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荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第八章 落ちよ雷、今こそ時は来たれりて
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第十三話 接点を求めて

 一方その頃。明は斗貴子を探して学園近くの住宅街に足を運んでいた。


「おい、本当にこっちで合っているのか?」


 静かな街路をしきりに見回しながら、先を歩く望美に問いかける。

 やけに自信満々な彼女に従ってここまで来たものの、探せど探せど斗貴子らしき人影は見つからない。当然ながらタケミカヅチの姿も。

 橿原市内をあてどもなく捜索することに比べればまだマシだが、こうも手ごたえがないとさすがに疑念が沸いてくる。


「そもそも、どうしてここが怪しいと思ったんだ? お前のことだからそれなりの根拠あってのことだと思うが……」


「それはもちろん。何を隠そう、電波が私を導いた」


「は?」


 目を点にする明に対し、望美はスマートフォンをびしっと掲げてみせた。


「木津池くん謹製、位置情報追跡アプリver1.1。これで璃月さんのプライバシーは丸裸」


「……お前、いつの間にそんなものを仕込んでいたんだ」


 眉をひそめて後ずさる明。望美は当然とでも言いたげに、


「つい最近。彼女も夜渚くんと同じくらい向こう見ずだから、念のために鈴を付けといた方がいいかなって」


「お前に遵法意識という概念はないのか」


「セクハラ三昧の夜渚くんにモラルを問われるとは思わなかった……」


「そんな『えっこいつ何様なの!?』みたいな顔でこっちを見るんじゃない」


 二人は互いに冷ややかな視線を交わし合った後、


「要はプライオリティの問題。ルールを守ることは大切だけど、時にはルールを破らなきゃ守れないものもあるから」


「ともすれば突っ走りがちな友人を助けるため、か。あいつも世話の焼ける女だ」


「……………………」


 望美は肯定とも否定ともつかぬ表情のまま、こちらをじっと見返した。やけに剣呑な視線に、明は少し動揺する。


「夜渚くんも他人のことは言えないと思う」


「なんだと?」


「私に言わせれば、夜渚くんと璃月さんは同じことをしてる。一人で何かを抱え込んで、抱えきれずに苦しんで、抑えきれずに暴走して、なのに誰にも相談しない。心当たり、あるでしょう?」


「いや……それは、うむ」


 鋭い指摘にたじろぐ明。またいつもの小言かと思ったが、今日の話はそれだけで終わらなかった。

 望美は数歩を踏み込み、挑むような目で明を見る。


「今までは気を遣って何も聞かなかったけど、この前みたいに戦いに支障が出るなら話は別。仲間の特攻を笑って見送れるほど私はロマンチストじゃない」


 目を閉じ、しばしの息継ぎを経て、


「だから、そろそろ教えて。夜渚くんの過去に何があったのかを」


 金色の瞳が神秘的な輝きをもって明を射止める。

 明はそこに秘められた意志の強さに圧倒され、言葉を放つことができなかった。

 時は夕刻、世界が西日に染め上げられる頃。長く伸びる望美の影は、あと一歩で明の足元に届きそうだ。

 しかし、その一歩を望美は詰めようとしない。その場に留まり、言葉を重ねるだけだ。


「初めて出会った日に夜渚くんは言ったよね。共同戦線を張ろう、って」


「ああ、しかと覚えている。忘れるわけがない」


 八十神(やそがみ)の襲撃に悩まされていた望美と、事件の取っ掛かりを探していた明。互いの目指すところが同じだと分かったあの瞬間から、二人はパートナーとなった。

 あれから数多くの戦いを経た今でもそれは変わらない。明にとって最も頼れる戦友は、望美を置いて他にいないのだ。


「だったら私の言いたいことも分かってるはず。本当に私を相棒だと思ってるのなら、独りよがりな秘密を抱えるのはやめて。勝手に壁を作らないで」


「わざわざ聞くほどのものではないかもしれんぞ? 他人が聞けば呆れるほどつまらない話かもしれん」


「それは夜渚くんが決めることじゃないし、重要かどうかなんて私にはどうでもいい。私が知りたいことは一つだけ」


 それは、と続け、一拍を置いて、


「──夜渚くんが私を信じてくれるのかってこと」


 望美はそこから一歩も動かない。

 これ以上近付くのは自分の役目ではないと。こちらを信じているのであれば、お前自身が行動で示せと言っているのだ。

 甘えも妥協も、誤魔化しすらも許さず、真正面から逃げ場のない選択を突き付けてくる。

 一見厳しい態度にも見えるが、裏を返せばその厳しさはこちらに向ける信頼の強さでもある。

 そして、明もまたその信頼をたやすく無下にするような男ではないと自負している。そのような腑抜けになりたくなかったからこそ、彼はこの町に帰ってきたのだ。


「……参ったな。これでは今まで意固地になっていた俺が馬鹿みたいじゃないか」


 次に動いたのは明の方だった。

 足は止まることなく前へと進む。

 望美の影を踏みしめて、彼女の前に拳を突き出した。あの日あの時のように。


「気付くのが遅い。夜渚くんは変なところでシャイボーイ」


 確かな手ごたえと共に、望美の拳ががつんと当たる。ぶつけられた部分がじわりと熱を持ったような気がした。


「礼を、言っておく。嬉しかった」


「……夜渚くん?」


「恥ずいから二度は言わん。それより行くぞ」


「行くって、どこに?」


「寄り道だ。この近くにお前の知りたかった過去と……俺のルーツがある」


 明の進む先、住宅街の外れには緑の小山が頭を覗かせている。

 大和三山の一つであり、明の戦いが始まった場所……耳成山(みみなしやま)だ。


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