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第十八話 御霊の剣

 ニニギノミコトは目の前の光景に疑問を投げかけていた。


「……何が起きたのだ?」


 自分はヨモツイクサに荒神の始末を命じ、彼らはそれを速やかに実行した。

 即応した兵は4体。相手は腰を抜かした女が2人と、とがった石くれを持った男が1人だけ。

 どう見ても勝負にすらならない。それは単なる作業であり、処理だ。

 決着は一瞬だった。予想通りに。

 ただ、結果だけが予想と違っていた。


「ったく、ここまで来て舐めプはやめろってえの。ちっとは信用しろや」


 石片持つ手を腰に当て、呆れたように黒鉄(くろがね)が言う。その足元には真っ二つにされたヨモツイクサが転がっている。

 彼の動きはとても単純だった。倶久理(くくり)たちの前に割り込み、その石片を横に薙ぎ払っただけだ。

 たったそれだけの動きで、4体のヨモツイクサが破壊された。

 あまりにも意外な展開を前にして、ニニギノミコトの判断がわずかに遅れる。その間隙(かんげき)に己の言葉を滑り込ませたのは黒鉄だった。


「黙って聞いてりゃ、ゴチャゴチャと情けねえ泣き言をわめき散らしやがって。結局のところ、てめえの器が小せえだけじゃねえか」


「何だと……!?」


「他人の(あら)探しばっかりすんなってことだよ」


 大股で一歩。両脇のヨモツイクサが瞬時に身構え、鏡合わせのように長爪を振りかざした。


「てめえ、一応王様なんだろ? だったらなんで自分の手下を信じようとしねえ? 高天原(たかまがはら)の民ってのはそんなに信用できねえ連中ばっかりだったのかよ?」


「信じていたとも! しかし()は何度も裏切られてきた! 現神は過ちを繰り返し、この地には悲劇があふれている!」


「だったら何だよ。間違えちゃ駄目なのか?」


「な──?」


 水平に一閃。ピラミッドの頭部が綺麗に両断され、2体のヨモツイクサが同時に倒れた。


「間違えたらやり直せばいいだろ。馬鹿やらかしたらブン殴って、正しいやり方を一緒に考えてやりゃいい。玉座の上で偉そうにするだけが王様の仕事じゃねえぞ」


「軽々しく言うでないわ! 一度の過ちが取り返しのつかぬ結果を招くことになるのだ!」


「かもな。だがそれを決めるのはてめえじゃねえ」


 また一歩。2体のヨモツイクサが槍のように爪先を構え、さらに2体が樹上から奇襲をかけた。


「大体、てめえの言う過ちってやつは本当に過ちなのかよ? てめえが途中で勝負を投げただけじゃねえのか?」


「そのようなこと、あるはずが無い! 我らは最善を尽くし、しかし全てがどうしようもなく間違っていた! 我らは生まれるべきではなかった! 生み出すべきでは無かったのだ!」


「じゃあ聞くがよ、てめえ、これまでの人生で本当にいい事なんか一つも無かったって言えるのかよ?」


 一歩と共に姿勢を沈め、上からの斬撃を回避。面倒そうに首を傾け、2つの刺突を同時に流す。

 踏み出す足を軸にして、ゆらりと回転。

 円を描く斬撃。4つの敵が8つの残骸となった。


「全部が全部間違ってたなんてこと、あるわけねえだろ。楽しいことも面白えことも山ほどあったはずだぜ」


「そんなものは──」


「無いとは言わせねえ。完全に愛想を尽かせるほどクソまみれじゃなかったから、てめえはそこまで責任を感じてるんだろうが」


 心臓を鷲掴みにされたような感覚。

 去来するのは昔日(せきじつ)の残照。友と語り明かした日々。素朴にして純粋な民。力だけなく、本当の強さをも兼ね備えた神々の雄姿。

 あの頃は全てが輝いていた。皆が前を向き、両の(まなこ)にあふれんばかりの希望をたたえていた。

 その視線の先にいて、最前を歩いていたのは……自分だ。


「──違う!」


 ニニギノミコトが激しく頭を振り乱す。在りし日の幻影から逃れるように。

 迷いを捨てると、威圧を込めた眼光を叩きつけた。虚言を(ろう)してこちらを惑わさんとする黒鉄に。

 しかし相手はどこ吹く風で、在らぬ方向に視線を向けている。いたく不機嫌そうな顔で。


「おい、だから舐めプやめろっつってんだろうが。手加減されて喜ぶ歳じゃねえんだよ」


「は……?」


 意味不明な発言にニニギノミコトの混迷は深まっていく。

 黒鉄はこちらを見ていない。かといって、倶久理たちの方を見ているわけでもない。

 彼は苛立(いらだ)たしげに地団太を踏みながら、誰もいない空間に向かって話しかけている。

 ……いや、正確には"ヨモツイクサしかいない空間"に向かって。


「黒鉄様、貴方はもしや……」


 倶久理が口を押さえ、理解を得たように黒鉄を見上げた。そしてスクナヒコナも「まさか」と言わんばかりの表情を浮かべている。

 だがニニギノミコトには分からない。その事実がさらに混乱を助長する。


「貴様ら、いったい何を言っておるのだ? 何を企んでおるのだ!? 答えよ!」


 黒鉄はこちらを横目で見て、


「てめえには聞こえねえのか? あいつらの声が」


「声……?」


「ヨモツイクサが叫んでるんだよ。てめえを止めろ、ってな」


 ニニギノミコトは食いかかるような勢いでヨモツイクサたちを見た。

 しかし何も聞こえない。

 当たり前だ。ヨモツイクサに発声器官は無い。それどころか、彼らは自律した人格すら有していないのだ。

 だから有り得ない。

 そう分かってはいても、どこか引っかかるものはあった。

 何かがおかしい。この違和感を放置してはいけない。対処しなければ。今すぐ、ただちに、制御不可能な事態を引き起こす前に!


「……もうよい!」


 ニニギノミコトは腕を張り、力強い仕草で合図を送った。ヨモツイクサが一斉に動き出す。


「立てヨモツイクサよ! 滅ぼすのだ、荒神を! 罪深き者たちを! 我らの業をこの地に残してはならぬ!」


 号令が彼らを突き動かし、黄泉招きの津波となって一挙に押し寄せる。

 数に任せた圧殺。残存するヨモツイクサは20を超え、それら全てが黒鉄一人に集中した。

 もはや彼我の戦力差など関係無い。逃げ場すら与えない。黒鉄が一人を倒す間に、ヨモツイクサは彼を三度八つ裂きにするだろう。

 それが現実。努力や根性では覆すことのできない運命。かつて自分が屈したそれそのものだ。


「だーかーらー……ほんっとお前らはよぉ!」


 ニニギノミコトの目の前で、運命が覆されていく。

 波の隙間を縫うように。嵐の中で踊り狂うように。

 黒鉄が走る。一撃必死の斬撃の中を。

 跳び、回り、振るい、裂き、いなし、断つ。一瞬とて止まらぬ動きの中で。

 それは殺陣(たて)を思わせる動きだった。目に映る全てに調和が取れており、美しい流れがあった。

 まるであらかじめ決められた流れのように、ヨモツイクサが倒れていく。

 最後の一体に石片をめり込ませると、黒鉄はこちらに向かってつばを吐いた。


「……これは、何かの間違いだ。このようなことが起きるはずがない」


「今のは俺的にも不本意ではあるんだが……その辺は好きに解釈しろよ。だが間違いってのもそうそう悪いもんじゃねえぞ?」


 黒鉄が拳を作り、胸元に掲げた。


「マジな話するとな、俺の人生は間違いだらけだった。あっち行ってこっち行って、考え無しに暴れ回って、失敗して、腐って、また(いき)がって、その繰り返しだ。……だが、おかげで得たものもある」


 拳が赤熱した光を放つ。それは掌の内から生じる火の粉であり、異能の現れだ。


「俺は自分が馬鹿だったからダチに出会えた。回り道したから、本当にやりたいことを見つけられた。みっともねえ負け方をしたから、本物の負け犬にならずに済んだ」


 振り上げた拳はさらに輝きを増し、火の粉が螺旋(らせん)の渦を巻く。

 その時、ヨモツイクサの残骸が一斉に浮き上がった。それは火の粉に触れるや否や、銀の花びらとなって渦に吸い込まれていく。


「だから俺はここにいる。しくじって、恥かいて、何度も何度も間違い続けたから──」


 銀の渦はよりいっそう回転を速め、赤の輝きはもはや直視できぬほどになっていた。

 そして、ひときわ強い光が世界を赤く染めた時。


「──俺の刀は、てめえに届く」


 赤の光は消え、その手には一振りの刀が握られていた。

 黒鉄が軽く振るうと、それは空気を裂いて水しぶきのような音を響かせた。

 ニニギノミコトはその刀に見覚えがあった。

 曇りの無い白銀の長刀。彼の親友が護国のために打ち鍛えたもの。超合金ヒヒイロカネを素材に作られた地上最強の一刀。

 その名は、


布都の御魂の剣(フツノミタマノツルギ)……!」


 彼は無意識の内に後ずさっていた。

 認めたくないのだ。目の前の事実を。

 フツノミタマノツルギはフツヌシの魂そのもの。彼は生涯同じものを二度と作ることはできなかったし、ましてや荒神などに再現できるはずがない。

 だが、それは確かにここにある。

 であれば、何者かの意志が介在していたに違いなく……


「なぜだ、フツヌシ!? なぜそなたまでが余の邪魔をする!? なぜ分かってくれぬのだ!」


「知らね。けどよ、その答えはてめえが一番分かってるんじゃねえか?」


「黙れこの詐欺師が! 己が命惜しさにフツヌシの銘刀を利用するなど、不敬にも程があるわ! その罪、万死に値する!」


「そうかい。ま、分かんねえならいいや。俺もいまいちどうなってんのか分かってねえしな!」


 あっけらかんと笑い、黒鉄は刀を構えた。


「ごちゃごちゃ言うのはガラじゃねえ。後はこいつで語らせてもらうぜ。強い方が未来を勝ち取る、分かりやすいだろ」


「余に明日など無い。どうあれ滅びるさだめなのだ」


「なら俺の勝ちだな。結果に責任持てねえ腰抜けがケンカに勝てるわけがねえ」


「ほざけ小僧! 我が使命を子供の癇癪(かんしゃく)と同列に語るか!」


「だったら今の自分を見てみろよ。寝小便を隠すガキと何も変わらねえだろ」


「貴様──!」


 激怒の咆哮が開戦の合図となった。

 荒ぶる心を四肢に乗せ、大地を覆さんばかりの勢いで突き進むニニギノミコト。対する黒鉄はただ一途に、一直線に疾駆する。

 敵は荒神一人。しかし、ニニギノミコトはその一人を最大の敵と認めた。

 倒さねばならぬ。この男を討ち取り、その覚悟を完膚なきまでに踏み砕かなければ。

 否定するのだ。否定。否定。否定!

 規定するのだ。間違いはどこまで行っても間違いでしかないと!

 ニニギノミコトは不退転の覚悟を決めた。獅子の気迫は全力をさらに超え、死力にまで届く。

 主の望みに応え、牙の間で身じろぎする黄金の息吹。しかしまだ足りない。

 完全な勝利を。いや勝利すら要らぬ。奴らを消し去ることさえできればいい。


(そのためならば、この身を犠牲にすることも(いと)わぬ……!)


 黄金はさらに力を増し、朝日のような輝きが周囲を飲み込んでいく。それが限界を迎えた瞬間、ニニギノミコトは決死の一歩を踏み込んだ。


天沼矛(あめのぬぼこ)よ、その剣で余の罪を浄化せよ──!!」


 間違いなく最強最大の一撃。光の奔流(ほんりゅう)は黄金の竜となって敵に襲いかかる。

 回避は到底不可能。仮に避けたとしても、天文学的なエネルギー崩壊はすさまじい衝撃波となって一帯を焼き尽くし、この結界そのものを木っ端微塵に破壊するだろう。その中にはニニギノミコト自身も含まれている。

 だが、悔いは無い。自分が死んだとしても、飛来御堂(ひらいみどう)とナキサワメが国譲りを成就させてくれる。

 そして、その時こそ自分は積年の罪から解放されるのだ。

 確定された運命を前にして、気が抜けたように息をつくニニギノミコト。

 そんな彼の前で、またも運命が覆された。

 しかも、目を疑うような形で。

 まばゆい黄金の輝きが収まった時。

 そこに黒鉄がいた。全くの無傷で。


「──!?」


 敵は未だ健在。それどころか、予想していた爆発すら起きていない。

 彼は思わず天沼矛の行方を探そうとして──間に合わない。既に間合いの内。白銀の刀が見惚れるような輝きを放ち、


「約束通り、未来(あした)はいただいていくぜ」


 斬。


 その時、世界のあらゆるものが静止した。

 まばたき一つの間を置いて、したたかな水音が響いた。

 それは彼の胸が斬り裂かれた音であり、おびただしい出血の噴出音であり、その肉深くに埋まっている異能の根源──ヤサカニが切断された証だった。

 あ、という間もなく、力が抜けていく。

 その巨体がぐらりと傾いたかと思うと、視界が回った。

 あおむけに倒れたのだということを自覚した時、ニニギノミコトの胸に去来した想いは「また失敗したのか」だった。


「幾度となく間違い続け、何一つ成し遂げられず、罪と失意にまみれたまま死を迎える。これが余の人生だというのか……」


 滑稽(こっけい)である。

 浮かぶ言葉は目覚めた時と同じものだった。

 見上げた空は白い霧に包まれ、その先を見通すことなどできはしない。

 全てを諦め、全てを放棄した彼に残ったのは、一つの疑問だった。


「なぜ、天沼矛は外れてしまったのだ? 仮に外れたとして、どこに消えてしまったのだ?」


 考える。が、答えは出ない。こんなことは今までに一度も無かったからだ。

 彼は視線だけをゆっくりと動かし、見慣れた黄金の姿を探していく。

 そして、その視線がある人物の姿を見とめた。倶久理だ。

 彼女はニニギノミコトの(かたわ)らに立つと、疑問の答えを口にした。


「天沼矛は消えてなどいませんわ。彼らは貴方の命令を拒んだだけですの」


「拒んだ、だと? 何を馬鹿な……そも、天沼矛に意思などというものが」


「いいえ、ありますわ」


 断固とした口調。


「天沼矛がビッグバンの再現だと聞いた時、ピンと来ましたの」 


 彼女は手のひらを空に向け、


「以前、木津池(きずち)様がおっしゃっていましたの。ビッグバンは全ての始まりであり、そこには宇宙の全てがあった、と。でしたら、そこにはきっとわたくしたちのような生命の先駆けとなる何かが……"意思"と呼ばれるものが含まれていたはずですわ」


 その手の上に、黄金の粒子が落ちた。


「形なき生命。意思持つエネルギー。それこそ、わたくしたちが"魂"と呼ぶ存在そのものではありませんか?」


 粒子は虫のように空を漂い、ニニギノミコトを見下ろしている。それは明らかに何らかの意思を感じさせる動きだった。

 彼はしばし言葉を失っていたが、やがて畏怖(いふ)に満ちた表情で倶久理を見た。


「そなたは……余の天沼矛を支配したのか!? だから天沼矛はあの男を避け、自ら霧散したというのか!?」


 思えば心当たりはいくつかあった。

 この戦いで彼は何度も天沼矛を放ち、しかしそれはいつも回避されていた。先ほどの不可解な現象も、外部からの干渉があったとすれば納得がいく。

 ただの荒神がそれほどの力を持っていたことに彼は驚くばかりだったが、倶久理はなぜか首を振った。


「わたくしは彼らを支配したことなど一度もありませんわ。もちろん、何かをしろと命じたことも。彼らは今もなお貴方の忠実な剣ですの」


「馬鹿な。それでは話が違うではないか。ならば、天沼矛はなぜ──」


「わたくしは一言問いかけただけですの」


「問い、だと?」


 倶久理は静かにうなずき、


「貴方がたは生まれてきたことを後悔していますか、と」


「──!!」


 ニニギノミコトは二の句が継げなくなった。

 風と共に黄金が舞い降り、彼の体を包む。それはとても温かく、優しい光だった。


「……そうであったのか」


 フトタマの霧は未だ天を覆っている。しかし、見上げた空は朝日のような黄金色に変わっていた。


「そう、だな。何が間違いであるかなど、余が決めるべきものではない。彼らの人生は彼ら自身が定義するべきなのだ」


 体は重く、指一本すら動かせはしない。それでも心は軽くなっていた。

 自分はどこまでも間違っていた。間違い続けていた。

 しかし、その間違いにさえも意味を見出してくれる者がいたのだ。

 それはきっと天沼矛だけではない。自分が気付いていなかっただけで、あるいは忘れていただけで、もっと多くの者が。

 悪くない気分だった。望んだ形ではなかったが、こういう終わり方もたまにはいいだろう。

 そうして、彼は本当に、本当に久々に穏やかな気持ちのまま、目を閉じた。


「……む?」


 そこでふと気付く。

 自分はいつになったら死ぬのだろうか?

 ヤサカニを破壊された現神は生命活動を維持できず、その肉体は溶けて消えるはずだ。だというのに自分はいつになっても溶け始める様子が無い。

 それどころか……逆だった。

 噴水のような出血がいつの間にやら止まっており、傷口までもが塞がり始めていたのだ。

 見れば、その傷口に黄金の粒子が集まっていた。

 その瞬間、ニニギノミコトは理解した。天沼矛の残滓が、主の失われた生命力を補おうとしているのだ。


「む、娘よ……これは、そなたの仕業なのか?」


 今度こそ信じられないといった顔で問う。

 しかし、このような芸当ができるのは霊を操る倶久理以外に考えられないのもまた事実。

 倶久理は肯定も否定もしなかった。

 というのも、彼女もまた奇跡のような光景を前に目を丸くしていたのだ。

 見れば、倶久理の視線はニニギノミコトを離れ、彼の背後に向けられていた。それに気付いたスクナヒコナが驚きの声を上げた。


「あ、あなたは──!」


 もしや、という予感があった。

 先ほど自分が発射し、周囲に霧散した天沼矛。その絶大なエネルギーの大半は、最終的にどこに行きついたのだろう?

 みずみずしい生命力に満ちあふれた霊的(・・)エネルギーの塊は、いったい何に──どのような霊に力を与えたのだろう?


『──はぁ』


 彼の死角にたたずむ何者か。

 馴染みのある気配を漂わせるそいつは、辛辣さを隠しもせずにため息をついた。


『ほんっと情けない男だねえ。あんた、どれだけあたしに世話を焼かせりゃ気が済むのさ?』


 それを聞いたニニギノミコトは、笑った。


「──は」


 短く一息。そして豪快に。


「ははははははははは!! ふははははははははっ!!」


 喉を震わすたびに傷口が痛むがどうでもいい。周りから怪訝(けげん)な目を向けられているがどうでもいい。

 彼はただ、嬉しかったのだ。


「ああ、ああ! 認めよう、そなたたちを! 認めよう、この世界を!」


 胸のつかえをまとめて笑い飛ばした後、ニニギノミコトは高らかに告げた。


「人よ! 荒神よ! この大王(おおきみ)が宣言する! この国を──そなたたちの未来を、ここに譲り渡そう!!」


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