#2
「わたくしの呼びかけにこれだけの者が集まってくれたこと、感謝いたしますわ」
いつも街中で装備している部分鎧ではなく、首から下を覆う全身鎧を装備したツェレミア王女が、集まった十数人の男たちを睥睨する。ちなみに鎧はかなりの重量があるはずで、人間族の普通の女性なら着て動くこともままならないはずだ。
それなりにまともに見える人間が集まっているのは、「さすがにこれは生き残れないだろう」と思われた参加者を、ギルド長やミルが容赦なく事前に弾いたからである。もちろん弾かれた参加者から文句は言われたし、「死んでもいいから」と訴える人間もいたが、最後は実力行使をしてでも追い出した。……もっとも、普通のドラゴン退治なら、C級程度の実力の冒険者でも「ドラゴンの餌になる人間も必要だから」と素通しされてしまっただろう。外国では奴隷を餌として連れていく場合もあるようだが、現代のアンドラシア王国に奴隷制は存在しない。
「目指すは北の山のブラックドラゴン討伐。功績があった者には、相応の褒美をとらせます。……そしてご存知の通り、これはわたくしの伴侶を探すための試練でもありますわ」
「あー、そっちはパスさせてもらうっすよ。オレはただ、最強でございって顔でふんぞり返ってる上位種ドラゴンをぶん殴りたいだけっすから」
そんなことを言い出したのは、相談所にも登録している次期魔王。森を隔てた隣国から、「社会勉強」という名の物見遊山に来ている男だ。まかり間違って王女様が彼に惚れたらどうしよう、とミルとしては心配しているのだが、ダリアは「その時はその時で考えましょう。わたしたちはお客様が幸せになれるように手助けするだけよ」と、まるで心配していない様子だ。
「せめて彼が王家ではなく、普通の魔族だったら良かったんですけどね」
「王女様が王家の人間でなければ、それはそれで有名冒険者パーティーや各地の騎士団から引く手あまただったでしょうね」
「もしお二人が恋仲になってしまったら、どちらかが家を捨てて出奔するとか? うーん、さすがにそれはないですかね、王族として責任もある立場でしょうし」
「そこまでするほどの価値が相手にあると思えば、家を捨てるという決断もあり得るわね。一度は家のための婚約を蹴ったふたりだから」
「ちょっといいですか!?」
そんなふたりの会話に、不意に割って入ったのは、《竜殺しの勇者》。
「セイレン様。何かございましたか?」
「何かじゃありませんよ! 殿下のお相手に選ばれるべきは俺です! あんな魔族野郎には負けませんよ!」
「確かにセイレン様は優れた武勲をお持ちの勇者。小隊を率いての魔物討伐であれば、セイレン様に敵う者などそうはいらっしゃらないでしょう。ですが王女様がお探しなのは、一対一の戦いで強い者、生物としての強さをお持ちの方です」
それがダリアとの面談によって引き出された、ツェレミアの希望だ。とはいえ、隊を率いて戦う能力がある騎士、ということならば、それはそれで王国騎士団に候補者は多く、家柄がさほど良くないセイレンは厳しい戦いを強いられたかもしれない。
「俺では駄目なのか……っ! あんなに強くて凛とした女性を、俺は初めて見た! 俺はどうしようもなく殿下に惚れている。殿下には俺だけに微笑みかけてほしい! 何ならあの美しく力強いおみ足で踏んでほしい! 罵ってほしい! 俺だけを!」
「……そういうところが駄目なんだと思いますけど」
ぼそりと呟いたミルの言葉は幸いにも――あるいは不幸にも――勇者には聞こえなかったようだった。
肝心のツェレミアはと見れば、目立った私語を続けるセイレンのほうへと蔑んだ視線を向けている。それに気付いたセイレンが嬉しそうな顔をする。悪戯で好きな女の子の気を惹きたい子供のような行動だ。
「……なんであんなに強くて有能なのに、性格だけこうなっちゃったんですかね、勇者様。変態なのは別に構いませんけど、女性への接し方が子供みたいじゃないですか」
「同年代や年下の女性がほとんどいない環境で育ってきたんでしょう。よくあることよ」
「なんか可哀想ですね」
「そうね。うちに入所してくれれば、指導のしようもあるんだけど」
「殿下以外に興味がないので結婚相談所など不要です! って言ってましたもんね」
やれやれ、とミルとダリアは顔を見合わせ、ツェレミアのほうへと視線を戻す。
「知っての通り、ブラックドラゴンはドラゴンの中でも最上位に近い強力な種族ですわ。その身体はこのギルドの建物よりも大きく、自在に強力な魔法を使い、その翼で空さえも飛ぶ……まともに戦えば、普通の人間や魔族はおろか、他のドラゴンですら歯が立たない相手でしょう。ですが! わたくしが求めるのは、『普通ではない』実力者。ブラックドラゴンを仕留める力がある者であれば、わたくしの伴侶にふさわしい!」
はいはーい、と不真面目な声で次期魔王が手を挙げる。
「強いだけでいいんすかー? 顔とか性格とかは」
「わたくしは、結婚相談所で専門家の助言を得たのです。伴侶にあれもこれもと望んではならない。少しくらいの欠点は、後から直していくことができますわ。性格の違いは話し合えばよい。相手にとって譲れないことがあるなら、わたくしが相手に合わせればよいのです。身分などわたくしの力でどうにでもなります。年の差とて受け入れますわ。
――けれどわたくしはただ一点、『強さ』だけは、どうしても譲れないのですわ!」
へーえ、と面白そうに目を細める次期魔王。
「そういうことならいいんすけど。王女様すっごく強いんすよね? お手並みを拝見できるのが楽しみっす!」
「当然ですわ」
そんな言葉は聞き飽きている、とでも言いたげな顔でツェレミアが返す。
「それでは、ひとりずつ自己紹介をお願いいたしますわ。名前と職業、これまでの功績、あと学歴と年収」
「そこは婚活パーティーのフォーマットなんですね!」




