表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第三章 蒼き夜空を統べる者
49/231

第一話 鋼の闘志

 そこは病院の一室だった。

 広さはだいたい八畳ほどだろうか。よく掃除の行き届いた、個人用の病室だ。

 部屋の中央、白いベッドの上で静かな寝息を立てているのは、夜渚明(よなぎあきら)の良く知る少年──水野猛だった。


「その……お医者様の話では、そんなに心配しなくても大丈夫だって」


 重苦しい空気の中、そう切り出したのは金谷城望美(かなやぎのぞみ)だった。


「たぶん、疲れが溜まってただけだろうって。脳波にも異常は無いし、長くても二、三日で目を覚ますはずだって。だから……」


 沈黙に耐え切れなくなったかのように、矢継ぎ早に言葉を重ねる。

 気遣わしげな視線は、ベッドの前で(うつむ)黒鉄良太郎(くろがねりょうたろう)に向いていた。

 この場所を訪れてからというもの、黒鉄は一度も口を開いていない。看護師が用意してくれた丸椅子にも座らず、石像のように立ち尽くしている。


(あの馬鹿がこんな姿を他人に見せるとはな……)


 動揺するだろうとは思っていた。

 しかし、明が予想していたのは怒ったり驚いたりといった動的な変化だ。このように虚ろな反応ではない。


(最悪、奴に殴られることも覚悟していたんだが)


 猛が倒れたのは、目覚めたばかりの異能を酷使し続けた反動だ。元凶は猛を操っていた者であり、明に直接的な責任は無い。

 とはいえ、黒鉄に黙って事を済ませようとしたのは事実。

 もしも明が事前に相談してれば。黒鉄に協力を仰いでいれば。

 今さら考えても意味の無いことだが、火が消えたように意気消沈した黒鉄を見ていると、そう思わずにはいられなかった。


「さて、コーヒーでも買いに行くか。望美も来るか?」


 明は出し抜けにつぶやくと、ハンドサインで望美を促した。


「でも、黒鉄くんが……」


「しばらくそっとしておいてやった方がいいかもしれん。猛と一番付き合いが長かったのはあいつだからな」


 望美はなおも視線をさまよわせていたが、ここにいても自分にできることが無いと判断したのか、明の後に続いた。

 そうして明がドアノブに手を伸ばそうとした時、後ろから黒鉄の声がした。


「……おい、転校生」


 呼び止める声はやや湿り気を帯びていたが、黒鉄本来の力強さをいくらか残していた。


「なんで猛なんだ? 俺でもてめえでも金谷城でもなく、猛が狙われた理由は何なんだ?」


「どうやら猛は特殊な荒神らしい。奴は"王の器"だと言っていた」


「王の器?」


「詳しいことは俺にも分からん。だが、現神(うつつがみ)にとっては重要なんだろう。なんといっても"荒神死すべし"な連中が宗旨替えして体を奪おうとしたぐらいだからな」


「つまり、猛はこれからも狙われ続けるってことか?」


「あるいは、俺たちよりも優先的にな」


 望美が非難がましい顔でこちらを見た。こんな状況で黒鉄をさらに追い詰めるようなことを言うな、と言いたいのだろう。

 しかし、明はこれが必要なことだと思っていた。

 黒鉄はまだ折れていない。確かにショックを受けてはいるが、この男は世の理不尽を嘆くだけの弱い人間では無い。


(だからこそ、あの時お前はアメノウズメに挑んだんだろう?)


 それは期待であると同時に、明なりの信頼だった。

 一から十まで駄目なところばかりだが、ここぞという時の勇気だけは一人前。そう思える程度には、彼のことを評価しているのだ。

 そして明は見やる。黒鉄の背中を。

 小さく丸まっていた背中が、少しずつ伸びて、伸びて……ふんぞり返るほどに反り返ってから、こちらを振り向いた。


「しゃーねーなぁ! だったら、やるしかねえだろうがよ!」


 伴う笑みは犬歯を剥いた獰猛なもの。多少は空元気だろうが、それでも覚悟に嘘は無い。


「要は現神を全員ブッ殺せばいいんだろ? 簡単じゃねえか」


「ははは、さんすうのできないお前にとっては簡単に思えるんだろうな。羨ましい限りだ」


「おいおい、俺は累積2キルの神狩りエース様だぜ? どこぞの頭でっかちとは実績が違うんだよなぁ」


「何が2キルだ記録を捏造するな馬鹿。イワツチビコはともかく、アメノウズメにトドメを刺したのは俺だぞ」


「は? ダメージスコアで判定してるんだが?」


 互いに襟を掴みつつ、至近の距離でにらみ合う。陰鬱な空気はどこかに消え去っていた。

 傍で見ていた望美が大きく息を吐く。それは安堵によるものか、それとも呆れによるものか。もしかすると両方かもしれない。

 どちらにしても、これでいつも通りだ。小さなしこりは時間と共に取り除いていけばいい。


「ふん、そこまで言うなら見せてもらうじゃないか。お強いエース様の実力とやらをな」


 黒鉄を押しのけ一瞥(いちべつ)すると、明はドアから一歩退いた。

 望美は制鞄から適当な文房具を取り出し、黒鉄はアルミ製の窓枠に手をかける。

 廊下の方から聞こえてくるのはけたたましい足音と、人々の緊迫したざわめきだ。

 一瞬の後、ドアが蹴破られた。


「さっそくお出ましか」


 そう言うや否や、明は白装束の闖入者(ちんにゅうしゃ)に出会い頭の振動波を叩き込んだ。


三章はバトルと日常パート交互。

基本的に三の倍数の章では多くの謎が解けます。


そろそろストックが尽きてきたので、以前にも言っていたように更新頻度が2~3日に1回ペースになる日も近そうです。気長にお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ