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第10話 女王陛下は、義理の母と城下にお出かけ中です。


「ウルさん、これはどうかしら?」


 天幕を張った露店が並ぶ市場で、ウルは先ほどから、着せ替え人形のようになっていた。

 実際に着替えるわけではないが、鏡の前で次々にワンピースや、装飾品を合わせられる。

 

 あれやこれやと服や小物を勧めてくるのは、砂の国の皇后。

ウルの夫の母親、つまり義理の母にあたる人だ。


 どこの世界でも、できれば義両親には好かれたいだろう。

幸いにも、皇后は親しみやすく優しい女性だった。

 

 最後の肉親であった父王が亡くなり寂しい思いもしたが、自分は温かい家族に恵まれたのだと、ウルは心から思った。


 しかし、普段は雪の国で暮らすウルにとって、炎天下での買い物は少しつらい。


(少し休みたい、なんて言うのは失礼よね。しかも、私の好みに合う品を的確に選んでくださっているわ。少しだけ、露出度が高い気はするけれど……)


 ウルたちの近くで護衛をしている二人の騎士、そして、遠くから目を光らせながら見守っている数名の騎士も大変だろうな、とウルはあたりを見渡した。


「あら、ウルさん、疲れさせてしまったかしら? 少し休憩にしましょうか?」


(しまった……。顔色を読まれてしまったわ。この方、鋭いのよね……)


「サラ、あなたも先ほどから何も話さないけれど、体調でも悪い?」


「いいえ、そのようなことは……」


 町歩きに同行していたのは、伯爵令嬢のサラ。

日傘を差していても、頬が上気している。

 しかし、全体的に体の線が細く、肌の色がとても白い。青白いとも言える。

白に近い銀の髪や、空色よりもまだ薄い瞳が一層、儚く見せているのかもしれない。


(お体が弱いのかしら……)


「そう? でも、私は少し疲れたわ。二人ともお茶に付き合ってくださいな」


 ウルは少しホッとした。

 しかし、まだまだ動けそうな皇后の様子を見ていると、おそらくウルとサラの顔色から休憩が必要だと判断したのだろう。


(本当にすごい御方……。お側にいるだけで、勉強になることばかりだわ)


 凛とした雰囲気に細やかな気遣い。

女性には珍しく、政治にも積極的に関わっている。

そのため、時には身勝手な要望を出す貴族たちをたしなめることもあるようだ。


 皇后、皇族とは、こうあるべきだというお手本のようである。

 また、国民との距離が近く、信頼も厚い。

行く先々で、敬意を払いつつも親しげに話しかけてくる店主や女将が何人もいた。


「皇后陛下! 珍しい果物が入ったのですよ。お一つ、いかがですか?」


「ありがとう。帰りにいただくわ」


「えーっと、そちらのお嬢様方は……」


「あ、そうね。ご紹介しておかないとね。まず、こちらの麗しいお嬢さんはね……。何と! リオのお嫁さんで、私の初めての義娘(むすめ)。そして、雪の国の女王陛下よ」


 確かにその通りなのだが、身分やら立場やらが、複雑な説明だ。


「おぉ、リオ殿下の! お目にかかれて光栄です!」


 近くの店の主人たちも、わっとざわめきだす。


「今後、城下など、私の目が届かないところでお困りの時は、手を貸して差し上げてくださいな」


「えぇ、もちろんにございます。何なりとお声掛けください」


「ありがとうございます」


 礼を述べながらウルがふわりと微笑むと、店主が少し鼻の下を伸ばして照れるように笑った。


「そして、こちらの可愛らしいお嬢さんは、この国の伯爵令嬢です。今は行儀見習いで登城しているため、今日のお買い物に付き合ってもらってるのよ」


「貴族のお嬢様! やはり、そうでしたか。もし、よろしければ、この青果店をどうぞご贔屓に」


 商売上手そうな店主に、サラも優雅に笑いながら頷いた。


「さて、ではカフェに行きましょうか。この露店の通りを抜けると、また雰囲気が変わるのですよ」


 そう言って皇后は、先頭を歩いていく。

そして、ほんのわずかに道が変わるだけで、異世界のような石畳の町が現れた。


 宝石店に、オーダーメイドのドレスも扱っている洋服店。フラワーショップにテラスのあるカフェなど。

華美といるよりも、上品な通りだ。


「こんにちは。いつものテラス席、良いかしら?」


 行きつけなのか、カフェの中を覗きながら皇后が声をかけると店員が飛び出してきた。


「皇后陛下! ようこそお越しくださいました。どうぞご案内いたします」


 行きましょう、というように目で合図され、ウルとサラも後ろを付いていく。


 日除けの大きなパラソルの下に、丸いガラステーブル。籐を編んだ背もたれのある椅子。

 座ってみると、体重で少したわむ感覚が不思議だった。しかし、底が抜けるようなこともなく丈夫そうだ。


(面白いインテリアね。室内であれば、雪の国でも使えるかしら)


 ウルは自国の発展に繋がるものがないか、砂の国で様々なものを見ながら情報を吸収している。


「ウルさん? どうかなさいましたか?」


「あ、失礼いたしました。初めて拝見するインテリアだったもので。雪の国でも、屋内であれば使用できるのではないかと思いまして……。さすがに、こちらのように屋外での使用は難しいかもしれませんが……」


 そう言うと、ウルは苦笑した。

雪の国をとても愛しているが、凍えそうな寒さがつらい時もある、というのが本音だ。


「熱心な女王陛下のご誕生で、雪の国の方々もさぞ、ご安心なさったことでしょうね」


「いえ、そんな。(わたくし)などは、まだまだです。宰相にお小言を言われることも多く……。現在はリオ様やランドに、ずいぶんと助けられています」


 ウルの言葉を聞いたサラが、肩を震わせた。

 瞳が少し潤んでいるようにも見える。


「サラ様、大丈夫でしょうか? やはり、どこかお体の具合が……?」


「サラは生まれつき、あまり体が丈夫ではないのです。今日は少し無理をさせてしまったのかもしれません」


 皇后が労るように、サラの肩を撫でた。


「申し訳ございません――」


 サラの消え入りそうな謝罪に、ウルが慌てた。


「そんな、お気になさらないでください。体質などは皆、何かしらを生まれ持っているのです。完璧な人など、おりません! 私が幼い頃から世話をしてくれているメイドも、その娘も寒さに弱く、体調を崩す時もありますが皆、支え合っています」


 サラが驚いたように顔を上げた。


「……雪の国でも、寒さに弱い方が暮らしていらっしゃるのですか?」


 ウルは、少し首を傾げた後に頷いた。


「もちろんです。体質や体力は人によって様々です。砂の国では、暑さに弱い方はおられないのですか?」


 サラは何かを思い出すように沈黙した後に、ゆっくりと答えた。


「いえ、いらっしゃいます……。大多数の方が暑さに強いですが、やはり熱中症になってしまう方もおられます。雪の国の水で作った氷で、ずいぶんと暮らしやすくなったという話を、我が伯爵領でも聞いたことがあります」


「お役に立てているようで、嬉しい限りです」


 リオが生まれ育った国に何かしらの益をもたらせていたことに、くすぐったい喜びを感じた。


「あのっ! スノウ陛下! 寒さに弱い方が雪の国でどのように暮らしているのか、詳しくお聞かせ願えますでしょうか?」


 サラの大きな声に驚いた。

おそらく普段から、このような大声を出すことはないのだろう。

ウルだけではなく、皇后も驚いた顔をしている。


「もちろんですよ、サラ様。何でもお尋ねください。また、よろしければ、ウルとお呼びくださいませ」


「ありがとうございます……。ウル様」


 少し遠慮がちに、ウルの名を呼ぶサラが可愛らしい。

 姉妹のように、友人のように話せる人が増えるかもしれないと、ウルは胸が高鳴った。


 そして、サラの様子が少し明るくなったことに、皇后もウルも安堵した。

サラの心にも、何かしらの変化があったようです。


お読みくださりありがとうございました。

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[一言] たおやかな感じが とても素敵(#^.^#)
[良い点] うっわー!! 感想おめでとうございます!! 良かったですねー。嬉しいですよねー。 一次通過してるといいですねー!! 発表直前に感想来るって、期待しちゃいますよねーー!! [気になる点…
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