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第十話 ハード・エンカウンター

 明は、戦慄する鼓動を必死に落ち着かせていた。

 白い霧に呑まれた時も、白の怪人に遭遇した時でさえも、これほどの衝撃を感じることは無かった。「そういうものだ」と割り切ることができた。

 だが、この穴だけは、あり得ない。

 あり得るはずが無い。


「……望美、今一度確認していいか?」


「何?」


「あそこに大きな横穴が見えるような気がするんだが……間違いないか?」


 間の抜けた質問だったが、望美は笑うこと無く答えてくれた。


「私にもそう見える。穴っていうか、石でできた(ほこら)……みたいな」


 望美が言い表した通り、穴の入り口は硬そうな岩石によって周りを囲まれていた。

 継ぎ目の無い、なめらかな一枚岩。まるで、巨大な岩をくり抜いて作ったようにも見える。

 穴の広さは、乗用車が余裕を持って通行できるほど。穴の形は縦長の三角形だ。

 自然物では、ない。明らかに人の手が加えられている。

 しかも、重機を要するレベルの高度な加工技術だ。


(何だこれは……警察は何をしていた!? いったい何をどうすれば、こんな代物(しろもの)を見落とせるというんだ!?)


 七年前のあの時、明は確かに県警の捜索活動を目にしていた。

 青い作業着を着た捜査員たちが、少なく見積もっても数十人規模で、耳成山の林の中に入っていく様子を。

 耳成山はそれほど広い山ではないし、山の地形も素直そのもの。迷うことなど不可能だ。

 だが、この祠は誰にも気付かれなかった。誰一人として、この場所に行きつくことはできなかった。

 知らず、身震いしていた。

 悪寒の理由は、"警察でも見つけられなかったから"ではない。

 "自分たちはあっさりと見つけてしまったから"だ。

 見えない糸に引き寄せられているかのような、薄気味の悪さ。

 体細胞のひとつひとつがざわめき、謎の(うず)きをうったえていた。


夜渚(よなぎ)くん、大丈夫?」


 耳元でささやく声が、内向きだった意識を浮上させた。

 気付けば、望美がすぐ傍まで来ていた。


「顔色、悪いけど……一人で歩ける?」


 望美は心配そうにこちらを見つめていた。

 明ほどではないが、彼女の顔にも陰りがうかがえる。二人揃って同種の不安を感じていたようだ。


「……すまない、もう大丈夫だ。こう見えて小心者でな」


 片手を上げて、心配無用といった具合に振った。

 冷や汗を(ぬぐ)うと、意気を奮わせ胸を張る。目線は揺るがず、祠の奥へと。


()に落ちんことは多いが、ともかく『怪しいものを見つけ出す』という目的は達成した。これは価値ある前進だ」


「せっかくだから、このまま中に入ってみる? さっきのこともあるし、疲れてるなら一旦帰ってもいいけど」


「言わずもがな進軍だ。君とて、ここまで来てお預けを食らいたくはないだろう」


 あの祠が事件に関係するものだとはっきり決まったわけでは無い。未発見の遺跡を偶然発見しただけ、という可能性もある。

 疑惑を確信へと昇華させるためには、さらに詳しく調べてみなければならない。


「……だが、その前に」


 明はその場を動かず、右手にある草むらに向かって、声を飛ばした。


「そこにいる奴、出てこい。隠れているつもりか知らんが、呼吸の音でバレバレだ」


「えっ……?」


 望美は半信半疑な様子で、草むらと明の顔を交互に見比べた。


「私には何も聞こえないけど……」


「試しに石でも投げてみるといい。おそらくイタチやタヌキより大きな奴が出てくるぞ」


 しかし、その試みが実行に移されるより前に、動きがあった。


「──勘のいい野郎だぜ。だが、そうこなくちゃな」


 緑のヴェールを割り裂くように、一人の男が姿を現す。

 だらしない着こなしの学ランに、嗜虐心を匂わせる笑み。

 屋上で出会った、あの男。黒鉄(くろがね)良太郎(りょうたろう)だった。


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