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   第十二話  ファイアブレス





 ピッシャーン!


 ギムレットの手から稲妻がほとばしった。

 どうやらサンダースネークの放電能力を手に入れたらしい。


「雷を放つ能力が手に入る事、分かってたのか?」


 さっきのウインクを思い出して、奈津人はギムレットに聞いてみる。


「うーん、確信はなかったけど、何となく」


 振り向いてみると、怒りの槌達3人も稲妻を操っている。


「ちぇ、雷を使えないの、俺だけかぁ」


 ガッカリする奈津人をギムレットが励ます。


「特殊能力には向き不向きがつきものよ。今回はたまたま。このエリアには他にも色々なモンスターがいるからナツトもきっと、新しい力を手に入れる事になるわ」





 嬉しいコトに、それはすぐにやって来た。


「何よあれは! サラマンダーって言ったら火トカゲの名の通り、せいぜい一メートルでしょ!」


 ギムレットが驚きの声を上げた先にいるのは。

 見たままに言ってみると、首の長いワニ。

 ただし全長30メートルを超えている。

 そしてサラマンダーと言うからには、おそらく。


「ファイアブレスに気をつけて。1メートルにも満たない、普通のサラマンダーのファイアブレスでも鉄を溶かすわ。ましてや30メートルもあるサラマンダーのファイアブレスともなれば、想像を絶する威力の筈だから」


 やっぱり火を吐く様だ。

 しかもサンダースネーク以上に危険な相手らしい。

 でも。


「もう1度、俺がやりたい。どう思います、怒りの槌?」


 怒りの鎚は数秒の間、自分を見上げる奈津人を見詰めてから口を開いた。


「何か試したいんだろ? いいぜ」


 怒りの槌が戦いを許したのは、奈津人の戦闘力を認めている証拠だ。

 それが分かっていから、ギムレットは嬉しそうに目を細める。

 が、すぐに心配そうな顔になって、奈津人に言い聞かす。


「怒りの槌がそう言うのなら大丈夫だと思うけど、無理はしないでね。危ないと思ったらすぐ撤退するのよ」

「了解」


 奈津人はギムレットの細い肩に手を置いて、そう答えると。


「よし、やるか」


 サラマンダーの前へと進み出る。


「俺はアンタと戦いたくない! この戦い、避ける事は出来ないか!」


 いつも通り叫ぶ奈津人に、サラマンダーはカパっと口を開いた。

 車でも飲み込めそうな大きな口だ。

 その口の奥にチラリと炎が見えた。


「ヤバい!」


 奈津人が慌てて飛び退いた瞬間。


 シュゴッ!


 サラマンダーのファイアブレスが発射された。

 ファイアブレスというくらいだから、火炎放射器の様にボワ~~っと炎が吹き出すものだろう。

 奈津人は、そう想像していた。

 しかしそれは大きな間違いだった。

 

 ファイアブレスとは、巨大なターボライターのようなもの。

 集約した焔を、一瞬で発射するモノだった。

 まるで火炎のビームだ。

 

 その火炎ビームが通過した所は、一直線のマグマの川となっていた。

 恐るべき高温だ。

 このファイアブレスに直撃されたら命はないだろう。

 いや、ヘタすると瞬時に燃やし尽くされてしまう。

 生きた痕跡さえ残らないくらいに。


「ナツト、撤退!」


 ギムレットが必死に叫ぶが、奈津人は首を横に振る。


「まだ大丈夫!」


 サラマンダーから目を離さずに、そうギムレットに叫び返すと。


「もう少し、付き合ってもらうぜ!」


 奈津人はサラマンダーへと接近を試みる。

 が、サラマンダーもそう簡単に接近させてくれない。


 シュボ! シュボ! シュボ! シュボ!


 まるで巨大な焔の槍が飛んでくる様な、火炎ビームの連射。

 サンダースネークの稲妻よりも遥かに危険な攻撃だ。

 発射されてしまった火炎ビームを避けるのは不可能に近い。

 

 だが、焔は口を開いた方向に発射される。

 口を向けてから火炎ビーム発射までの僅かなズレ。

 その瞬間に身を躱す事は、今の奈津人のスピードなら可能だ。


 こうしてサラマンダーのファイアブレスを躱しながら奈津人は。


「タイミングを計らしてもらうぞ」


 サラマンダーの、口を開いてからファイアブレス発射までのタイムラグをシッカリと観察する。

 そしてタイムラグを把握できたと確信すると。


「行くぞ!」


 奈津人は攻撃に転じた。

 

 サラマンダーが奈津人に向けて口を開いた。

 いや、開こうとしたタイミングで。


「ここだ!」


 奈津人はファイアブレスの軌道から逃れ、サラマンダーに肉薄する。

 昆虫から得た、瞬時にトップスピードで動く力だ。

 そして接近と同時に。


「おりゃ!」


 サラマンダーの長い首に、目一杯に伸ばした爪を振り下ろす。


「やったぜ!」


 奈津人の一撃は見事にサラマンダーの頭を切り落とした。

 ドスンと首が落ちると同時に。


 ズズゥン!


 サラマンダーの体も地響きを立てて地面へと崩れ落ちる。

 完全にサラマンダーが絶命した事を奈津人が確認していると。


「ナツト」


 ギムレットが最高の笑顔で駆け寄って来た。

 最高の瞬間だ。


「いい戦いだったぞ、ナツト」


 怒りの槌に褒められて、もっと最高の瞬間になった。

 奈津人はサラマンダーから力を感じなくなるまでの1時間。

 最高の気分で食事が出来たのだった。

 しかし。




「……やっぱりダメだ。焔も使えない」


 奈津人が沈んだ声を漏らす。

 サラマンダーを食べてパワーアップを果たした後の事。

 奈津人以外の全員がサラマンダーのファイアブレスを手に入れた。

 具体的に言うと、焔を口から吐ける様になっていた。


 自分以外のみんなが焔を自由自在に操っている。

 なのに自分は、雷も炎も使えない。

 はぁ……。


 と落ち込んでいる奈津人に向かって、怒りの槌が思いついた様に言う。


「ナツト、腕をガントレットに変化させてから挑戦してみろよ」


 確かに戦う時は腕をガントレットに変えている。

 なら、戦闘モードで練習したら上手くいくかもしれない。

 奈津人は腕をガントレットに変えると。


「焔よ……」


 焔を使いこなす事に意識を集中してみた。

 と、その時。


「あれ」


 奈津人はガントレットに今まで感じた事のない力を感じた。

 半分無意識でガントレットを50メートル程先の大岩に向けると。


「……いけ」


 奈津人はその力を解放した。

 すると奈津人のガントレットから。

 

 シュボ!


 焔のビームが発射された。

 その焔のビームは直径10メートルもある大岩に命中すると。


 ジュパァ!


 一瞬で岩を貫通した。


「やったな、ナツト」


 怒りの槌が、奈津人の肩をポンと叩くと。


「大岩を溶かすどころか。瞬時に蒸発させて貫通したぞ! 俺たちの操る焔はサラマンダーのファイアブレスの劣化版だが、ナツトのはサラマンダーを超えている。すごいぞ」


 手放しに誉めてくれた。

 サイコーの気分だ!

 しかも。


「ナツト、凄いじゃない」


 ギムレットが輝く様な笑顔で駆け寄ってきた。


「ウン、やったぜ」


 奈津人は上機嫌で答えながらギムレットを見つめた。

 なんだかドンドン可愛くなってきている気がする。

 元々が絶世の美少女なのだから可愛いのは当然だ。

 けど態度と言うか、雰囲気までもが可愛らしいモノに変化してきている。

 そんな気がして、ほんわかとした幸せを感じる奈津人だった。





 サラマンダーの力を得た直後。

 奈津人達は六つ首ヒドラと遭遇した。


「俺はアンタと戦いたくない!この戦い、避ける事は出来ないか!」


 奈津人の叫びは今回も無駄に終わり、戦いは始まった。

 しかし奈津人は、サンダースネークとサラマンダーの力を得ている。

 六つ首ヒドラごとき、敵ではなかった。


 と言いたいところだが。

 現実はそう甘くはなかった。


 六つの首が物凄い速さで、しかも協力して攻撃してくる。

 フェイントを織り交ぜての、時間差攻撃。

 そして6方向からの同時攻撃。

 六つ首ヒドラとは、五つ首ヒドラの首とは別次元の戦闘生命体だった。

 苦戦している奈津人に、怒りの槌が近づく。


「ナツト、交代だ」


 確かに奈津人は苦戦している。

 しかし勝てない相手ではないし、ピンチでもない。

 なのに怒りの槌がそう言ってきたという事は……。


「はい」


 奈津人は素直に怒りの槌と交代するとギムレットの隣に戻った。

 そして怒りの鎚の戦い方を見学する事に集中する。


 怒りの槌は、六つ首ヒドラが相手でも圧倒的な強さを見せた。

 六つの首が襲い掛かってくる度に。


「ほい、ほい、ほいっと」


 ヒドラの頭を1つずつ、1撃で葬りさっていく。

 突き、蹴り、そして手に入れたばかりのファイアブレスの能力。

 怒りの槌は、様々なカウンター攻撃を使いこなし。


「これで終わりだ」


 アッと言う間に六つ首ヒドラを倒してしまった。


「説明は後だ、まずは六つ首ヒドラの力を手に入れるぞ」


 怒りの槌に言われて5人揃って1時間、食べ続けた後。


「いいか、ナツト。お前は相手の攻撃を躱した時の体勢が悪い。敵の攻撃を躱す、身構え直す、そこでやっと反撃、というリズムなんだ。今までの五つ首ヒドラ程度の相手なら持ち前のスピードで何とかなったが、ここから先の敵にはそれじゃあ通用しない。黒ヒョウ」


 怒りの槌に呼ばれて黒ヒョウが立ち上がる。


「突きだ」


 指示された通りに、黒ヒョウが怒りの槌に突きを放つ。


「この突きを躱した時には既に攻撃の体勢になっていないと、反撃が遅れる。躱す、反撃のリズムだ。或いは躱すと同時に反撃する。交差法と言うやつだ、カウンターとも言うがな」


 怒りの槌が説明しながらゆっくりと、何度も手本を見せてくれる。

 そして。


「ナツト、やってみろ」


 今度は奈津人に稽古を付けてくれる怒りの槌。


「躱した時に、もっと膝を柔らかく曲げて、重心を低く。その時には既に、手は反撃する為の位置で構えていろ。目は1か所だけを見てはダメだ、常に敵の全体を視界に入れて……」


 怒りの槌の指導は、相変わらず丁寧な上、具体的で解かりやすい。

 たった30分で奈津人の動きは別のモノへと進化した。


「ありがとうございました」


 奈津人は怒りの槌に深々と頭を下げた。

 怒りの槌とは、親しく言葉を交わす様になってきている。

 しかし稽古の時は、けじめをつけて師に対する礼儀を忘れはしない。

 怒りの槌は奈津人のそんなトコも気に入っていた。


「よしナツト、次に六つ首ヒドラを見つけたらもう1度戦ってみろ」

「はい!」


 怒りの槌に言われて奈津人は嬉しそうに答える。

 怒りの槌がそう言ったのだ。

 六つ首ヒドラに余裕をもって勝てるだろう。


 奈津人の怒りの槌に対する信頼は揺るぎないものになっていた。





2020 オオネ サクヤⒸ

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