回想
「リナ、ただいま、はい、これはお土産。
あぁ、ルーカス坊ちゃん。いつもリナと仲良くしてくれてありがとう。
ルーカス坊ちゃんが毎日リナを気にかけてくれるから、安心して仕事に集中できたよ。
旦那様もルーカス坊ちゃんのことをいつも褒めてるよ」
隣街の交渉から帰ってきた父を、嬉しくて真っ先に玄関へと出迎えた。それまで部屋で一緒に課題をしていたルーカスを残して。 慌てて部屋を飛び出した私の後ろを、ゆったりと付き添ってきていたルーカス。
そう、ゆったりと歩いて来てたはずなのに、いつの間にかすぐ近くにいた。歩幅が違うからかな。私だけバタバタしていて恥ずかしい。
『もぅ、お父さん、私ももう子供じゃないんだから、一人で留守番出来るし、ルーカスを買い被りすぎなんじゃないの~。
私だってルーカスを気にかけてるし…というか私のが…』
「ははは、リナ、分かったから、お土産をルーカス坊ちゃんと開けておいで。お父さんは、ゆっくり休ませてもらうよ、ルーカス坊ちゃん、ではまた」
「隣街への交渉、お疲れさまでした」
『もぅ、お父さんっ』
ポンポンっと私の頭を撫でて父は自室へと向かった。
『いっつも子供扱いして~』
撫でられた頭の上に手を乗せてむくれる私。
「子供扱いしたくなるよ。毎日朝起きれないみたいだし、いつもバタバタしてるよねリナは」
『ちょ、もぅルーカスまで』
頭上に乗せた私の手の上を、ポンポンっと撫でるルーカス。
『朝は…苦手なのっ。というか関係ないじゃない。もうすぐ卒業するし、十分大人に近づいてるんですけどっ』
ぶつぶつ文句を言いながらも、お土産が楽しみで、部屋へと戻る。
そんな私の後ろをルーカスは黙ってついてきていた
「いつまでも子供じゃないから、心配なんだよ…… 僕もね」
『ん?ルーカス何か言った?』
私は何か話しかけられた気がして、後ろを振り向いてルーカスに問いかけたけれど、ルーカスは澄ました顔をしていた
気のせいかな…
部屋へ戻ると、先程と同じ位置に座る
父からのお土産を開けてみると、りんごの詰め合わせだった。
「わぁ、良い匂い」
「これは美味しそうだね。」
『ルーカスも果物好きだもんね。さっそく
剥くね』
私はテーブルを片付けて、果物ナイフを持ってきた。ぎこちない手つきで真剣に剥いていく。
「僕も手伝う。包丁借りるね」
ルーカスは包丁を取りに行って戻ってくると、器用にりんごを剥き始めた。 ルーカスは頻繁に家に遊びに来ているので、いつの間にか物の場所なども覚えていた。
ただりんごの皮を剥いているだけなのに、それだけでも素敵に見えるのはなぜだろう
なんだか不思議な気持ちでじっと見つめてしまう。
シュルシュルとりんごの皮が細長く伸びていくさまが心地よくて…
「何?」
そんな、私の視線に気づいたルーカスに問いかけられる
『べつに…上手だなと思って』
「あぁ、ちょっと刺繍の練習した時に、皮剥きの練習もしようかなと思って、少し練習したんだよね」
!!!
刺繍って…あ、あの時の…
私は嬉しいやら恥ずかしいやらで赤面していた
私は恥ずかしいのを悟られないように、平然を装い疑問を口にする
『し、刺繍と皮剥きって関係ないよね?』
「だって、料理苦手そうだから。リナ。
だから、皮剥きくらいは僕がすればいいかなって思って。そしたら2人で一緒にできるし。よし、きれいに剥けた。これくらいの大きさに切ればいいかな、はい、リナ」
『え?…』
さらっと動揺することを言われたような……
理解が追いつかず混乱しているところに、ルーカスから口の中へりんごを差し出された。
モグモグモグ…
『美味しい!』
夢中で食べる私を見てルーカスは微笑んでいたように思う
そうであってほしいと思っていたのかな…
「ねぇ、リナ」
「…んん?」
私はりんごが口の中にあったので、上手く返答できなかった
「卒業して、お互い商会で働き始めて、それで、もし、いつか隣街への交渉のメンバーに選ばれたら、その時は、一緒に……行けるといいね。
いや……一緒に行こうリナ」
『う~ん、そうだね』
「リナ?」
煮え切らない私の返答を訝しむルーカス。
「ふふ。ごめんルーカス。なんだか実感がわかなくて。もうすぐ卒業なんだよね私達。卒業かぁ……
そうなれるといいね。」
「あぁ」
『約束ね、ルーカス』
私はルーカスに向かって微笑んだ
いつ見てもルーカスの眼差しは優しい
優しかったね……
『あぁ… 夢か…』
頬に手を当てると、涙が流れていた
懐かしい夢…
今さらこんな夢を見るのは、ルーカスに会ったからね
運命は残酷だわ…
運命のせいにはしたくないけれど
運命は決まっているものではなく切り開くものだって、
未来は自分で変えられるって
だから、誰でも幸せになろうとすればなれるって
そんな事を聞いたことがある
でも…
もし
例えば今まで付き合った人が、同時期に現れていたら
どうするのだろう
やはり別れた人を選ばないのだろうか
別れることになるとしても、想いを告げるのだろうか
それとも、悩むことなく、この人しかいないと惹かれるのだろうか
悩むということはどちらも大切だから?
心惹かれるならそもそも悩むことなどあり得ないのかな
今の生活を大切に…か…
失って後悔した…ことって…
今さらそんなこと言うなんて
ずるいよ…ルーカス