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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第三章 蒼き夜空を統べる者
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第十三話 神鳴り

「……と、いうわけだ」


 時間は流れ、東にあった太陽がようやく西の空に移り始めた頃。

 明はようやくこれまでのあらましを語り終えていた。


「へえ、俺の知らないところでそんなに愉快な事件が起きてたんだ」


 うなずきながら小さく息をつく木津池。意外なことに、彼はそれほど衝撃を受けてはいなかった。

 もちろん多少は驚いているだろうが、その顔に浮かぶ感情は、驚きよりも納得の色合いが濃い。


「まさかとは思うが、現神(うつつがみ)の存在を予測していたのか?」


「それこそ"まさか"さ。いくら俺でも神話に名高い古代神が蘇ったなんて噂は初めて聞いたよ」


 ただ、と木津池は付け加え、


「合点がいった、とは思ったね。昏倒事件に端を発する一連の騒動は、通常の原理原則では説明がつかない。超常的な存在の介入なくしては成り立たないんだ」


「超常的……」


 そうつぶやいた望美はどこか不満そうだ。彼女は依然として現神の神性に疑問を持っているのだろう。

 明にしてもそれは同じだが、彼自身は望美ほど深く考えてはいない。

 由来がどうあれ敵は敵。仇は仇だ。しでかした事の落とし前はきっちりつけさせてもらう。

 それがいかなる時でも揺らぐことの無い、明なりの割り切り方だった。


「木津池くんも、現神が本物の神様だって思ってるの?」


「神様の定義次第かな。現神が記紀神話に登場する神々であることは疑ってない」


「やけに引っかかる言い方だな。どういうことだ?」


「神という単語が必ずしも上位存在を指しているわけじゃないってことさ」


 木津池はぶらりと歩みを進め、川の向こうに目を向ける。

 古色蒼然(こしょくそうぜん)とした趣のある今井町だが、対岸に見える景色は打って変わって近代的だ。

 車だらけの交差点に、高くそびえるビルの群れ。まるで二つの異世界をパッチワークで無理矢理繋げているかのようだ。


「たとえば……メキシコのケツアルコアトルという蛇神は、白人がモデルなんじゃないかって言われてる」


「神が、人だと?」


「当時の人たちは、文化も言語も肌の色も違う異民族が同じ人間だとは思えなかったんだろうね。

 偶然メキシコに流れ着いた西洋人が欧州の進んだ文化を教え、それが神話として残されたとしても不思議じゃない」


「しかし……現神はそれとは別だぞ。奴らはれっきとした異種族、動物図鑑にも載っていないモンスターだ。見間違いや誇張では説明がつかん」


「俺は現神の特異性まで否定してないよ。彼らはもっと地に足の着いた存在なんじゃないかって話」


 けむに巻くような言い草に明は閉口。苛立ちまぎれに口をうごめかしながら、


「お前の話は健康番組以上に結論が遅い。もっとシンプルに言ってくれ。現神とは何者だ?」


「まだ仮説ともいえないレベルの推論だから、決定的なことは言えない。……だけど、現神と八十神、そして荒神は全て一つの線で結ばれている」


 木津池はパフォーマーのように体を(ひるがえ)すと、眼鏡の縁に手を当てた。


「──雷。それが事件の謎を紐解くカギになるんじゃないかって俺は考えてるんだ」


 その時明の頭に思い浮かんだのは、耳成山の遺跡だった。

 磁気異常によって秘匿された入り口。大電力を貯め込む地下施設。青い光。あのタケミカヅチも雷を操っていた。


「有史以前、この地方には高度な電気技術を持った文明が栄えていた。そして、現神はその文明において重要な地位を担っていた可能性が高い」


「なぜそう言い切れる? 奴らは幽閉されていたんだぞ」


「彼らがフトタマの結界を使用しているからさ」


 木津池は講師のように指を立て、明と望美の前を行きつ戻りつしながら、


「一九四三年、アメリカ海軍は駆逐艦エルドリッジの船体に強力な電磁フィールドをかける作戦を行った。

 これは船舶が敵レーダーに映らないようにするための実験だったんだけど、実験の途中で思いがけないトラブルが発生した」


「おい、いきなり話が飛んだぞ。フトタマはどこに行った」


 明がつっこむが、木津池はまったく取り合わない。明は仕方なしに合いの手を入れてやることにした。


「で、そのトラブルというのは?」


「エルドリッジの船体が、乗員もろとも青い光と謎の霧に覆われて消えてしまったんだ。忽然と消え失せたエルドリッジが再び現れたのはしばらくした後のこと。これって、最近どこかで聞いたような話だよねえ」


 明と望美は顔を見合わせ、互いの表情を確認した。どちらの顔にも驚きがあった。


「もう一ついってみようか。君たちはバミューダトライアングルって知ってる? フロリダ州沿岸からサルガッソ海にかけて広がる魔の三角海域を指す言葉なんだけど」


「えっと……船とか飛行機が行方不明になるっていう噂の?」


「イエス。第二次大戦以降、あの海域では何度となく原因不明の消滅事件、および怪奇現象が相次いでいる。ここでも多くの人々が、白い霧と青い光を見たと証言しているんだ」


 固唾をのんで続きを待つ二人。木津池はやや鼻高々になりながらも、三つ目のヒントを提示する。


「バミューダ海域において時空転移や物体の消失を引き起こす白い霧。一部の研究者によると、これは電磁波によって引き起こされる霧……電子霧だということが判明している。青い光はセントエルモの火という放電現象だね。ここまで言えば分かるかな?」


「フトタマの結界もまた、強力な電磁波によって作られたもの……そういうことか!」


 結界は怪しげな魔法や奇跡ではない。既存の物理現象を利用した、確固たる技術だったのだ。

 しかもおあつらえ向きなことに、結界を作り出すための電力は耳成山に山ほど蓄えられている。それどころか、他の遺跡にも蓄電施設があるのかもしれない。

 そして、遺跡から電力を引き出す方法を知っている現神が、木津池の言う先史文明と何の関わりも持っていないはずが無い。それこそ神話の神々そのままに崇め奉られていたと考える方が自然だ。


「元々、遺跡の所有者は現神だったんじゃないかな。それが革命か何かによって奪われて、自分たちも封印された。さてさて、現代に蘇った支配者たちは何を思い、何をなす?」


 軽い口調とは裏腹に、木津池の表情はおもわしくなかった。

 この予想が正しければ、この国の人間は現神を裏切った者たちの子孫だ。

 彼らが何をするにしろ、そこに住まう人々の平穏を慮ったものにはならないだろう。同時に、それは遺跡に秘められた技術を活用したものになるだろう。

 なら、止めるしかない。

 この飛鳥地方のどこかに隠された遺跡を探し当て、現神の野望を打ち砕くしかない。

 それができるのは、荒神である自分たちだけなのだ。


「夜渚くん。今後の方針、決まったね」


「ああ。猛のことが一段落ついたら、すぐにでも行動を開始するぞ」


 やはり守りより攻めだ。自分は前進こそが性に合っている。

 好戦的な笑みを浮かべながら、明はこれからの戦いに心を沸き立たせていた。




1/30 超ド級のポカミスを修正。申し訳ございませんでした……

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