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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第二章 濁流は雷雲と共に
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第二十話 ブラフ

 最前線に出た明を出迎えたのは、水龍の突進だった。

 出会いがしらの強襲をしゃがんで回避。前傾しながら手をつくと、陸上選手さながらにクラウチングスタートを切った。

 直後、交差するように飛来する二体の水龍。

 明は地面を刻むようにステップし、わずかな隙間を走り抜けた。


「夜渚明……!?」


 明に気付いた武内が怪訝(けげん)な顔を見せる。


「今さら何をしに来たというのだ。戦う覚悟の無い者など、この場においては何の役にも立たぬ」


「覚悟ならあるとも。友を死なせないためにあらゆる手を尽くす覚悟がな」


 こちらの顔を覗き込んだ武内は「ほう」と興味深げに眉を上げた。


「その表情……妙案ありと見なしてよいのだな?」


「詳細は省くが、俺が猛に触れれば勝ちだ。援護してくれ」


「他力本願な男だ。(オレ)が断ると言ったらどうするつもりだ?」


「そんなことは言わないだろう。そこまで器用な男にも見えんしな」


「生意気な」


 不機嫌そうに吐き捨てるが、拒絶の言葉は無かった。つまりは承諾という意味なのだろう。

 明はうなずき、前を見据える。

 猛は池の縁に立ち、余裕を見せるように構えていた。


「作戦会議は終わったかい? そろそろ待ちくたびれてきたんだけどー?」


「待ちくたびれた? 冗談はよせ。くたびれた、の間違いだろう」


 猛の顔色が険しくなる。明はにやりと笑って、


「水を司る異能……スサノオ、だったか。その力、使用者への負担も馬鹿にならないと見える。抑えているつもりかもしれんが、呼吸の乱れがバレバレだぞ」


「……お気遣いどうも。でも、きみたち二人を始末するぐらいならなんてこと無いさ」


「なら、せいぜい頑張ることだ。これからはインターバル無しになるぞ」


「笑わせないでよ。貧弱なナキサワメの力で、このぼくをどうにかできると思ってるの?」


 猛はやれやれと顔に手をやり、


「──身の程を知れ、粗製(そせい)がっ!!」


 処断の意思を込めて振り下ろした。

 水龍たちが牙をむいて降下する。

 明と武内は右に走って攻撃を回避。二人は回り込むような軌道で猛に迫る。

 明らかに、先ほどより攻撃の勢いが緩い。これを好機を見た明はさらに速度を上げる。


「もうグロッキーか? 情けないな。本物の猛ならこの程度で根を上げることは無かっただろうに」


「バテる? きみにはそう見えてるのかい?」


「強がりはよせ。他にどう見えると──」


 そこまで言って、明は急ブレーキをかけた。

 猛の後方、ため池の水面が不自然に揺れ、大きな波紋を作り出していたのだ。

 直後、大量の水が巻き上げられた。

 水流は巨大な水球となり、地上の一メートルほど上に停滞。そして、猛の体が水球の中心に吸い寄せられていく。


「触れれば勝ち……だっけ? ふふふっ、ざーんねん! これできみたちは絶対に勝てなくなった!」


 水球の中から猛の声が響く。

 それは攻防一体の鎧。全方位を囲む水の壁は外部からの干渉を完全に遮断し、中に入り込んだ者を激しい水流によって溺死させる。

 そのうえ明と武内は、この水球を破壊できるような攻撃手段を持ち合わせていない。彼らの作戦は、早くも頓挫してしまったのだ。


(……と、思っているのだろうが、そんなものはとっくに想定済みだ!)


 明は再び走り出す。目的地は水球の脇に立つ街灯のたもとだ。


「武内っ! 街灯を倒せ!」


 意味不明な命令。だが、武内は瞬時に実行した。

 こちらの策を理解した? 否。打ち合わせなどしていない。

 武内はただ、重々しい眼光をこちらに投げかけただけだ。

 その瞳は「この(オレ)をあごで使ったのだから、相応の結果を出せ」と語っていた。


「ぬうんっ!」


 武内は街灯に目をやり、飛ぶような一歩で接近。柱の根元に回し蹴りを叩き込んだ。

 金属製の柱が紙細工のように潰れ、くの字に折れ曲がる。

 即座に明は柱に触れて、揺らす力を全力発動。伝わる衝撃が先端の白熱灯を破裂させた。

 街灯を倒すこと。白熱灯を破壊すること。この二つの条件をクリアすることで、はじめて明の策は機能する。

 徐々に傾いていく街灯。振り下ろされる先には、水球があった。


「ははっ! みっともない悪あがきだねえ!」


 猛の唇が吊り上がる。嘲笑を込めて。

 当然の感想だ。こんなものがぶつかった程度で水球を破壊できるはずがない。

 だが、それでも良かった。明は水球を破壊するつもりなど元より無いのだから。


「悪いな、猛。少しだけビリビリする(・・・・・・)だろうが、我慢してくれ」


「──っ!?」


 明の言葉に猛は一瞬悩み、直後にはっと顔を上げた。

 水球に包まれた己の体を見て、倒れゆく街灯を見上げ、その先にあるむき出しの端子部分まで視線を動かし、戦慄する。

 感電。その単語が反射的に脳内を駆け巡っているのだろう。


(まあ、ハッタリなんだがな)


 多少は漏電するだろうが、いくらなんでも水球全体に行き渡るほどの大電流が流れることはありえない。落ち着いて考えれば分かることだ。

 だが、猛に落ち着いて考えられるほどの余裕は与えられていないし、与える気も無い。

 そして、パニックを起こした人間は総じて初歩的なミスを犯すものだ。

 もうあと数十センチで電灯と水球が接触する。明は勝ち誇ったような顔で猛を見上げ、相手の焦燥を煽る。

 猛の視線が目まぐるしく動いて、彼の混乱ぶりを如実に伝えていた。


「くっ……!」


 そうして猛は、とりあえずの安全策を選んだ。

 水球を解除し、再び自分の足で地面に降り立つ。流れる水は地面を跳ねて、あっという間に池の中へと戻っていく。

 そして、街灯が地面と衝突した。落下地点はちょうど、水球の名残が水たまりを作っている場所だった。


「……っ!」


 一瞬、猛が顔を強張らせた。

 が、放電は起こらない。


「……ハメられたっ!?」


「その通りだ。ビビってくれてありがとうと言っておこうか」


 その間、明は既に距離を詰めていた。

 懐深くに踏み込んで、胸元に平手を打つ。

 そして、叫びと共に振動波を送り込んだ。


「というわけで、猛は返してもらうぞ──!」


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