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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第四章 死の先にあるもの
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第四話 雷精


 見えたのは光の塊。その数五つ。

 その正体を確かめるまでもなく、明は回避行動を選択した。

 どのみち当たるわけにはいかない。危険なものだからこそ、こちらに飛んできているのだ。

 思考を打ち止め、全てのエネルギーを脚力に込める。

 瞬発。

 飛び込む先は墓石の陰だ。視界に映った少女と光が、堅固な石柱に隠されていく。


「ご先祖様を盾にするのですか? 罰が当たってしまいますわよ?」


 向こう側から倶久理(くくり)の声がした。音の大きさからして、まだ先ほどの位置にいるようだ。


「物事には優先順位がある。ただのモニュメントより生きている者の方が尊重されるのは当たり前だろう」


現実主義者(リアリスト)ですのね。ですが、現実は幻想に勝てませんわ」


 その時、明の異能が波の震えを感じ取った。

 墓石の向こうで波動を発する何かが動いている。それは進路を変更し、最短ルートでこちらに近付いてくる。

 数は、五つ。先の光だ。


「追尾性能もあるのか! しかもこれは……!」


 行く手を遮る墓石を難なくすり抜け、青の光が次々と姿を見せた。

 これでは障害物など移動の邪魔でしかない。舌打ちした明は切り返すような足さばきで開けた路上に戻ってきた。

 倶久理は動かず、その場で祈るように手を合わせていた。その周囲にはさらに多くの光体が集まっている。

 光の色は全て青。完全な球形ではないが、それに近い形状を保っている。

 やや緑がかった輝きは、最近よく目にする"あるもの"を連想させた。


「セントエルモの火……か?」


「……何ですの、それ?」


 倶久理がぽかん口を開く。しかしすぐさま我に返ると、


「よく分かりませんが、中々ロマンチックなネーミングですわね。意外とこの子たちにぴったりかもしれませんわ」


「何が『この子たち』だ。虫でも飼っているつもりか?」


 言った瞬間、いくつかの光が剛速球のように飛んできた。

 慌てて避ける明を見て、倶久理は上品な笑いを漏らす。


「くすくす、口は災いの元ですわね」


「俺にとっての災いはお前自身だ。この通り魔め」


「果たして本当にそうでしょうか? 触らぬ神に祟り無し、と言いますでしょう?」


「……何が言いたい」


 再度、異能が光の動きを探知する。

 今度は下から。次は上から。タイミングをずらして背後から。

 不規則で多面的な波状攻撃は、明らかに複数人の思考を感じさせる。


(術者が複数いるのか、あるいは……倶久理の言葉通り、こいつらには意思があるのか?)


 青の光が持つ波動は電気に酷似している。しかし同時に、生物的な波動をも備えている。

 まるで謎かけだ。視点を変えれば見えてくるものもあるだろうが、あいにくそんな暇は無い。

 倶久理の右手が水平に波打つと、またも青の光が()び出された。


「明様、貴方は知り過ぎました。人に許された領分を越え、あまつさえ神々に矛を向けた。それがこのような運命を招いたのですわ」


 可憐な声で紡がれるのは罪の糾弾。人の好奇心と傲慢さを戒める言葉だ。

 その響きは聖句をそらんじるがごとく滑らかで、思わず聞き入ってしまような神聖さを醸していた。

 しかし、これをそのまま明の立場に当てはめれば、これほど無茶苦茶な言い分も無い。

 もしも倶久理がそういう意味(・・・・・・)で言っているのなら、明に彼女を許すことはできない。


「おい。その神々とやらは、まさか現神(うつつがみ)のことを言っているのか?」


「ええ。明様が滅ぼしてきた大いなる方々のことですわ」


「……正気とは思えんな。お前も荒神なら、現神(うつつがみ)のやっていることを知らないはずがないだろう!」


 無自覚に声を荒げ、威嚇するような目を倶久理に向ける。彼女が息を詰める音が聞こえた。


「俺の妹は現神に殺された。他にも多くの人々が犠牲になり、俺自身も命を狙われている。それに抗うことが罪だと言うのか、貴様は!?」


「っ……それは」


「馬鹿も休み休み言え! お前がどんな宗教観を持っていようが知ったことではないが、奴らの所業を肯定することだけは許さん!」


 鳴衣(めい)の死が運命だったとは思わない。

 あれは紛れもなく個人のエゴイズムによって行われた殺人だ。それを正当化するなど、妹の尊厳を汚すようなもの。

 こちらを襲う動機は判然としないが、これだけは言える。こいつは敵だ。

 そう判断した明はさらに眼光を鋭くする。

 倶久理は呼吸を止めて固まっていたが、意を決したように(つば)を飲み込むと、明の視線を受け止めた。


「……ですが、わたくしも退くことはできませんの。大神(おおみわ)様の使徒として、ここで貴方を討ってみせますわ……!」


 その言葉にはわずかな震えが混じっていた、ような気がした。

 しかしその意味を確かめる間もなく戦場は動く。

 倶久理の叫びに呼応して、青の光がうじゃうじゃと沸いてくる。数はそろそろ三桁に達しようというところだ。

 羽虫のように群がる光に追い回され、明は逃げ場を失っていく。


「クソッタレ、近付くことすらできんとは……!」


 あの光が電気的性質を持っていることを考えると、強行突破は自殺行為だ。しかも相手はどんどん手数を増やしていくと来た。

 それに、もう一つ気になるのは"大神様"という名前。どうやら彼女に指示を出している者のようだが……


(そいつもここに来ているのか? さすがにこれ以上敵が増えるとどうにもならんぞ)


 一瞬の思考を終え、明は方針を決定した。


「こんな状況でまともに戦ってられるか! 俺は帰らせてもらう!」


「なっ……なんですって!?」


 回避と同時に重心を落とし、手近にあった線香立てを拝借する。

 そのまま勢い殺さず、腰のひねりでサイドスロー。

 回転を極力抑えた投擲は青い光を素通りし、倶久理の額にヒットした。


「痛っ──目が染みて──げほげほっ!」


 激突の痛みと飛び散る灰が、彼女の意識を戦闘から引き剥がす。

 光の挙動にさしたる変化は無いものの、光の増加は止んだ。明はその隙を見逃さなかった。


「ではさらばだマッド・シスター。次に会った時は絶対に泣かす」


「お、お待ちなさ──ごほっ!」


 一方的な捨て台詞の後、墓石の台座に足をかけ、一段下の足場へ飛び降りた。

 そのままひたすら全力疾走。目指すは霊園入り口、車の脇に留めてある自転車だ。

 辿り着くなりスタンドを蹴り上げ、力一杯ペダルを踏み込んだ。


「まったく、最近はおかしな奴ばかり集まってくる……!」


 黒鉄(くろがね)といい斗貴子(ときこ)といいあの女といい、荒神には血の気の多い連中が多過ぎる。これでは武内が荒神不信になるのもやむなしだ。

 ドリフト走行で公道に飛び出すと、明は脇目も振らずに逃げ帰ったのだった。

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