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追想編もしくは走馬燈編

 男爵家はリデルを中心に回り始めていた。


 さっそくリデルに家庭教師があてがわれ、教育が始まった。リデルは熱心に勉強に取り組んでいた。自分の授業がないときは兄の授業に混ぜてもらい、兄の隣に座って一緒に聞いていた。

 正妻は館に仕立て屋を呼び、リデルに着せる服を作らせた。平行して、先代奥方が仕舞っていた子供服を仕立て直した。リデルの部屋の衣装箪笥はすぐにあふれかえって、眉間にしわを寄せた執事に止められる事案が発生した。

 リデルは寂しいからと言って兄のベッドに潜り込み、一緒に眠ろうとした。ずっと一人で寝ていた兄は最初うーんうーんと悩んでいたが、上目遣いでうるうるした瞳で攻めてくる妹に陥落した。


 1ヶ月後、街の顔役と医者が訪れてリデルの状況を調べていった。幸せそうに笑うリデルを確認した顔役は、上機嫌で帰って行った。

 

 3ヶ月後、ご令嬢は物覚えが良すぎるので、何か持っているのではないかと家庭教師が男爵に告げたため、館に鑑定士が呼ばれた。


 鑑定士は結果を伝えた。


「お嬢様は、かなり高い魔法制御能力をお持ちです。将来、魔法関係を職業にしてもよいほどです。特に、治療回復関係の魔法に良い適性があるようです。医者を目指すのも良いかと思います。それと、これは鑑定士としての感触ですが、お嬢様は神の加護と豊穣を受けている気配があります。」


「気配ですか。あるともないとも、あいまいな表現ですな。」


「神の加護と豊穣の効果は本人の周囲にも影響を及ぼすものでして。これが強力な場合は往々にして悲劇になるのです。」


「悲劇?」


「加護と豊穣が強いと、何をしてもうまく行ってしまうのです。その状況に慣れてしまった周囲の人々は、本人が寿命で亡くなり効果が切れてしまうと、現実の問題に対応出来なくなって没落してしまうのです。これは実話です。

 お嬢様の場合は気配があるという程度ですから、ご家族の運気が少し上がると思っていただければよろしいでしょう。」


 男爵は、家族の運気が上がる程度でもそれはそれで結構なことだと思った。

それより重要な事は、リデルに医療関係の勉強と魔法治療の訓練をしておくと将来は医者になれるかもしれないということだった。王国において医者は不足しており、男女を問わず医者の地位は高かった。

 男爵はリデルに医療関係の家庭教師と魔法学の家庭教師を付けることにした。


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リデル7歳。兄ブロード12歳。

 リデルが館に来た当初、リデルは夜の独り寝は寂しいからといって兄のベッドに潜り込んできた。以来毎日ずっと兄と一緒に寝ていた。兄は妹がかわいいのでまあいいかと、特に問題と思わなかったのでそのまま現状維持していた。


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リデル8歳。兄ブロード13歳。

 家庭教師達から、お嬢様は王立学校初等部相当の学習は済んでしまったので中等部相当の勉強に進めるとよいでしょうと提言があった。リデルは、勉強で一日中拘束されているということもなく、まだまだ余裕がある様子だった。


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リデル9歳。兄ブロード14歳。

 ある日、リデルは父の執務室で男爵家領地であるハインライン地方の出納帳の検算を手伝っていた。リデルは実務の検算を任せて良いほどの能力を持っていた。

 リデルは出納帳のお金の流れから3つの予算変更で来年度の収益が増すだろうと父に言った。男爵はリデルが神の加護と豊穣を受けていることを思い出し、もしかしたらとも考え、多少は予算を動かしても問題はなかったことから試験的に実行してみた。

 このころになると、兄はさすがに妹と一緒に寝ているのはまずいかなと思い始めた。


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リデル10歳。兄ブロード15歳。

 リデルの提案で変えてみた予算配分の結果、男爵家領地の収入が実効3倍になっていた。今季、リデルが出してきた新しい事業案2つと既存事業での環境整備への重点予算配分案を男爵と代官、執事、経営担当補佐官職が協議した結果、案は実行に移されることになった。

 兄ブロードは王国騎士団に見習いとして入団することになった。騎士団見習いは寄宿舎住まいのため、ブロードは家を出た。リデルは兄ロスでしばらくふさぎ込んでいたが、週末に洗濯物を持って帰って来た兄に抱きつき、機嫌を直していた。

 当初、自分の味方に付けようと若干黒い考えで兄に接近したリデルではあったが、真っ直ぐ騎士道を目指す兄の姿勢に惹き付けられていった。


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リデル11歳。兄ブロード16歳。

 リデルは王立学校中等部と高等部相当の学習を完遂していた。家庭教師達は口をそろえて「ご令嬢は天才です。」と評価し、王国大学医療学部へ進学することを勧めてきた。さすがに11歳で大学は早過ぎるとの判断から、男爵は高度な専門の家庭教師を雇うことにした。


 リデルの提案で起こした新事業が大当たりして、この年の男爵家の収入は5倍になり、高い家庭教師料を支払う余裕ができたためでもあった。その裏には街の顔役と王城下平民協会の支援があったことは知られていない。

 ブロードは正規の騎士に昇格し、王国騎士団独身寮に入っていた。ちなみに、寮から自宅までは歩いて10分程度の距離である。あいかわらず週末には洗濯物を持って自宅へ帰っていた。兄の洗濯物を洗う使用人達に妹が混ざっていたことは秘密であった。

 今季のリデルの領地経営の提案で、領地周辺の土地の権利を買うことになった。


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リデル12歳。兄ブロード17歳。

 リデルの魔法の学習が終了した。リデルは治療魔法の最上位術式まで身に付けて、講師から免許皆伝をもらっていた。

 男爵家の領地収入は王国の男爵家の中でも最大級になっていた。これはリデルの功績であった。リデルがあまりに優秀なので、他家に盗られては大きな損失になると考えた男爵家一同はあの手この手で娘の存在を隠匿し始めた。


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リデル13歳。兄ブロード18歳。

 この年、 王都の北東50kmほどのところにある地下迷宮から全高15mの牛頭人馬型の魔獣が現れた。


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現在、ブロードの部屋にて。


 ブロードは治療魔法の指輪の説明をしてもらったはいいが、いろいろな疑問が浮かんできた。


「頭が吹き飛んでも3秒以内で治るって言うけど、それ何かで確かめたりしたのか?」


「顔役さんの知り合いにお肉屋さんがいるというのを聞きまして、お肉になる直前の豚さんで実験していただいたのです。お話では、治療に成功したそうですよ?」

「どうしてそこ疑問形なんだリデル。」


リデルの瞳が宙を泳いでいるのに気付いたブロードはもう少し突っ込んでみることにした。


「本当はですね。」

「本当は?」

「丁度良いというのか悪いというのか、顔役さんの部下でテッポーダマさんといわれる方がとても危険なお仕事に向かう事になって、もしもの事態に備えて指輪を持たせてあげたそうなのです。そうしたら本当にもしもの事態になってしまってですね。」

「で、どうしたんだ妹よ、続きを正直に話せ。」

「頭を落とされるというひどい事故に遭ったそうなのですが、左手の薬指に嵌めていた指輪が効いて無事に帰ってこられたそうなのです。」


 一応、人体実験には成功していたらしい。テッポーダマ氏が向かった仕事がなんなのか聞きたくはないぞとブロードは思った。


「その辺は聞かないというのがこの世界のルールなのです。」


 妹はときどき自分の心の声を読んでいるのではないかとブロードは思うのだが、

確証はなかった。


「使用上の注意ですけど、治療魔法が発動したとき指輪が割れたそうなので、次の緊急事態に備えて割れたらすぐに嵌め直してください。それと、他の指に全部嵌めても残り20個ありますから、胸とかどこか邪魔にならないところの素肌に5、6個接着していってください。あとそれから、脚の指に嵌めると歩きにくかったのでやめた方がいいです。」

「脚の指に嵌めてみたのか。」

「わたしの脚の指は聖域ですよ?」

「なんだそりゃ。まあいい。もし手を消し飛ばされてしまったらどうすればいいんだ。」

「たぶん指輪は地面に落ちるでしょうから拾い上げてください。」

「ふーん・・・?」

「いえ、指輪は食べ物じゃないので3秒にこだわらずゆっくり拾って大丈夫ですよ?」

「リデル、お前今、オレの心の声読んだだろ?」

「いえ、言外の思惑を読んだだけです。お兄さま、指輪を付けてあげますから左手を出してください。」

「後で自分で嵌めるからいい。」

「作ったわたしが嵌めるとおそらく愛情充填120%で効果3倍になるかもです!」


 そろそろ騎士団の集合場所へ行かねばならない時間が迫り、長々と喋っているわけにはいかないため、ブロードは折れた。リデルは差し出された左手の薬指へ指輪を嵌めると指の付け根に唇を付け、呪文を詠唱し始めた。


「リデル・ロックウッドの名において願う。我が作りし治療の指輪よ、汝の装着者が死に至る損傷を受けたとき速やかなる治療を施し、決して死に至らせしむ事なかれよ。我が愛する兄、ブロード・ロックウッドに神のご加護を分け与えたまえ。」


詠唱の途中からブロードの全身が薄い黄金色の光に包まれ、終了と共に消えた。

ブロードは、なんかこれは効くかもしれんと思った。


 やがて、ブロードは荷物をまとめると家人に別れの挨拶をし、すがるような目で見つめてきた妹をぎゅっと抱きしめて言った。

「いってきます。」

「いってらっしゃいませお兄さま。」


ブロードは魔獣退治の任務に出発した。

次は発動編です。

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