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接触編

3話構成にしました。

pixivにヒロイン13歳の作者による作者のためのイメージを投稿してます。

妹の言う3秒ルールはどこかおかしい で検索するとたぶん出てきます。(いろいろ制約ありそうなので直リンクしないことにしてます。ごめんください。)

 王都から北東へ50km離れた地下迷宮から全高15m、建物で言えば4階ほどもある大型の牛頭人馬型魔獣が現れ、王都方向へ進んでいるとの急報があった。王は直ちに対策本部を立ち上げ、王国騎士団の出撃を命じた。対策本部は補給路確保のため、冒険者協会および王城下平民協会に出動を要請した。


 王国騎士団の伝令者が出撃命令書を持って非番の騎士の招集に駆け回っていた。ひとりの伝令者がハインライン男爵家の館に駆け込んできたとき、王国騎士団に所属する18歳の長男、ブロード・ロックウッドはお茶を飲んでいた。彼は実家の男爵家で両親と13歳になる妹の4人で昼食を終えたばかりであった。


 ブロードは伝令者に敬礼を返し、自分の部屋へ駆け上がって出撃の準備を始めた。

ブロードがガチャガチャと鎧や手甲、遠征用具を低いテーブルへ並べていると、突然扉が開いて妹が突入してきた。


「お兄さま!これを持っていってください。」


 妹は、持ってきた小さな皮袋の中から硬貨大の輪っかのようなものを取り出すとテーブルの上にジャラジャラと中身を開けた。よく見ると、それは飾り気のない鉛色をした指輪で、丁度30個あった。


「これはなんだ?なんかの魔法道具か?」

「これは、いずれこんな事もあろうかと毎晩寝るまえにおにいさまを想う熱い気持ちをありったけ詰め込んで作っていた全自動で発動するタイプの最高速度かつ極大効果の治療魔法を封じた指輪なのです!」

「説明が長いぞ。短く頼む。」

「むう。おにいさまったら!短く言えば、治療の魔法の指輪を作ったのでお持ちください。です!」


 妹が両手を振り下ろして手を広げ、テーブルの前でさあ!という仕草をした。サラサラとした銀色の髪がはずんでる。かわいい。


「治療魔法の指輪か。どういう感じで作動するんだ?」

「それはですね、例えば腕が千切れたり、脚が反対方向にへし折られたり、あごが砕かれたりといった重傷を負った場合、自動で発動して完全に直してしまうのです。しかも3秒以内に!」

「それはすごいなぁ。」


 ブロードは半信半疑といった目で指輪を見つめた。

 妹は兄を見つめながらさらに続けた。


「それにですね、特に気を付けていただきたいことがあります!一つだけは絶対確実に左手の薬指に嵌めていて欲しいのです。」

「へえ、それはまたなぜだ?」

「左手の薬指といえば心臓に直結していると言われているところで、一説によると運命の赤い糸が結ばれている指だからなのです。」

「うーん、よく判らないが。」

「とにかく左手の薬指に嵌めていると、例えお兄さまの麗しい頭が吹き飛ばされたとしても治すことができるのです!」

「それ、普通に即死するだろ!死んだらどんな治療魔法でも生き返ることが出来ないというのは確認された事実だ。」


「あー、でもー、私の死んだお母様がー、食べ物は床に落ちても3秒以内に救出したなら大丈夫よっていってたし-。あ、ちゃんと洗って食べてたよ?」


 妹は何か勘違いしているとブロードは思った。


-----------------


 妹の名はリデルといい、ブロードの腹違いの妹である。リデルは父の男爵が小間使いの女性に手を出して生まれた娘で、誕生後間もなく親子共々館を追い出されていた。その後、二人は王城下の平民の町に住み、毎月男爵から送られてくる少額の生活費を糧に細々と暮らしていた。しかし、リデルが6歳のときに母親が病死してしまったため、父親の男爵に引き取られて来たのだった。


 リデルの母親が亡くなったと知らせが来たとき、父親の男爵は、一応は自分の娘であるし、それが孤児院送りになると世間体が悪くなると思われ、気は進まないながらも引き取ることに決めたのだった。

 男爵の正妻は、夫の昔の浮気の結果できた娘を引き取るのは気に入らなかった。正妻はその娘を無給の小間使いとして扱い、男爵家の娘としてまともに扱うつもりなどは一切無いと、夫と息子に言い渡していた。

 男爵夫人がそのような扱いをしたならば、使用人達も同じような態度を取らざるを得ないことになるのは目に見えていた。


 数日後、リデルを迎えに行って帰宅した男爵の顔色は悪かった。出迎えた家人が訝しむのをとりあえず無視し、夫人付きの使用人達を呼び寄せるとリデルを整えるように命じた。


「この子を風呂に入れて全身を洗った後散髪し、爪を切って新しい服を着せて居間へ通すように。」


さらに一言付け足した。

「この子を男爵令嬢として正当に扱え。不手際があってはならぬ。」


「あなた、それはいったいどういうことですか。なにがあったのです。」

正妻が男爵に詰め寄った。

「それは今から説明する。手の空いてる者は居間へ集まるように。」


 場所を居間に移し、正妻と息子、執事、メイド頭、手の空いた使用人を集めて男爵は語り始めた。


 3時間ほど前、男爵は娘のリデルが住んでいる平民街の長屋の前に馬車を止めていた。何事かと顔を出した住人達に娘を引き取りに来たと宣言し、長屋に入っていった。薄暗く、家具の少ない、がらんとした部屋の真ん中に女の子がポツンと座っていた。

 女の子の髪は伸ばし放題のようだった。服装は平民の男の子が着るようなもので、よれよれのシャツに袖先がすり切れた大きめの上着を引っかけ、下はズボンを穿いていた。長屋の外も中も見た目が貧しく暗い雰囲気だったが、不思議とゴミひとつ落ちていることはなく、掃除は行き届いているようだった。娘の方も一応清潔にしているようだった。

男爵は声をかけた。


「娘よ、私がお前の父だ。」

「わたしのとうちゃんは死んだとお母さんが言ってた。帰って、知らないおじさん!」


 娘から間髪入れず帰って来た言葉に男爵は一瞬ひるみ、少し考えてから話しを続けた。


「この通り死んではいないさ。まあ、死んだことになっているのだとしたら、お母さんはお前を傷付けまいとして嘘を言ったのだろう。かわいそうに、これからは私のところで貴族らしい生活が出来るのだ。一緒に来なさい。」


 娘は父と名乗る男の目をじっと見た。男爵からは娘の髪の毛が邪魔で目はよく見えなかった。館に着いたら誰かに髪を切らせようとか考えていると、娘の口から怒濤のごとく言葉がほとばしった。


「貴族らしい生活?いきなり貴族だとか言って連れて行ってもまともに育てるつもりなんかないくせに。どうせそのうち娘じゃなくただの奴隷扱いして虐待して自分たちの加虐志向を満足させるために殴ったり蹴ったり食事抜きとかいろいろひどいことして、なんとか大きくなってもせいりゃくけっこんのどうぐとしていやらしい大人のところによめにだしちゃうんでしょ。そんなんだったらわたしはずっとここにいるんだから、かえって。」


 娘は、最後の方では涙声になっていた。


「政略結婚とか、6歳の女の子が、なんてこというんだ。私はそんなことをするつもりはない。」

「うそつき!あんたの頭の中はそういうことでいっぱいじゃないの!」


 男爵は自分の頭の中を見透かされているんじゃないかと感じた。男爵がどう答えようか迷っていると、玄関の方から低くドスの効いた渋い声が聞こえてきた。


「おう、お取り込みのところ邪魔させてもらうぜ。いろいろ用意して待っていたんだ。」


 胸板の厚い初老の男が玄関から入ってきた。男の背後には、鎧を脱いだベテラン騎士のような全身筋肉太い系の男達が40人ほど整列していた。威圧感で長屋の屋根が落ちそうだった。

 男爵のお前は誰だという問いかけに、この街の顔役だと名乗った男が続けて言った。


「リデルさんを男爵家に引き取って育てるというのなら、正しく男爵令嬢として丁寧に扱うということを誓約書として書いていってもらおう。その上で、ひと月ごとに医者をやって調べさせてもらう。もしリデルさんが汚い服を着せられていたり、変に痩せていたり、怪我をしていたり、まさかとは思うが、身体にアザがひとつでも見つかったときには、相応の覚悟をしてもらうことになる。是非はないな?」


「あ、あんたは娘とどういう関係なんだ。これはわたしのむす・・・。」

「リデルさんが母親の病気を前にし、毎日頑張っていた。必死に生きる姿を見たこの辺りの連中は人の道という大事なものを教えてもらったんだ。オレもその一人だ。オレ達の恩人だ!それをいまさら現れた父親が連れて行くというんだ、対策は取らせてもらう。」

「6歳の子供がそんなにだいそれ・・・。」

「いや、少なくとも2年前にはウチのバクーチ担当のワケエモンって奴を論破して、やり方を修正させてくれたおかげで売り上げが3倍増ってことがあってな。・・・いやいや、これは余計なことだった。」


 街の顔役と名乗った男は、これが誓約書だサインしろと3枚の羊皮紙を差し出してきた。男爵は、男の発する重圧で娘を引き取らずに帰りたくなったが、男はその選択を許してくれそうになかった。男爵は誓約書にサインし、娘を連れて帰ってきた。


「---と言う訳なのだ。」

「なんですのそれ!何でそういうことになるのです!その顔役って男はあの娘のなんなのですか!」

「どうやらあの娘に大変な恩義を感じているらしいのだが、いまひとつ何なのかは判らなかった。以前から何かに付け世話をし、最近では、母を失って一人になった娘の食事を手配していたそうだ。」

「それはどなたからの情報なのです?」

「馬車の御者がワシを待っている間に長屋の者から聞いたということだ。その連中や辺りの者達もリデルの行く末を大層気にしているらしい。」


「旦那様。よろしいでしょうか。」


 執事が何かに気付いたかのように声をかけた。


「ん?なんだ。」

「その男は、おそらく王城下平民協会のマスターではないかと。あの組織は王城下の食料流通など生活物資のほぼ全てを握っておりますゆえ、敵対するのは避けるべきでしょう。」

「誓約書の通りに扱っておれば問題は無いはずだ。しかし、・・・頭が痛くなってきた。」


 それではあの娘を虐めたりできないじゃないかと息子は思った。父の浮気相手の娘を自分の母が疎ましく思うのはしょうが無いかもしれない。なんでそんな娘を引き取るのよ!とか夫婦喧嘩していたのを知っていた。父が、小間使いにでもしたら良かろうとか、なんか非道いことを言っていたのも聞いていた。そもそも悪いのは浮気した父なのに。

 しかし自分としては、6歳の女の子を虐めるというのは騎士を目指す男としてはあり得ない。息子、ブロード・ロックウッドは堂々としていようなどと考えていた。


 やがて、リデルが使用人に連れられ居間へ入ってきた。


 そのとき、男爵家一同に衝撃が走った。


 平民の男の子のような服を着ていたリデルは、淡い緋色の地に白いフリルの付いた服に着替えさせられていた。小間使いのような服は用意されていたが、令嬢に着せるまともなものが用意されていなかったので、衣装倉庫から先代奥方の子供時代の服を引っ張り出してきたものだった。


 伸び放題で顔を隠していた前髪は目の上で切り揃えられていた。

 輝く銀色の髪がはらりと流れ、きりっとした眉の下にキラキラと輝やく大きい眼があった。瞳は、空色の中央に白黄色のひまわりが咲いたようなアースカラーをしていた。

 平民街から連れて来られた6歳の少女は、教会堂の壁面や天井に描かれた聖なる天使や女神よりも美しかった。高窓から差し込んだ夕日がリデルを照らし、神々しささえ漂わせていた。

 

「私はリデル。6歳です。お母さんが死んでどうしようかと思っていました。お風呂に入れてくれてありがとうございます。新しい服を着せてくれてありがとうございます。でも私お腹が空きました。何でもいいです。なにか食べるものをいただけないでしょうか。」


 全員がリデルに見とれていた。お腹が空いたと聞いて我に返った執事と使用人達はすぐに厨房へ向かった。料理が運ばれると、リデルはおいしいおいしいと言って、とても嬉しそうに食べていた。


 男爵が迎えに来る前、リデルは顔役に知恵を一つ授けられていた。(入れ知恵とも言う。)

「いいか?男爵家に行ったらまず一人を味方に付けるんだ。お義母さんが一番いいが息子でもいい。そうすればリデルさんを守ってくれる人ができる。リデルさんのかわいさと賢さを武器にすれば負けっこない。あとは味方を増やしていけばいい。」

 リデルは食べながら男爵家の一人一人を観察した。


 父親の男爵は好意3割困惑7割、正妻は好意1割困惑7割敵意2割、兄は好意8割困惑2割、執事は好意6割仕事4割といったところかとリデルは判断した。兄を味方に付けよう、一番まともな人のようだとリデルは思った。


 男爵は、とうに亡くなった母が、もし孫娘が出来たら着せるのだと言っていた服をリデルが着ているのに気付いていた。先代から仕えている執事が今日のために用意していたものなのだろうか。優しかった母を思い出し、男爵は胸を押さえ込まれたように感じ、娘を小間使いにでもしようと考えていた自分が恥ずかしくなった。


 正妻も姑のことを思い出していた。面と向かって言わなかったものの、姑はせっかく孫娘ができたのに追い出されてしまったと影で漏らしていたのだ。別に姑と対立していたわけでもなく、むしろ良好な関係だっただけに、正妻の胸には溶けないつららのように刺さっていたことだった。ああ、これはもしかしたら刺さったものを溶かしてくれるひとつの切っ掛けになるのかもしれないと正妻は思った。


 執事は、リデルが先代の奥方と同じ髪色と目を持っていることに気が付いていた。奥方は先々代の長女で、執事は彼女が幼いときからずっと側に仕えていた。執事の目には、リデルが古く懐かしい景色に重なって見えた。彼は若かった主人と自分の青春時代を振り返る機会が増えるような予感を持っていた。


 兄になったブロードは、やってきた妹がかわいいので素直に喜んでいた。なんか嬉しそうに食べているなーとヌルく見守っていたところへ、食事を終えたリデルが駆け寄ってきた。


 「お兄さまですね?わたし貴族の生活とか全然判りませんので教えてください!かっこいいお兄さまに教えていただいたならきっと素敵な淑女になれると思います!」

 目をキラキラさせて見上げてくるというかグイグイくる妹にブロードはたじろいでいた。


 その日、男爵家の者は全員墜ちた。

次は追想編(もしくは走馬燈編)です。

次の次は発動編です。

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