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第二回 ブキの種類のエトセトラ

 ここはとある県のとある街。その繁華街の一つのビルの屋上。簡素なプレハブ小屋に、そのゲーマー妖怪はいた。

「どうも、パッション郷です。本日は晴天なり」

「曇天ですよー」

「外見てないですからねっ」

「なんでーちょっとキレ気味なんですかー?」

「キレてません」

 などと下手な漫才をするのが、白貌黒衣のゲーマー妖怪のパッション郷とその従者の妖怪シシデバルである。今日は曇天の中、お部屋に引きこもってレッツ拷問していた。椅子に括り付けた、名も名乗らないので某と呼称するが、その周りに、パッション郷とシシデバルは揃って居る状態だ。某は物理的にも妖力的にも縛られており、目隠しもされ、全く身動きは出来ない状態だ。既に半日ほどこの状態ではあるが、相手はシシデバルのそれなりに気合の入った蹴りで死ぬことはなかったので、間違いなく妖怪であり、つまり人権はない。妖怪権はそもそも顧みられない。そもそも襲撃されたのだから、人権だってないのである。

 パッション郷が、いつもの柔らかい口調で、先ほどから繰り返している問いをする。

「で、誰に頼まれたのですか?」

「……」

「だんまりですか。いいでしょう。で、誰に頼まれたのですか?」

「……」

「だんまりですか。いいでしょう。で、誰に頼まれたのですか?」

「……」

「だんまりですか。いいでしょう。で、誰に頼まれたのですか?」

「……」

「だんまりですか。いいでしょう。で、誰に頼まれたのですか?」

「……」

 四半日ほど、この形のやり取りしか行われていない。毛の一つも動かせないような拘束で、この単調なやり取りを延々と。相手の精神を殺しにかかっているのだ。

 と、そこでシシデバルがおずおずと口を開く

「おひい様ー。そろそろそのパターン止めましょうよー」

「何故です、シシデバル。効果が見えていないのですよ?」

「見えてないもなにもーそもそもこいつー、さっきから気絶してますよー?」

 言う通り、その妖怪は完全に失神している。泡を吹いてもいる。

「いつからですか?」

「10分程前からですー」

「……シシデバル?」

 パッション郷の瞳の色が、責めるそれになっているが、シシデバルは動じない。

「今さっきからですねー、はいー。なんならわちきが言う1秒前からですねー」

 けろっと虚偽を言う。それで収まるならそれでいいのだー、と言わんばかりである。その辺の機微は当然パッション郷にも伝わっているが、そうするよう圧をかけた手前、それを否定する訳にもいかず、若干もやもやしたものを持ってしまう。

 それより、気絶した某だ。

「起こしますかー?」

「当然です」

 承知とばかりに、シシデバルはピシャンピシャンと某の頬にビンタを送る。

 1、2、3、4、5、6、7、8。

 2、2、3、4、5、6、7、8。

「叩き過ぎです」

「いやー、こいつ起きやがらねえんですよー」

「うーん、ん? んーっ!」

 そう言ったら起きた。某は頬の理不尽な痛みに苦悶しだしたが、覚醒はしたようである。

「どうしますかー、おひい様ー。流石にさっきの続きは芸がないですよー?」

「別に芸ではないのですから、問題ないと思うのですけれどもね」

 しかし、同じことをしていても、進展はなさそうである。今はだいぶ精神が参っているが、そこどまりだ。シシデバルの言う通り、ここは手筋を変えるべきか。

 そう判断したパッション郷は、某の目を覗き込む。すべてを見透かすように。そして、薄く笑んでから、語り掛ける。

「これから、あなたにお話しをします」

「……」

「答えなくてもいい。ただ聞いていなさい。しかし、熱心に。でなければ、どうなるかは保証しません」

「ということはー?」

「そういうことです。語りましょう、『スプラトゥーン2』を」

 そういうことになった。


 某は何が起きているのかいまいち判然としてないようだが、久方ぶりに解放された視界に、ホワイトボードが大きく映る状態にあるのだけは理解した。

(何をされるんだ?)

 先ほどから精神に去来するタイプの拷問一辺倒だったので、これもその一環ではあろうが、しかし『スプラトゥーン2』の話と言われても。

 やたらノリよく、ブキ・ブキブキ、などと板書しだすパッション郷。某の横で妖力的に拘束をしているシシデバルも、やんや、やんやだ。

「聞きたい所ではありますが、あなたが答えてくれそうにないから、特に問わないまま進めます。『スプラトゥーン2』は既に発売から二年以上が経過しましたが、まだまだ今からでも入れる作品だ、という主張を、あなたに叩きつけます。覚悟してください」

 パッション郷の無茶苦茶な発言に、某は混乱する。そして先ほどと同じ思考に至る。

(何をされるんだ?)

 その色は、先ほどのものより更に困惑のそれになっている。訳が分からないことだけが分かるという、悪夢的状況だ。

 そんな某の怯えを含んだ困惑をよそに、パッション郷はカカッと板書する。そして言う。

「ブキについて。これですね、まずは」

「……」

 某は沈黙を貫く。内心では混乱に拍車がかかっている。

(『スプラトゥーン2』の話を、されている? これがどう拷問に?)

 そういう混乱を織り込み済みのように、パッション郷は続ける。

「まず、『スプラトゥーン2』はTPS、サードパーソンシューティングですが、その特徴は、インクで戦う、というところです。インクですから、当然塗る事が出来る。この塗る、という動詞がこのゲームを凡百のそれらと一線を画すのです」

「……」

 某は沈黙。目隠しが取られた顔は、女性型のそれだが、その表情は混乱しているのがよく分かる。

「この塗るという行為は、このゲームでは必須行動です。塗った面積によって勝敗を決するだけではなく、自陣の色上ならインクや体力の回復、移動速度向上などの恩恵が、敵陣の色上なら移動速度の激減にダメージまでくらいます。塗らなければまともに攻められないのです」

「……」

 某は沈黙。まだ混乱しているようだ。それをとくとくとしたパッション郷は、決めるように言う。

「斯様に塗るゲームの『スプラトゥーン2』ですが、その塗るための手段、ブキは多岐にわたります。ここについて今回は語っていきたいと思います」


 パッション郷はカカッとホワイトボードに板書する。

 覚えておきたいブキ種9つ! とそこには書かれ、その下につらつらとブキ種が書かれていく。そしてそれについて語りだす。

「まず<シューター>。これは銃型のブキで、その射撃でインクを塗るものです。一番バリエーションが多く、その性能は多岐にわたります。癖のないものから射程が長いもの、あるいは塗る方が強いものまで、多種多様です。ですが、比較的素直な性能のブキも多いので、塗る行為に慣れていくのにはうってつけです」

 板書される。

 <シューター>。基本的な射撃型武器。種類は多く性能もピンキリだが、ゲームの基本に入りやすいブキが多い。

 某は沈黙したままだが、徐々に状況が呑み込めてきたようで、逆に混乱し始めていた。

(えっ? 本当に語るだけ?)

 その心を知ってか知らずか、パッション郷は続ける。

「つぎは<ローラー>。コロコロみたいなブキで、歩きつつ塗り続けられるのがポイントです。そのままではいい的ですが、振ることによって少し遠くに攻撃も出来ます。横と縦に振り分け可能になりましたが、どちらも威力も高く、相手をすぐに倒せるが利点ですね」

 <ローラー>。コロコロ。塗りながら歩ける。振ることも出来る。威力が高い。

 板書して、パッション郷は続けていく。某は沈黙したままだ。内心はパッション郷の早口ゲーム語りに困惑している。

「<チャージャー>。これはTPSならスナイパー系、つまり狙撃ブキです。名の通り、チャージをしてから撃つ、というワンアクションが必要なのが特徴です。総じて長射程高威力。ただ扱いが難しいものも多いですね。塗る能力も低めなのも難点です」

 <チャージャー>。狙撃ブキ。射程が長いのとチャージが要るのがポイント。塗りが苦手。

 板書して、パッション郷は進めていく。某は沈黙したままだ。そろそろ理解の様子が出てきて、

(本当に語るだけかよ!?)

 となり、それはそれでパッション郷のヤバさを感じ、沈黙するしかないのだ。

「<ブラスター>。一応<シューター>の派生ですが、爆発するインク弾を出すのが特徴。<シューター>と違い、連射力に難はあるものの、破壊力が高いですね。飛び散るインクにも攻撃判定があるので、物陰の相手も狙いやすい点も特徴です。塗りは若干弱めですね」

 <ブラスター>。爆発する弾が特徴。高威力。破片にもダメージあり。塗り弱め。

 板書して次に。

「<フデ>。<ローラー>の亜種ですね。特徴は塗り移動の素早さと、塗り時の範囲の広さです。塗る能力と移動能力には長けていますが、破壊力に関しては低く、また塗る時のボタン連打が辛いです。パブロ筋という言葉もある程ですから、如何に塗るのが大変か」

 <フデ>。塗り移動が速い。塗り=攻撃範囲は広いが、連打が辛い。威力も低い。

 板書して、パッション郷は某の様子を見る。何をされているか分かるが、何故そうしているか分からないという顔である。さもありなん、とパッション郷は続ける。

「<スロッシャー>。バケツですね。インクをぶちまけるブキです。攻撃力は高めで、塗る能力もわりとあり、それと高さによる威力減衰が掛かりづらいのが特徴です。上の相手などに当ててダメージを取りやすい、ということですね。ただ連射力は弱めなので、上手く当てないといけません」

 <スロッシャー>。高威力で高さに強い。そこそこ塗れるが、連射力がいまいち。

 板書して、某に尋ねるパッション郷。

「ここまでで分からなかったことはありますか?」

「……」

 某は沈黙を保つ。表情からして、言いたいことはあるようではあるが、それを口に出すと、芋づる式にやられる、という懸念も同時に持っている。

(今口を開くと、何をされるか……)

 パッション郷の妖力は、その作る妖具と同じで何をするか分からない。しかし、発動すれば効果は致命的だ。この何気ないゲームの説明にも、十重二十重と妖力を織り交ぜている。迂闊に口を開く訳にはいかない。

 沈黙を解かないことは予め分かっていただろうパッション郷は、

「分かっていると解釈して、続けましょうか」

 と言い、続きをし始める。

「ここからが、『スプラトゥーン2』で追加されたブキ種です。先ほども言っていましたが、改めて」

「んー!?」

 某がいきなり反応しかける。言いたいことがある、という雰囲気だが、迂闊に口を開けないと分かっているので、悶絶するしかない状態になっているのだ。

 パッション郷は薄く笑い、そして、板書する。

「<マニューバー>。二丁拳銃みたいなブキですね。射程は長くはない物が多いですが、連射力と高速移動&射撃のスライドが使えるので、切り込んでいくタイプの使い方が出来るブキです。スライドを使いこなせると段違いに強くなります」

 <マニューバー>。連射力が光る。スライドによって強引な立ち回わりも可能。

「最後です。<シェルター>。傘を開くことで、相手の攻撃を防ぐことができるブキです。射撃武器としては倒すのも塗るのも微妙なところですが、対面での強さはかなりのもの。長射程系に軒並み弱い点がネックですが、それ以外ならかなり喰えるブキですね」

<シェルター>。傘で防ぐ。射程や連射力が微妙。それでも近距離なら無類の強さ。

 板書が一通り終わり、さて、とパッション郷は言う。

「これが、『スプラトゥーン2』の全ブキ種になります。ちょっと詰め込み過ぎましたが、理解出来ましたか?」

「異議ありぃ!」

 某が口を開いた。開いてしまった。が、出た言葉は戻らない。ついでにテンションも戻らない。

「<スピナー>をお忘れではないですかってんだ! 長射程と高速射撃の合わせ技! 固定砲台もいいけれど、歩ける砲台もどうですか! 歩けて塗れて尚且つ長い! そういういいとこどりな<スピナー>種を忘れるなよ!」

「でもー、溜め時間とかインク管理が面倒ですしー、近距離困る場合多いじゃないですかー?」

「かーっ! これだから<シューター>厨はっ! 近距離なんてところにうかうか行く思考しかしないっ! <スピナー>が前に行くって思考していいのは<スプラスピナー>担いだだけだってんだよっ!」

「後、<チャージャー>も苦手ですよね?」

「あ、それはその、うう……」

「なんでいきなり舌鋒が鈍くなりますかねー?」

「シシデバル。これはあれです。長い物には巻かれろ」

「ああー」

 妙な納得をされたことに質疑応答したいところだが、某は自分の失態に悔いていた。しかし、ある種の爽快感もあった。いきなり自分の愛好するブキ種をハブられたのだ。それについて口を開かない訳にはいかない。たぶん徒然草あたりにそういうネタがあるはずだ。それくらい普遍的な、それゆえに絶対的な理屈である。

 などと、気の迷いをし始めたところで、パッション郷が薄く笑って言う。

「何か警戒しているみたいですけれど、それなら口を開いた時点でもう無意味ですよ?」

「むぐぐ……」

 どうやら某の予想は当たっていたようだ。漂う妖気の質が変わってきている。つまり、某に情報を吐かせるように、だ。

「ここはだんまりしないと、ってうわ、喋ってる!」

「さて、キリキリ情報を出してもらいましょうか」

 パッション郷は、本人はにこやかと思っている、しかし凶悪な笑みを浮かべた。

また方向性が迷路の中書いてます。いつも通りですが、もう少し展望が開けているので、なんとかなるなる。なるなるなるね。

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