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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第三章 蒼き夜空を統べる者
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第八話 災いを呼ぶもの

 窓の間際で、光の球が緩やかに自転していた。

 球体はうっすらと透き通っているため、内部は空っぽであることが見て取れる。

 同時、現れたのは二つ目の光球。出現地点は窓の外。

 それは落ち葉だらけの地面に舞い降りると、直後に強く(またた)いて、弾けるように消滅した。合わせて一つ目の光球も消える。

 不思議な光のデモンストレーションが終了した後、望美があっと小さな声をあげた。続いて明も変化に気付く。

 門倉の手中には、いつの間にやら数枚の落ち葉が握られていたのだ。


「これが私の異能、アメノトリフネの力よ。空間の置き換え……いわゆるテレポーテーションってやつになるのかしら」


「やはり、あの時俺たちを助けた荒神はお前だったのか」


「アメノウズメのこともあるし、また襲われた時に備えて様子を見てたのよ。ほんのちょっと目を離した隙にフトタマの結界が張られちゃったから、結局蚊帳(かや)の外だったんだけどね」


 門倉はばつの悪そうな顔で肩をすくめ、それから思い出したように、


「そうそう、フトタマの結界っていうのはあの変な霧のことね。結界内の位相をズラして、その土地全体を別次元へと隔離する術よ」


「別次元、だと? ただ閉じ込めるだけではないのか?」


「おかしいと思わなかった? 市街地のど真ん中であれだけ凄い霧が発生してるっていうのに、誰も気に留めないだなんて」


 明は思い出す。霧のすぐ外を歩いていた人々が、霧に対して何の反応も示さなかったことを。騒ぎが起き始めたのは駐車場が倒壊した後だ。


「つまり、あの時の俺たちは"どこにもいなかった"ということなのか……?」


「そう。だから"霧の外"に出たところで何も無いし、結界が力を失うまでは元の次元に戻ることもできない。

 外にいる人たちからすると、消えたあなたたちがまた現れて、駐車場がいきなりボロボロになったように見えたでしょうね」


「次元転移とはSFもいいところだな。どういう仕組みなんだ?」


「さあ……。会長は知ってるような口振りだったけど、なぜだか教えてくれなかった」


「教えてくれなかった……?」


 引っかかるものを感じたが、明は少し考えた後、脱線した話題を本筋に戻すことを優先した。


「ともあれだ。お前は荒神となり、真実を知った武内は祖父の遺志を継ぐことにした……という認識でいいか?」


「ええ、そんなところね。それから先は、あまり今と変わらないわ。

 武内家の人脈から怪しい事件の情報を集めて、背後にいる現神(うつつがみ)を倒す。その繰り返しよ。……それと、荒神たちへの注意喚起も」


 台詞の後半、声のトーンがわずかに下がったことを明は聞き逃さなかった。

 しかし、それを指摘するのは、少しだけ……気が引けた。

 明は気を取り直すと、


「そして、現神と戦うための実働部隊が生徒会というわけか」


「なりゆきでそうなったようなものだけどね」


 門倉は自嘲気味に言うと、


「ちょうど役員のなり手がいなくて困ってたところに、友好的な荒神の子たちが入学してきたの。この際だから、そういう"いかにも"な秘密組織にしちゃうの悪くないかなーって」


 "友好的な"という前置きが意味するものに思いを巡らせつつ、明はとにかく話を進める。

 生徒会のスタンスを確認するのは、一通り情報を聞き出してからでも遅くない。


「荒神と武内については理解した。次は現神だが──」


「あー、やっぱり気になるわよね……」


 門倉はあからさまに言いにくそうな顔をしていた。


「現神のこととなると、あの人毎回だんまりを決め込むのよね。『秘密には秘されるだけの理由がある』とか何とか言って。あ、でも──」


 口元に手を当て、しばしの後に、


「現神の発言を聞く限りだと、おそらく彼らは本物ね。同名の別人なんかじゃなく、記紀神話に語られている(いにしえ)の神々そのもの」


「それ、本当なんですか?」


 疑わしげに聞いたのは望美だ。彼女は考え込むように視線を落とすと、


「私には、あの人たちが神様だとはとても思えないです。悪いことをしてるから、とかじゃなくて……神様ってもっとこう、超然としてるっていうか、私たちとは住む世界が違うっていうか……」


 望美の言わんとすることは明にも理解できた。

 これまで戦ってきた現神は、どれも皆ある種の俗っぽさや弱さを備えていた。

 体を斬れば血が出るし、傷付けられると悲鳴をあげる。あくまで自分たちと同じステージに立つ、一個の生物なのだ。

 もしも現神が本当に神だというのなら、自分たちは瞬殺されていてもおかしくない。

 門倉もその考えに一理あると思ったのか、あるいは答えの出ない議論を突き合わせる気が無かったのか、それ以上のことは何も言わなかった。


「現神は荒神を欲してる。その生き死にに関わらずね。連れ去る前に殺してるのは、単に反抗されるのが面倒だからじゃないかしら」


「実に傲慢だな。そういったところだけは神のイメージに相応しい」


 毒づきながら、湯飲みをつまんで茶をすする明。その間に望美が質問する。


「現神はどうして荒神を集めているんですか?」


「分からない。けど、彼らを放っておくと間違いなく悪いことが起きる。正しいことをしているつもりなら、陰でコソコソする必要なんて無いもの」


 そこまで言ったところで、明が口を挟んだ。


「同感だな。まともな神経をしていれば、八十神(やそがみ)のようなアブナい連中に仕事を任せたりはしないはずだ」


「というか、八十神は現神の操り人形のような存在なのよ。彼ら自身に自由意思はほとんど無いって会長も言ってたわ」


「八十神の残虐性がそのまま現神の決意表明になっているということか。ぞっとしないな」


 湯飲みを持ち上げ、残りを一気に飲み干した。

 聞くべきことは聞いた。現神や八十神の本質的な謎に迫る情報は得られなかったが、これ以上のことは現神か武内に直接聞くしかない。

 問題は「これからどうするべきか」だ。


「……生徒会としては、この町からすぐに離れることをおすすめするわ。現神の活動範囲は飛鳥地方に限定されているし、たった数人の荒神を追ってくるほど彼らも暇ではないと思う」


 門倉の提案は無難なものだった。それに正しいとも思う。

 あくまで自分は市内に数多いる荒神の一人でしかない。現神に特別視される理由など無く、いなくなったところで気にも留められないだろう。


「だが、猛は違うぞ。それについてはどう考えている?」


「私たちだって水野くんのことは気にかけているわ。会長がここにいないのも、水野くんを守るためよ」


「なら聞くが、守り切れなくなった時はどうする?」


「……あの人は、決断するでしょうね。現神に奪われるぐらいなら、いっそこの手で……って」


 門倉は目を伏せると、息を詰まらせながらつぶやいた。

 本意では無いのだろう。それでも、そうせざるを得ないのだろう。

 明には明の、武内には武内の事情がある。彼らにとっては現神の野望を阻止することが第一義なのだ。


(だがまあ、この程度の隔たりなら意見のすり合わせは可能か)


 明はすっくと立ち上がると、門倉に背を向けた。その体は部屋の外へと進んでいく。


「貴重な情報、感謝する。ではな」


「よ、夜渚くん!? ちょっと待って……!」


 望美が急いで帰り支度を始める中、明は廊下に片足を踏み出し、そこで一旦振り向いた。


「ああ、猛のことは気にするな。こちらで何とかする」


「何とかって……どうするつもりなのよ?」


「あいつはお姫様ではない。それが答えだ」


 ぽかんとする門倉を残したまま玄関口へ。そのまま屋敷の外に出る。

 庭園の中を足早に抜けて、表門から路地に出たところで望美が追いついてきた。

 望美は不満を露わにしながら、


「夜渚くんのせっかち。まだ話は終わってなかったのに」


「共闘関係を結ぼう、とでも言うつもりだったんだろう? それを言ってほしく無かったから話を切り上げたんだ」


「……? それの何が問題なの?」


「言っても門倉を悩ませるだけだからだ。何せ武内は筋金入りの荒神嫌いだ」


 話が飲み込めていない様子の望美に、明は「いいか?」と言ってから、


「生徒会は荒神に対して注意喚起を行っている。おそらくは転居を勧めるか、異能の使用をやめるように忠告しているんだろう。現神にさえバレなければ狙われることは無いからな」


「まっとうなやり方だと思うけど」


「俺もそう思う。だがな」


 明は声を低くして、


「考えてもみろ。突如としてスーパーパワーに目覚めた一般人が、そう簡単に力の誘惑を振り払えると思うか?」


「……あっ」


 望美の目が理解と共に広がる。その瞳に映し出されているのは、つい一週間前の黒鉄(くろがね)だ。


「地道な調査の果てに荒神を見つけても、ほとんどの者は生徒会の話に耳を傾けない。それどころか、彼らを邪魔者と見なす輩もいたかもしれん。

 そうして苦労は徒労に終わり、正しいことをしているはずの自分たちは無駄に傷付いていく。武内が人間不信……いや、荒神不信になるのも時間の問題だったろうな」


 武内の言動からは、荒神という種に対する警戒心がありありとにじみ出ていた。

 力持つ者の暴走と、それがもたらす災禍(さいか)を誰よりも恐れ、そして憎んでいるのだろう。

 見た目通りに頑迷で融通の利かない男だ。どこぞの刀馬鹿に比べれば格段に好ましい気性だが。


「もっとも、奴が荒神を嫌う理由はそれだけではない。むしろ俺たちにとっては二つ目の方が重要だ」


「……それは、現神に関すること?」


(さと)いな。大当たりだ」


 門倉の話からは、肝心要の部分が抜け落ちていた。

 意図的に語らなかったのか、もしくは彼女自身も知らなかったのか。そこまでは分からないが、知識の穴を推測で埋めることはできる。


「八年前の時点で現神は解き放たれていた。だが、どうやって? 封印が勝手に解けたのか? それとも──誰かが解いたのか?」


 これまでの話を総合すると、遺跡の中には現神か、現神の寝所に通じるカギやら何やらが隠されているはずだ。

 では、遺跡に入ることができたのは誰なのか?

 荒神しか入れないはずの遺跡に、誰が忍び込んだのか?


「答えは一つしか無い。この事件を引き起こした真犯人は、荒神だ」


 明がそう言った直後、上から気の抜けたような打音が聞こえてきた。


「ブリリアント! 実に見事な推理ですよ、明さん」


 音の源は瓦屋根の上。

 屋上で出会った白髪の少女が、軽やかに拍手の音を奏でていた。


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