守りながら皇太子レオンの側近であるアランと、第二皇子リオの側近であるランドが小声で話し始めた。
二人は実の兄弟だが、「そう言われれば、似ている気がする」という程度にしか容姿は似ていない。
しかし、「質の悪さは、そっくりだ」と、主であるレオンとリオに言われている。
「久しぶりだな、ランド」
「ご無沙汰しております、兄上。ご健勝で何より」
「お前もな。まぁ、堅苦しい挨拶はこのあたりまでにしておこう。雪の国には慣れたか? スノウ陛下とリオ殿下のご様子はどうだ?」
「おかげ様であちらの暮らしにも慣れてきました。お二人については……。リオ殿下の溺愛ぶりで雪も解けそうですよ」
「そうか。まぁ、夫婦仲が良いのは何よりだ」
「レオン殿下とセレーナ様はいかがですか?」
「そうだな……。こちらのお二人も『太陽も焦げそう』と言いたいところだが、レオン殿下が外遊からの帰国後、チキンにお成りあそばされたからな。セレーナ様に気持ちが上手く伝わっているのかどうか」
「兄上、丁寧に言えば良いというものではないのですよ」
「お前だって、リオ殿下に対して大概だろ」
「まぁ、時と場をわきまえて楽しませていただいていますよ」
「こんな会話を聞けば、また父上が頭を抱えそうだな。相変わらず母上にも翻弄されているようだし」
アランが、ククッと忍び笑いをする。
二人の父親は砂の国の宰相だ。国の経営に災害や疫病、戦への対策、どれにおいても彼の右に出る者はいないだろう。
しかし、その宰相ですら掌握できない相手が妻と息子たちだ。
「兄上は、そろそろ身を固めないのですか?」
「父上のようなことを言うな。俺が家庭を持つのは、レオン殿下が正式に婚姻なさった後だと決めている」
主人たちの食事中、従者が私語をするなど無礼極まりない。
しかし、両手を後ろで組んで直立不動のまま視線も合わさず、ボソボソと会話し続ける兄弟を誰も咎めない。
むしろ、話の内容を聞きたがっている者すらいる。
そこに執事長やメイド頭さえ含まれるのだから、咎められるのは主である皇族のみ。
しかし、彼らも全く気にしていない。
それどころか、同じテーブルに着けとまで言われる始末。
さすがに「そういうわけにはいなかい」と、二人は断った。
すると、全員が残念そうにしながら引き下がった。
この皇族一家はどれだけおおらかなのか、と少し不安にもなる。
しかし、このように身分を笠に着ない人柄が、仕える身として誇らしくもある。
また、兄のアランが話し始めた。
「お前こそどうなんだ。サラとは会えたのか?」
「どこまで知ってるんですか?」
「さぁな。まぁ少々、面倒なことになっているようだが頑張れ」
「今はリオ殿下でも、その話題は避けてくださいますよ」
「俺はリオ殿下ではないからな。何を期待していたんだ」
「私が間違っていました」
「まぁ、弟の行く末が気になるだけだ」
「面白がっていますね?」
「否定はしないでおこう」
はぁ……
「兄上がどこかのご令嬢と恋仲になった時、覚えていてくださいよ?」
「何だ、俺で遊んでくれるのか?」
「――善処します」
「ははっ。何だ、それは。それに俺はいずれ父上から、宰相の役目と公爵家の家督を継ぐだろう。政略結婚が妥当じゃないか?」
「兄上が父上の思い通りになりますか?」
アランは横目でランドを見て、ニヤリと笑う。
「良縁というのは、自分で見つけるばかりではないからな。レオン殿下とリオ殿下が良い例だ。見合い相手に会ってみないと、未来は分からない。昔からの知り合いでも、直接会って話を聞かないことには見えないこともある。なぁ?」
「意地の悪い人ですね」
「何を言う。優しい兄をつかまえて」
「あなたの言葉は、いつも意地が悪くて的確です」
「ははっ。褒め言葉として受け取っておくよ」
「本当に……。父上も、さぞご苦労なさっていることでしょうね」
「腹の探り合い、化かし合い、それも宰相の仕事の一つだ。出来の良い息子を持って、さぞ喜んでいるだろうさ」
「――そうですね」
ランドは兄との会話を投げた。
お読みくださり、ありがとうございました。
次話はウルとリオの出番の予定です。