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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第四章 死の先にあるもの
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第十六話 意外な決着

 こちらに指を向けたまま立ち尽くす倶久理(くくり)

 愕然とする彼女に対し、明は静かに告げる。


「奴らが来られるはずがないだろう。ここをどこだと思っている」


「ここ……?」


 明は投げやりに壁を指さした。

 壁面から突き出た金属棒の先には青い光が輝き、照明の役割を果たしている。遺跡が蓄える電気によって生み出されたセントエルモの火だ。


「畝傍山は耳成山と同じ、振動発電所だ。地下にある遺跡には大電力が貯めこまれている。もちろん、内部に満ちる電磁波も桁違いだ」


「……っ!!」


 "電磁波"という単語を聞いた倶久理の目が大きく見開かれる。自分が罠にハメられたことに気付いたのだろう。


「幽霊は電気の塊だ。物理的な影響を受けない代わりに、電気の影響を強く受ける。ともすれば自身の存在を維持できなくなるほどにな」


 一説によると、ホラースポットでは電化製品がお守りになるのだという。ある程度強力な電磁波は霊障を防ぐ結界として作用するのだ。

 その証拠に、学園で明を襲ったポルターガイストは高圧電線に近付いた途端に無力化されていた。

 推測だが、あれは電線が発する電磁波によって彼らの周波数が乱され、一時的な活動不能状態に追い込まれてしまったのだろう。


「そんな、じゃあ、わたくしは……!」


「そう、ここにいる限り霊の助けは借りられない。完全な無能力者というわけだ」


 偉そうな顔でのたまってはいるが、実際は幸運が味方しただけだ。

 大体、耳成山が発電所だからといって畝傍山もそうであるという保証は無い。別の機能を有している可能性だってあっただろう。

 しかし、倶久理の居場所が判明している今以外にチャンスは無かった。学園の時のようにゲリラ戦法を取られたら今度こそ勝機は無い。

 それが分かっていたからこそ、明は賭けに出たのだ。


「……それで、これからお前はどうするつもりだ?」


 今度は明が一歩を詰める。倶久理が怯えたように下がった。


「男と女、荒神と一般人では勝敗など目に見えていると思うが……まだやるか?」


「それ、は……」


「いちかばちか遺跡の外まで逃げてみるか? 脚力に自信があるなら試してみるのも悪くない」


 それを許すつもりは無いが、と言外に含ませて、倶久理を追い詰めていく。

 進む。下がる。進む。下がる。

 だが、そのルーチンはいつまでも続かなかった。

 壁に止められたのではない。倶久理が自分で足を止めたのだ。


「……まだ」


 予想に反して、倶久理はまだ折れていなかった。

 気丈に顔を上げると、なけなしの闘志を奮い立たせてこちらをにらみ付ける。


「まだ、わたくしは負けていませんわ!」


 恐怖に歯を鳴らしながらも、不格好に握られた拳を構えた。

 素手で勝てるわけがないことぐらい自分でも分かっているだろうに、彼女は負けを認めようとしない。


「まだやり合う気か? 今のお前に何ができる?」


「そんなこと関係無いっ! これを諦めたら、わたくしにはもう何も残らないのっ!!」


 声を張り上げ、子供のようにわめき立てる。

 涙ぐむ瞳の奥には、孤独に怯える少女がうずくまっていた。


「……そうか」


 そこで明は初めて気付く。

 倶久理を追い詰めていたのは自分ではない。彼女はもうずっと前から追い詰められていたのだ。

 独りではどうしようもない現実に。頼る者のいない寂しさに。

 だから彼女は、悪魔の誘いを拒絶することができなかった。

 明は何となく七年前のことを思い出していた。

 妹を失った時、自分には両親がいてくれた。父には母が。母には父が。

 しかし、倶久理の傍には誰もいなかった。

 自分と彼女の違いといえば、せいぜいそれぐらいなのかもしれない……ふとそんなことを思った。


「まあ、いい。どちらにしても、俺がすべきことは最初から変わらない」


 明はそれだけを言うと、無遠慮な足取りで倶久理に近付いていく。

 手を伸ばせば当たるような距離まで来て、そこで足を止めた。


「……ひっ」


 倶久理がびくっと肩を震わせ、掲げた拳で顔を隠す。

 しゃくり上げるような吐息が聞こえる中、明は粛々と"為すべきこと"を実行した。

 ……それから何秒かの時間が過ぎて。

 明の頭上で、倶久理の戸惑うような声が聞こえた。


「……え? えっ? ええっ!?」


 今頃彼女は見ていることだろう。床の上に膝をつき、両手をつき、頭を擦り付けている明の姿を。


「なっ……何をしているんですの……!?」


 それは、土下座以外の何物でも無かった。

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