無色世界
学校の屋上で煙草を口にはこぶ。
本来立ち入り禁止のこの場所に入るのは私ぐらいで、誰かに注意されることもなく、一番落ち着ける場所だった。
肺にたまった煙を一気に吐くと、そのまま脱力感に襲われ、フェンスに寄りかかる。
高校生になっても厨二病を拗らせたままの私はいつ自殺するかも分からない危うさがあって、自覚もしていた。
それでもいつでも死ぬことが可能なこの場所に毎日足をはこぶのは、紛れもない安心感だろう。いつでもこの世界とおさらば出来る。そんな感覚が私の心を少し落ち着かせてくれていた。
だがそれも徐々に慣れてきてしまったのか、不意にフェンスを乗り越えようとしている。
私の身体は死にたいと叫んでいる。私の心は死にたくないと叫んでいる。
身体と心が噛み合わなくなると、どんどん精神が安定しなくなっていく物で、現に今私は、この短くなった煙草を最後の煙草にするつもりで屋上に上ってきていた。
吸い終わった煙草を地面に捨てると、それを踏んで、火を消した。フェンスを乗り越え、下を見下ろす。
想像していたよりも高さはなく、本当に死ぬのかと思った。死なずに意識不明の重態だとか、そんな状態になるのはイヤだった。
絶対死ねよ、と無意味に心に言い聞かせ、地を蹴った。
もう後戻りの出来ない状態にまでなったその瞬間、自分は何をやっているんだろう、という感覚に襲われた。
まだ何もしていない。誰も好いていないし、誰にも好かれていない。友達も一人もいなくて、いつも一人で屋上に来ていた。なんのために、今まで生きてきた? ここまで頑張って生きたのなら、もう少し生きてもよかったかもしれない。明日、友達が出来たかもしれない。告白されたかもしれない。
ふいに、涙が流れた。
地面につくまでは案外長く、それまでに色々考えてしまう。
方向感覚の失われている中、辺りを見渡した。目の前には地面。
ごしゃっという鈍い音。校舎内からの悲鳴。激痛。駆け寄る教師。激痛。血の生暖かさ。激痛。激痛。重なるシャッター音。激痛。激痛。激痛。激痛。脳の飛び出た感覚。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。
どうして意識がある?
耐えられない程の激痛に叫びだしそうで、でもその潰れた喉は音を発してくれない。
私を取り囲む教師の表情は、面倒事を対処するときの顔。生徒はどこか楽しげに全員カメラを向けている。
そうだ、明日を生きても友達なんて出来るはずなかったんだ。虐めを受けていた人間が、普通の人間になれるはずもない。なら、今やるべきことは
__絶対に生きて、この世界をぶっ壊すこと。