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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第三章 蒼き夜空を統べる者
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第四話 餅は餅屋

「……つまり、あの女に触れられたと思ったらいつの間にか全てが終わっていた、と」


 屋上を後にした明は、病室へ戻る道すがら望美に話を聞いていた。

 現神(うつつがみ)は撤退し、院内に侵入した八十神(やそがみ)もあの少女によって駆逐されている。

 抜け殻のように遺された白衣と包帯を避けながら、二人は無人の階段を下りているところだ。


「あの子が夜渚くんの服の中を漁ってたところまでは覚えてるんだけど、止めようとしたら凄い速さで手を伸ばしてきて……それで、気が付いた時にはどこにもいなかった」


「まるで怪談だな。……というか、もう一度確認していいか? 望美の目には、俺が何の抵抗もせずに全身をまさぐられていたように見えたのか?」


「その表現は卑猥だと思う」


「なら全身を自主規制されていたとかピーされていたとでも言えばいいのか?」


「その表現も卑猥だと思う」


 駄目出しされた明はふてくされながら「とにかく」と続け、


「俺と望美がそれぞれ別の光景を目にしていたということは分かった。これは非常に大きな収穫だ」


 望美の話によると、少女が勾玉をスリ取るまでの数秒間、明は石のように固まっていたのだという。

 もちろん明にそのような記憶は無い。少女はそれこそ手品のように、一瞬にも満たぬ時間で事を終えてしまったのだから。

 この認識のズレこそが、彼女の持つ異能の秘密に繋がっていることは間違いない。


「詳しい能力は分からんが、現状でも最低限の対策は取れる。次に出てきた時はこちらの体に触れさせなければいい」


 明がそう言った時、後ろで望美の足音が止まった。振り返った明に問うような視線を投げかけ、


「夜渚くんは、あの子がまた襲ってくるかも、って思ってるの?」


「五分五分だな。猛が操られていたこともあるし、自分にとって都合のいい情報だけで他人を判断するべきではない」


「あの子が敵ならわざわざ私たちを助けたりしないと思うけど」


 明はしばし考えてから、やはり駄目だという風に首を振る。


「八十神を退治してくれたことには感謝しているが、手癖の悪さは減点要素だ」


「人のお尻を触ってた人がそれを言うのはどうなのかな……」


「触ったといってもパンツとタイツとスカート越しだぞ? 三枚も隔てていればノーカンだろう。手触りもよく分からんかったし」


「裁判でもその言い訳が通用するといいね」


 望美はスカートの先を押さえながら明の脇を走り下りる。

 明を追い抜き数段先んじてから、


「……でも、本当に情報が足りないよね。さっきのことだけじゃなくて、もっと色々」


 明は無言で肯定する。

 荒神。現神。八十神。そして例の寄生体が言い残した"王の器"という言葉。

 これら全てが謎のヴェールに隠れたままで、尻尾の先すら掴めない。

 耳成山の地下遺跡についても分からないことは多い。八十神を封じていたことと大電力を蓄えていることまでは判明しているものの、事件との直接的な関連性については曖昧だ。

 正直、この流れはあまりよろしくない。

 敵の正体も不明なまま、向かってくる敵を迎え撃つことに終始していれば、その先に待つのは緩慢な破滅だけだ。

 望美も漠然とした不安を抱いているのだろう。歩む速度は力無く、ゆえに明が追いつくこともたやすかった。


「なら、それを知っている奴に聞きに行こうじゃないか。明日の予定が決まったな」


 明は防戦が嫌いだ。受けに回ることが嫌いだ。相手のペースに乗せられることが嫌いだ。

 好きな言葉は先手必勝。嫌いな言葉は果報は寝て待て。前進と行動こそがより良き未来を切り拓くと信じている。

 だから今度も、明はそうすることにした。


「──生徒会長・武内暁人(たけうちあきと)。奴の自宅に突撃取材を行う」

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