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   第二十一話  魔王軍 


 




 ギムレットが、岩陰で服を脱いでから竜へと姿を変える。

 エウリュアレもギムレット同様、岩陰で服を脱いでから竜へと変わった。


「壮観だな」


 400メートルもの竜が、2頭並んでいる光景に奈津人は圧倒される。

 大きいという事はそれだけで人に感動を与えるものらしい。


「何してるのよ、奈津人も竜化して」


 ギムレットに急かされて奈津人も服を脱いで竜化するが。


「あれ? ナツト、さっきよりもずっと大きくなってるよ」


 ギムレットが言った通り。

 奈津人が変身した竜は600メートル以上もあった。


「エウリュアレの血の力ね。さすがエウリュアレ、凄い力だわ」


 ギムレットの言葉にエウリュアレが竜の顔で微笑む。


 「これなら大扉を破壊出来そう」

 

 自信に満ちたエウリュアレの言葉にギムレットが頷く。


「そうね。じゃあみんな、シッカリと助走距離をとって、全力でブチかますわよ! せーの!」


 ギムレットの合図で、3人揃って大扉に竜の巨体を叩き付けると。


 ドカーン!!!


 まるで爆弾が炸裂した様な轟音が洞窟中に響き渡り。


 バコーン!


 大扉はあっけない程、簡単に吹っ飛んだ。


「やった!」


 歓声を上げると同時に。


「え?」


 ギムレットは、元の姿に戻ってしまった。


「な、なんでよ!」


 ギムレットは小さく悲鳴をあげると、服を脱いだ岩陰に飛び込む。


「どうやら、あんまり長い時間、竜の姿ではいられない様ね」


 服を着てから岩陰から出てきたギムレットは、真っ赤な顔で平静を装う。

 

 くう~~、恥ずかしそうな顔が、一段と可愛く見えるぜ。

 裸も綺麗だったなァ。

 もっと見ていたかった。

 などと、妄想に浸る奈津人の横で。


「竜化は体力と魔力を大量に消費してしまう。魔力を補給しない限り、もう竜化は無理」


 こちらも人間サイズに戻ったエウリュアレが冷静に分析を口にした。

 が、ギムレットは、それどころではないらしい。


「ついに……やっとここから脱出できるのね」


 震える声でそう呟いている。

 そんなギムレットの横に、奈津人も人の姿に戻って並ぶ。

 破壊した大扉の先は巨大なトンネルになっており、その数キロ先に眩い光が見える。

 外の世界だ。

 爽やかで、甘さすら感じる、暖かい外の空気が流れ込んでくる。

 3人は暫くの間、外から流れ込んでくる空気を楽しんでいたが。


「行きましょ、ナツト、エウリュアレ」


 ギムレットはそう言って歩き出した。

 続いて、奈津人とエウリュアレも歩き出す。

 奈津人とギムレットの立てる足音。

 エウリュアレの蛇の下半身が立てるシュルシュルという音。

 それだけがトンネル内に小さく響く。

 その静寂の中。


「外に出たら、まずどうする」


 エウリュアレがギムレットに尋ねた。


「もちろんラージヒルトの奴をボコボコにしてやるわ! と言いたいトコなんだけど、でもその前に、ミンナで高級な宿でゆっくりとお風呂に入って、思いっ切り豪華なゴハンを食べるってのはどう?」

「風呂……」


 エウリュアレの尻尾の先が、ヒュンヒュンと嬉しそうに左右に揺れている。

 風呂と聞いて喜んでいるところは女の子らしいな。

 

 そう口元を緩める奈津人も、風呂と豪華な食事というギムレットの提案には大賛成だ。

 この世界の食事は一体どんなモノなんだろうか。

 いや、それ以前に、この世界はどんな所なんだろう。

 それを考えると、奈津人はワクワクしてくるのだった。

 もう出口は目の前だ。


「いよいよ、この世界をこの目に出来るんだな」


 奈津人の弾んだ声に、ギムレットも弾む声で答える。


「そうよ。さあ、まずは宿に行って、お風呂とご飯よ」

「あ! チョット待って。外は昼間みたいだけど、日光を浴びたらギムレットは灰になるんじゃ……?」


 心配顔の奈津人にギムレットが大笑いする。


「キャハハ、そんな心配ないわよ。私は只のヴァンパイアじゃなくてドラクルの一族なんだから日光を浴びても平気よ。さあ、行きましょ」


 駆け出すギムレットに奈津人もエウリュアレも続く。

 気の遠くなる様な永い時を耐えきた。

 そして、やっと暗い洞窟から解放される時がやって来たのだ。

 3人はトンネルの出口から、弾ける様に飛び出した。






 目に飛び込んできたのは。

 明るい太陽の光。

 青い空。

 ゆっくりと漂う白い雲。

 目に痛い程鮮やかな緑の大平原。

 そして……その大平原を埋め尽す、武装した兵士だった。


「魔王軍」


 ギムレットがギリッと奥歯を噛む。

 兵士と言ったが人間の兵士は見当たらない。

 虎、熊、ライオン、豹、水牛、サイ、ワニ、などの獣人。

 身の丈3メートルもある鎧の戦士。

 もっと体の大きい、ミノタウロスやサイクロプス。

 ケルベロスやジェミニタイガー、8本足の馬などに騎乗した騎馬兵。

 その他見たこともない生き物が、10の軍団に分かれて整列している。


 その大軍隊から、8本足の馬に乗った男がこちらに向かってきた。

 狼の獣人で構成された部隊を引き連れている。

 その数、ざっと見て、1000人以上。

 その狼の獣人部隊を。


「止まれ!」


 奈津人達から50メートル程の所で止めると。


「久し振りだね、ギムレット」


 八本足の馬に乗った男が声を掛けて来た。

 

 この男が隊長なのだろう。

 だが、狼の獣人部隊を率いるにしては貧相な男だ。

 縮れた髪がかなり後退している。

 170センチ程の貧弱な体格に、不釣り合いに豪華な服を纏った中年男。

 それが奈津人の第一印象だった。


「蠱毒の洞窟を脱出して直ぐにアンタに会えるなんてね、ラージヒルト」


 憎憎しげにギムレットがそう言うのを聞いて、奈津人は驚く。


「ええ! こいつがラージヒルト? 魔王の?」


 ゲームのラスボスは、魔王と呼ばれるキャラである事も多い。

 だから奈津人は。

 蠱毒の洞窟で遭遇した、どんな生き物よりも強力な化け物を想像していた。

 ……のだが。


「なあギムレット、アイツが本当に魔王なのか。ものスゴく弱そうに見えるけど……あ、ひょっとして、攻撃してヒットポイントを減らしたトコで、巨大化するとか?」

「何の話をしてるのよ、外見通りの貧弱クソ野郎よ。ただ魔力はそこそこあるから、力を10倍化するのと不老不死をエサに、自分に忠誠を誓う者をワーウルフに変えて手下にしてるの。言ってみれば、ならず者集団のボス、ラージヒルト自身が強いわけじゃないわ」

「ワーウルフに変えるって、それじゃあアイツもヴァンパイアなのか」

「そう。腹が立つ事に、私と同じ一族よ」


 吐き出す様にそう言うギムレットに。


「夫であるわたしに向かって酷い言いようじゃないか、ギムレット」


 ラージヒルトが余裕の態度で抗議の言葉を口にした。


 夫?

 おっと?

 オット? 

 今アイツ、夫って言ったのか? 

 それってギムレットと結婚してるって事か? 

 ギムレットが、コイツのモノって事か? 

 ギムレットの妖精の様に美しい身体をコイツが……?


 奈津人は鉄の塊で頭をぶん殴られた様な衝撃を受けた。

 足下がガラガラと崩れ落ちていく様な感覚に襲われて、立っていられない。


「誰が夫よ、この変態馬鹿やろう! 勝手に決めるな、私はアンタが大っ嫌いなのよ!」


 ギムレットが怒鳴り散らすのを聞いて、奈津人は胸を撫で下ろす。


「よかったぁ……じゃあギムレット、アイツとは何でもないんだ」


 涙ぐむ奈津人に、ギムレットが真っ赤になって怒鳴る。


「馬鹿の言う事、真に受けないの! 約束したでしょ、私と永遠を生きていくのはナツトだって! それに言ったでしょ! アイツは私を蠱毒の洞窟に放り込んだ裏切り者、私達の敵よ! そんな奴が私の夫の筈、ないじゃない!」

「敵は酷いな。わたしは君に強くなって欲しかっただけだよ。命を落とす事のない様に、ちゃんと監視して、いや見守っていたのだから」


 そう言うラージヒルトを、ギムレットがギッと睨み付ける。


「監視ね。だから力を手に入れた私達を収穫する為に、全魔王軍100万で包囲しているってわけね」


 100万!? 

 地を埋め尽くす程の大軍だから、凄い数だとは思っていた。

 だが、一00万もいるとは。

 奈津人はその数に驚く。


「何か勘違いしているようだが、わたしは勧誘に来ただけだよ。君達は見事に蠱毒を生き抜いて、最強生物兵器へと進化を遂げた。その力を、ぜひ我が魔王軍で生かして欲しいと思ってね」


 言葉こそ丁寧だが、ラージヒルトの目は濁っていた。

 カンを思い出させる、薄汚い裏切り者の目だ。


「お断りよ。それに私、決めてるの。私達をこんな目に合わせたアンタをボコボコにしてやるってね!」


 ギムレットは、蠱毒の洞窟の頂点に立つ力を手に入れている。

 そのギムレットの迫力に気圧されて、獣人部隊全員が後ずさった。

 が、ラージヒルトも青くなりながらも平静を装う。


「ならば仕方ない」


 そう言うと同時にラージヒルトは。

 

「はいやっ」


 ピシィ!


 8本足の馬に鞭をくれて、凄いスピードで戻って行った。

 獣人部隊も、本隊へと駆け戻って行く。


「諦めて引き揚げたのかな」


 奈津人の言葉に、ギムレットが鼻を鳴らす。


「フン! そんな訳ないでしょ。卑怯者が自分だけ安全な場所に避難しただけ、戦いはこれからよ。エウリュアレ」


 急に自分の名を呼ばれて、エウリュアレがギムレットを見つめる。


「なに」

「ラージヒルトの狙いは私よ。エウリュアレまで危険を冒す必要はないわ。だから……」

「却下。今更、見捨てる事など出来ない。それにワタシだけ見逃したりしない筈。だから3人で戦う」


 迷いのないエウリュアレの答えにギムレットが微笑む。


「エウリュアレ、あんたって本当にイイやつだね」

「当然」


 エウリュアレの真面目な顔に、ギムレットも奈津人もつい笑ってしまう。


「キャハハ! そうだね」

「はははは! そうだな、俺もエウリュアレの事、本当にイイ人だと思う。じゃあ……」


 奈津人の言葉で、3人は魔王軍100万をキッと睨み付けた。


「今の私達は、蠱毒の洞窟を生き抜いた最強生物。たった100万程度の軍隊なんて、蹴散らすわよ、ナツト」

「はいはい、可愛いご主人様を守るのは、ワタクシめの仕事。お任せ下さい」


 奈津人はその可愛いご主人様の頬を、そっと両手でつまむ。

 眩しい笑顔を見せるギムレットの柔らかな頬。

 その感触に、奈津人は胸が痛くなる程の愛おしさを感じてしまう。


「ギムレット」

「ん」


 思わず抱き寄せた後。

 奈津人は表情を引き締めた。


「じゃあ、行こう」


 魔王軍をにらむ奈津人に、エウリュアレが並ぶ。

 まるでそれが合図だったかの様に


「獣人軍、突撃!」


 ラージヒルトが命令を下した。

 その命令で。


『うぉ~~~~~~~ん!!』


 整列していた10の部隊の内の1つが奈津人達に向かって来たのだった。










2020 オオネ サクヤⒸ

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