第11話 女王陛下は、恋の応援をしたい。
ランドとサラの恋が動き始めそうです。
城に戻ったウルは、リオの自室のソファで一人まどろんでいた。
ウルが帰ってきた時にリオの姿はなく、どこかに出かけているようだった。
日差しをたくさん浴びて横になりたい倦怠感があるが、勝手にベッドを使うのは、はばかられる。
そのため、クッションを抱えて、うつらうつらとしていた。
しばらくするとドアが開き、「おかえり」と優しく声をかけられた。
ウルは半分寝ぼけた状態だったが、帰ってきた人に「おかえり」と言われたことに笑いながら「ただいま」と答える。
「リオもおかえり。どこに行ってたの?」
「サロンで、ランドとチェスをしてた」
「相変わらず仲が良いねぇ」
「城下は楽しかったか? ははっ、少し焼けたな。痛くないか?」
あまり強い日差しを浴びることのないウルの頬が、赤く火照っている。
そこに、ふわりとリオの親指が触れる。
少しだけチリッとした痛みが皮膚に走った。
「……大丈夫。楽しかったよ。お義母様に洋服やアクセサリーをたくさん買っていただいたの。なんだか申し訳なくって」
「義娘ができて、嬉しくて仕方ないんだろ。悪いが、多少は付き合ってやってくれ」
「ご一緒するのは楽しくて、私も嬉しいんだけど……。あれは、多少ではないかなぁって」
ウルが指さした先を見たリオの表情が固まる。
そこにはシャンパンタワーのごとく、プレゼントされた品が積み上げられていた。
「これは……。うん。雪の国に持って帰るのが大変そうだが、受け取ってくれ」
「それはもちろん。喜んで」
そして、リオが半笑いのままソファから立ち上がり、チェストから小さな小瓶を持って戻ってきた。
「なに?」
膝が触れ合うほどの距離に座りなおしたリオは、小瓶のふたを開けて、手のひらにトロトロとした液体を出した。
「植物から取れる消炎作用のある塗り薬。外は硬くて棘がある植物だけど、中はゼリー状になってる。それが火傷や日焼けに効くんだ」
「へぇ。砂の国では、行く先々で初めて見るものばかりだわ」
「これだけ環境が違うとなぁ。ウルは雪の国から出たのは初めてだろ? 帰った時に体調を崩さないように気をつけないとな」
「リオも雪の国に来た時、大変だった?」
「まぁ、最初のうちはね」
会話を続けながらリオは、ウルの頬や首筋、耳裏にゆっくりと薬を塗っていく。
時折ウルが顔をしかめると、「痛い?」とリオが尋ね、ウルが首を振る。
「大変だったって、どんなふうに?」
「どんなふう? うーん。まぁ、寒い」
「それは当たり前でしょ。もっと具体的に」
「具体的にー? 関節が痛くなったり、風邪引きそうになる回数が増えたり。あとは日光が少ないから、ちょっと精神的に落ちることもある」
「え? そんなことになってたの?」
ウルはリオの両手首を掴んで、顔を覗き込んだ。
「ちょっとだけ、ね。ウルがそばに居てくれたら大丈夫」
「もぉ……。大変な時や辛い時は、ちゃんと話してよ?」
「了解。ウルこそ、なんで急にそんなこと聞くんだ? 砂の国の気候が辛くなってきたか?」
「確かに炎天下はちょっと辛いけど、こういう環境もたまには良いなぁって思ってる」
「じゃあ、どうして……」
ウルは昼間の、カフェでの会話を思い出す。
「今日のお買い物、伯爵家のサラ様とおっしゃる方も一緒だったの」
リオの手が分かりやすく止まった。
「なに? 何かやましいことでもあるんですか?」
ウルが、じとっと睨むとリオは激しく首を振る。
「ないない! そういうことじゃない! サラ嬢は……、どんな様子だった?」
「様子?」
まだ少し機嫌の悪い声で、ウルは答える。
「お体があまり丈夫じゃないみたい。あとは、雪の国の暮らしにご興味があるみたいよ。寒さに弱い人が、どのように暮らしているのかって、熱心に質問されたわ」
リオが、あからさまに驚いた表情をしている。
ウルはもう一度睨んだ。
「いや、本当に俺とどうこうってわけじゃないから。……サラ嬢は、ランドの恋人だったんだよ。つい、最近まで」
「え!?」
今度は、ウルが驚く番だった。
ウルが至近距離で大きな声を出したため、リオが苦笑しながら片耳をさする。
「二人は結婚を見据えて交際してた。でも、サラ嬢の体質は、雪の国の気候に合わないそうだ。子どもも……できないかもしれないと医師に診断されたらしい」
ウルは思わず、両手を口に当てて眉根を寄せた。
(私も呪いをかけられていたけど、リオが居たから……)
リオの魔法がなければ、おそらく雪だるまの呪いは今も解けていないだろう。結婚も難しかったかもしれない。
しかし解呪うんぬんの前に、今となってはリオと離れるようなことは想像すらしたくない。
「ウルにも近いうちに相談しようと思ってたんだ。……そうか。サラ嬢も、まだ完全に諦めたわけじゃないんだな」
良かった、とリオは安堵の息を吐いた。
「私にも、何かできることはある?」
「雪の国の暮らしについて、もっと詳しく教えてほしい」
リオの言葉に、ウルは何度も頷いた。
お読みくださり、ありがとうございました。
「買い物に付き合ってあげてくれ」
「買い物に付き合ってやってくれ」の言葉に迷いました。
「母親、皇后陛下」
「息子、王配」「嫁、女王陛下」
どっちが正解なんだろう……




