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   第四話  ガントレット





「私がワーウルフに変身させるのは今回かぎりよ」


 ガントレットゴリラの力を手に入れた後のコト。

 ギムレットが難しい顔で宣言した。


「どうして? 変身した方が危険も少ないのに」


 許可が出たので普通に喋るコトにした奈津人に、ギムレットがズイと顔を近づける。

 目の前5センチにある究極美少女の顔に、奈津人の心臓はドキドキと飛び跳ねた。


「前に話したけど、ここは魔法も、魔法を発動させる為に必要な魔力も、全て封じ込める場所なの。だから攻撃魔法さえ使えたらこんな洞窟、1発で大穴開けれるのに、今はチマチマと小動物食べて、物理的破壊力をアップさせるしかないわけ」


 ギムレットの言葉に、奈津人は洞窟を見回す。

 こうして改めて見ても、やはりとてつもなく巨大な洞窟だ。


 ギムレットは今、攻撃魔法一発だと言った。

 しかし、これほど巨大な洞窟を、魔法一発で本当にぶち抜けるだろうか? 

 奈津人の考えは顔に出たらしくギムレットが可愛い顔をしかめる。


「なによ、その顔は。私の一族は魔力なら世界一。そして私の魔力は一族の中でも1番。言わば私は世界一の魔法使いなんだから、その程度の攻撃魔法は朝飯前よ。まあいいわ、話をもとに戻すと、ここじゃ魔法も使えない上、魔力の補給も出来ないの。さっきは私の体内に蓄積していた魔力を使ってナツトをワーウルフに変身させたけど、ここでは魔力の補給が出来ない以上、脱出に備えて魔力は温存しときたいの」

「これから楽が出来ると思ったんだけどなぁ。ま、今まで通りと思えば大したことじゃ……小動物?」


 そう、確かにさっきギムレットは小動物と口にした。

 まさか、と目で問う奈津人にギムレットは当然の様に答える。


「虎、熊、ライオンなどが、他の獣を食べて強くなった程度の猛獣なんて小動物じゃない。蟲毒はこれからが本番よきゃ!」


 奈津人はギムレットをいきなり抱きしめた。


「な、何を……」


 抗議の声を上げるギムレットを抱いたまま。


 タタタタタ!


 奈津人は鍾乳石を駆け上るり、地上50メートル地点にぶら下がった。


「え? え?」


 訳が分からないギムレット。

 分かるのは、奈津人にキュ、と抱き締められて頬が熱いコト。


「なんで? ナツトは只の下僕なのに、どうして?」


 小さくそう口にすると同時に。

 泣きながらギムレットを呼んでいた奈津人の顔が浮かんだ。


 その瞬間。

 一気に顔が熱くなり胸が苦しくなってしまう。


「ど、どうしたのよギムレット。しっかりしなさい!」


 ギムレットが自分に言い聞かせていると。


 ガルルルル!


 2人がぶら下がっている鍾乳石の下に、不意打ちに失敗して不満げに唸る虎が現れた。


「ふうん。ナツト、よく気がついたわね」


 平静を装いながら、ギムレットは奈津人の腕の中から虎を見下ろす。

 虎と言ったが、体長7メートルもある上、頭が2つある。


「ジェミニタイガーだわ。遂に蟲毒の本番が始まった様ね」


 ギムレットに訊きたい事は山ほどある奈津人だったが。

 今はこのジェミニタイガーを倒す事に専念するしかない。


「ギムレット、ここで待っててくれ」


 奈津人は鍾乳石から飛び下りる。

 その奈津人に、ジェミニタイガーが即座に反応して襲い掛かかってきた。

 思っていたよりも遥かに反応が速い。


 しまった!


 と後悔した時には既に。

 奈津人の右腕は、既にジェミニタイガーの顎に捕らえられていた。

 

 ヤバい! 食い千切られる!


 そう思った瞬間。

 奈津人は右腕に灼熱感を感じた。


 クソ、右腕を食い千切られた!


 と血の気を失う奈津人だったが、その耳に。


 ガキガキ、という異音が飛び込んできた。


「?」


 恐る恐る目を向けると。

 奈津人の右腕はガントレットゴリラの腕へと変化していた。

 そのガントレットの装甲がジェミニタイガーの牙を弾き返している。


「こ、これは……?」


 自分の腕の変化に驚いたものの、奈津人も100を超える戦いを生き抜いた戦士。

 反応は早かった。


「うおおおお!」


 奈津人は雄叫びを上げながら。


 ガツン!


 ジェミニタイガーにガントレットの拳を叩き付ける。

 自分の腕の変化に驚くのは後でいい。

 

 100匹の猛獣の力と、ガントレットの破壊力。

 この2つは、何とかこの化け物を上回ったらしい。

 奈津人の一撃はジェミニタイガーを吹っ飛ばした。


 が、まだだ。

 ジェミニタイガーは、すぐに起き上がろうとしている。


「とどめだ」


 奈津人は無意識にガントレットを使いこなしていた。

 ギムレットに重傷を負わせたゴリラの爪を。


 ジャキ! 


 と伸ばすと、ジェミニタイガーの左頭を一気に貫く。

 その1撃で。


 グゴオォォ!


 ジェミニタイガーの左頭が力を失って垂れ下がった。

 だが、まだだ。

 残った右の頭が、唸り声を上げながら襲い掛かってくる。

 しかし奈津人の反応も早い。


 ザシュ!

 

 ガントレットの爪の一振りで、ジェミニタイガーの右頭を切り落とした。


「ふ~~、危ないところだったぁ」


 座り込む奈津人の後ろに、ギムレットが跳び下りてくる。


「本当に危ないところだったわ。ナツトったら止める間もなく跳び下りてしまうんだもん」


 ギムレットは、ジェミニタイガーに視線を落とす。


「でも、よく倒せたわね」


 そこでギムレットは、奈津人のガントレットに向けた視線を、ジェミニタイガーに移す。


「聞きたいことは山ほどあるけど、今はパワーアップが先ね」


 そう口にすると、ギムレットはジェミニタイガーに口をつけた。

 訊きたい事が山ほどあるのは奈津人も同じだ。


 が、パワーアップが最優先。

 奈津人はギムレットと並んで食事に取り掛かったのだった。

 


 1時間後。

 獲物からパワーを感じなくなる瞬間が分かる様になっていた奈津人は、力を失ったジェミニタイガーを食べるのを止めてギムレットに質問してみる。


「なあギムレット、さっきの……」

「分かってるわ、説明してあげる。蟲毒は今倒したジェミニタイガー以上の強さをもつ魔獣を喰らい合わせて最強生物兵器を生み出す計画なの。虎やライオンなどの猛獣や、人間を喰らい合わせていたのは、魔獣に食べさせる餌の質を上げてただけよ」


 今まで、死ぬ思いで猛獣と戦ってきた。

 でも、それが単なる餌の準備だったなんて……。

 とガックリと肩を落とす奈津人に、ギムレットがアッサリと言ってのける。


「あ、でもナツトはジェミニタイガーを倒せたから、これからの本番の蟲毒に挑戦が可能なくらい、強くなってたって事。何とか間に合ったわ」

「間に合う?」

「猛獣相手に勝って喜ぶ程度のレベルじゃ死ぬしかなかった、でしょ」


 ギムレットがジェミニタイガーを目で指す。

 確かにこの化け物は、とんでもなく強かった。

 猛獣100匹程度の力を得たくらいでどうにもならないくらい。

 ガントレットゴリラの能力を得ていたから、勝てたのは間違いない。

 でなければ奈津人は命を失っていた事だろう。

 

 でも、薄々感じていた事だが。

 いや、最初から分かっていたくせに目を逸らしていたが。


「ここは、日本どころか地球ですらないんだな」


 ボソッと奈津人は呟いた。


「にほん? ちきゅ?」


 不思議そうな顔のギムレットに奈津人は教える。


「地球って星の日本って国に、俺は住んでたんだ。ベッドで寝てたはずが、気付けばここにいた」

「ああ、イレギュラーな要素も必要だ、という事で、異世界から適当に生き物を魔法で召喚した様ね。運が悪かったわね」

「て、適当!? 適当で俺、こんな目に遭ってるのか!?」


 呆然とする奈津人の背中を、ギムレットがパアンと叩く。


「シッカリしなさい。ここにいる生き物はみんな適当に集められたのよ。ナツトだけが落ち込んでいてどうするの。生き抜いて、強くなって、ここを脱出して、私達をこんな目に遭わしたヤツをブチのめすのよ」


 そうだよな。

 いきなり人をこんな地獄に放り出しやがって。

 死んでたまるか。

 ギムレットの言う通り、生き抜いて、力をアップさせるぞ!

 そして、こんな目に遭わせやがったヤツをボコボコにしてやるぜ!


 と、奈津人が怒りに燃えていると。


「ところでナツト。その腕見せて」


 ギムレットが奈津人の腕に触ってくる。


「今は普通の腕よね。ガントレットに変えてみて」


 奈津人はギムレットの言う通りに、腕をガントレットへと変えてみせる。


「…………何の動物のパーツかしら。こんな鉄の鎧みたいな腕を持った生物なんて、今まで見た事もないわ。ナツトみたいに、異世界から召喚された生物のモノかしら。じゃあ今度は爪を伸ばしてみて」


 シャキィン!


 リクエスト通り右手から爪を一杯に伸ばしてみる。

 伸びた爪の数は2本で、長さは約1メートル。

 長さは自由に調整できそうだ。

 ちなみに、この爪の様な物は手の甲から伸びている。


「うお、ウルヴァリンみてーだ」


 思わずそう口走った奈津人をギムレットが見上げる。


「うるばりん?」


 映画の説明をしている場合じゃないので、奈津人は話を変えた。


「いや、何でもない。でもこれ……」


 奈津人は爪を鍾乳石に当ててみる。

 軽く当てただけなのに、爪はザックリと鍾乳石を切り裂く。


「凄い武器を手に入れたわね」


 感心するギムレットに奈津人はアレ、と思う。


「よく考えたらギムレットもガントレットゴリラを食べたんだから、自分の腕を変化させて観察したらいいんじゃないか」

「あのね、猛獣と違って魔獣の場合、同じ魔獣を食べたからといって、全く同じ能力が手に入る、ってワケじゃないのよ。だから、私の腕は変形しないみたい」


 残念そうな声のギムレットだったが。


「でも私はこんな能力を手に入れたわ」


 そう言うとギムレットの髪の毛がススッと伸びて華奢な身体を覆う。


「普通の剣なら弾き返す、ジェミニタイガーの強靭な体毛よ。私は攻撃力じゃなくて防御力がアップしたみたい。魔獣を食べた場合、手に入る能力に個人差が出るのよ」


 と、そこで。

 奈津人は、ジェミニタイガーの力が身体に満ちてくるのを感じた。


「あ、これは……」


 奈津人は驚きの声を漏らす。

 力を手に入れて初めて分かる。

 ジェミニタイガーが、どれ程強力な魔獣だったのか、を。


「本当にヤバかったんだ、俺」

「そうよ、本当だったらもう少し力を上げてから挑戦すべき敵よ。なのにナツトったらいきなり飛び下りるだもん、心配したわ」


 心配? 

 ギムレットがそんな言葉を口にするの、初めて聞いたぞ。


「へへ」


 奈津人は嬉しさでニヤけてしまった。

 が、鍾乳石の陰から現れた生物を目にしてその顔は青ざめる。


「……ケルベロス?」


 奈津人が口にしたのはゲームや映画で何度も見た3つ首の猛犬の名。

 しかしこちらに向かってくるのは、犬なんて生易しい生物ではなかった。


 7メートルもあったジェミニタイガーより更に一回りも大きい。

 小柄なギムレットなど一飲みにできる程の大きな3つの口。

 その口に並ぶ、ペットボトルよりもデカい牙。

 犬のクセに鋭い爪が生えている、筋肉で覆われた前脚。

 凶悪な光を放つ6つの目。


「反則だろ、これ」

「今更何を言ってんのよ、今のナツトなら勝てるわ。先手必勝よ!」

「他人事だと思って……たまには手伝ってくれても……」


 文句を言いながらも奈津人の行動は速かった。

 腕をガントレットに変化させると。


「いくぞ!」


 ケルベロスが襲い掛かってくる前に攻撃を仕掛ける。


 自分では気づいていないが、奈津人はジェミニタイガーにより今までの3倍の強さになっていた。

 だから奈津人はケルベロスの反撃を楽々と躱すと。


「そら!」


 ガントレットの1振りで、ケルベロスの首を1つ切り落とした。

 続いて。


「は! や!」


 2振りで2つの首を切り下ろす。

 と、いうコトで。

 

 奈津人は、わずか3振り、たった30秒でケルベロスを倒したのだった。


「ほら、勝てたでしょ」


 ギムレットの輝く様な笑顔。


 うわぁ、戦いに勝つと強くなれる上に、この笑顔が見れるのか。

 この生活も悪くないなぁ。

 奈津人は本気でそう思った。


「何ポーっとしているのよ、パワーアップするわよ」


 あれ、以前だったら顔面に蹴りが飛んで来ていたトコなのに。

 ギムレットは少し、優しくなったかな? 

 言葉も以前の棘がなくなった気がする。

 などと奈津人が顔をほころばせていると。


「私の言う事、聞いてる」


 ギムレットが、可愛らしく眉をひそめた。


「も、もちろん聞いてるって」

「なら早く、食べなさいよ」

「はい」


 こうして奈津人は、そそくさと食事を始めたのだった。





2020 オオネ サクヤⒸ

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