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第1回 まずは軽く変更点について

 ここはとある県のとある街、その繁華街の中にあるビルの、最上階。

 とはいえ、特にセレブリティな場所ではなく、雑居ビルの屋上のプレハブ小屋である。

 中は黒い暗幕で覆われ、一見では見通せない。ただ、薄らと灯りはついているのだけは分かる。

 入ってみれば、中は整然としている。片付いている、というよりは整理しきられている、というべき、かっちりとした佇まいだ。

 そんな中に、ゲーマー妖怪、パッション郷とその従者の妖怪であるシシデバルがいた。

 パッション郷は見た目は儚さすら漂う白貌だ。肌も、髪も、白の系統。しかし、その見た目を黒衣で塗りつぶしている。白と黒、対極の色で印象をつくっているのだ。儚さと主張の強さが共存、というよりは同時に発露している感じである。

 対してシシデバルは快活さを感じる雰囲気だ。いい意味で生命感に溢れている。短めの髪と日焼けした肌が目を引く。服装も特に目立つ部分はないが、快活さを感じさせる。だが、表情が胡散臭い笑みであり、あまりに胡散臭いので仮初だと一見して分かるくらいである。

 それはさておき。

 パッション郷は安楽椅子に座ってゲームをしている。シシデバルは、その横に傅いている。よく見てみれば、室内には多数のモニターやゲーム機が、やはり整然過ぎるくらいにきちんと、配置されている。パソコンも設置されているし、当然Wi-Fiも通っている。言ってみればこのプレハブ小屋は、パッション郷が持つゲーム部屋、ある意味ゲーマー妖怪としての拠点なのである。

 ひとしきりプレイを終えたパッション郷が、安楽椅子を回転させて虚空に言う。

「ということで、今回は私がこのシリーズを引っ張っていくことになりました。パッション郷です。今回のシリーズは、わりと今更、だけどやっとこ状態が固まったということで、<スプラトゥーン2>についてお話していこうかと思います。

 で」

「何がー、でー、なのか分かりませんよー、おひい様ー」

 仮の笑顔でにへらにへらとしながら間延びした言い方をするシシデバルに、パッション郷はきりっと顔を引き締めて言う。

「そこは私とあなたの関係性でしょう、シシデバル」

「主人と従者以上の関係性が要りそうな案件ですねー」

「そうですか。分からないというなら仕方ありません。敢えて言いましょう。<スプラトゥーン2>についての話、何からしたらいいでしょうか?」

 カクン。とシシデバルは体勢を崩す。そして情けなさそうに言う。

「見切り発車ですかー?」

 パッション郷は首肯。

「急に話をふられましたからね、この話。一応、ネタ自体は色々とありますが、どれが初手にいいのかというのが今一判然としないのですよ。玄人目線してしまいますからね。ということで、シシデバル。素人目線を」

「<スプラトゥーン2>ならわちきもしていますからー、全然素人目じゃないですよー?」

「……計画がとん挫しましたね」

 またカクン。

「まだ1分経ってないくらいですよー? もう少し粘りましょー?」

 シシデバルの進言に、むう、と返すパッション郷。

「しかし、今回はどうしたらいいのかが分かりません。このゲームの基本についてだと二番煎じというか、既に前作<スプラトゥーン>の話は奴がやっていますしね」

「サティスファクション都様がやってましたねー、そう言えばー。しかしー、<スプラトゥーン2>にはいろいろ変更点がありますー。そこをさくっと語っちゃえばいいんじゃないですかー?」

「穏当過ぎではないですか?」

 パッション郷は困惑に色をほんのりと表情に。それに、とりあえずの笑顔のシシデバルは進言をする。

「この国一の穏健派だった頃があるーおひい様の発言とは思えませんー。むしろー変更点をきっちり語ってこそのーおひい様ですよー」

「それもそうですね」

 とあっさりそれに乗るパッション郷。では、と話し始める

「ここはまず基本的な変更点をさらっとやっていきましょうか」

「ではー」

 そういうとシシデバルは常設のホワイトボードにカカッと記入する。

 第一回『まず、変更点!』

 と。


「では、まずは一番の肝であるブキ種の追加の話から」

 ブキ種、増加! と、シシデバルは板書する。

「ブキ自体も色々と種類が増えましたが、やはりブキ種の増加こそ<スプラトゥーン2>の大きな変更点でしょう」

「何が増えたんでしたっけー。二種くらいあったように記憶していますがー」

「<マニューバー>と<シェルター>です。<マニューバー>は最初から、<シェルター>は後のアップデートで追加ですね」

「既存ブキとの違いはーどういうものですかー?」

「簡単に言うと、<マニューバー>は二丁拳銃で、スライドという機能がついている。<シェルター>は傘を開いて相手の攻撃を防ぐ機能が付いている、ですね」

「どっちも<スプラトゥーン2>での新種らしくー、今までにない能力ですねー」

「<マニューバー>のスライドは、高速移動し、着地点で集中射撃、というものです。通常射撃は射程は短めですが、連射力が高い点、特にスライド後が、他の武器と違いますね」

「<シェルター>はどうですかー?」

「相手の攻撃をある程度防ぐ、というこのゲームでは珍しい能力です。攻撃自体はショットガンのようであり、あまり遠くに強くないですが、守りつつ戦える、というだけで大体の相手にはかなり優位に立てますね」

「ではー、ぶっちゃけ強いですかー」

 いきなり核心にくるシシデバル。だがパッション郷も慣れたもので、さらっと返す。

「<シェルター>は対面で強さが光ますね。とくに<パラシェルター>はサブとスペシャルが塗りに強く、メインの塗り性能の微妙さを補いますので、相当に使いやすいです。傘はある程度攻撃を食らうと壊れたり、開き続けていると射出してしまうなど、癖があるので技術介入度が大きい点と、射撃で塗る感覚が味わいにくい点以外にお勧めしない理由は無いですね」

「<マニューバー>の方はーどうですかー?」

 パッション郷は、これもさらりと。

「射程にやや難があるものが多いですが、スライドで相手の攻撃をかわしつつ当てる、というが出来るので、そこは補えていますね。塗りの方は範囲は狭くとも連射力があるので、他のブキより素早く塗れる場面も多いです。射程面をスライドやサブでカバーすることに慣れれば、これも強い部類です。ややテクニックが必要で、それが他のブキのそれよりも毛色が違う、といったところですね」

 シシデバルが板書してまとめる。

「つまりー、どちらもテクニックが他の武器とは違うけどー、ゆえに強みがあるー、てな具合ですかー?」

「新作で出るブキというのは大体アッパーめで作られるものですが、何度もシステムを更新しても強みが残っていますから、それだけ根幹のネタが強かった、というべきでしょう」

「ぶっちゃけースライドとか相手インクのところから一瞬で逃げられるー、というのは強過ぎますよねー」

「ぶっちゃけるんじゃありません。おかみが見ていますよ?」

「偶におひい様は変なボケをするから困りますよー」

 あっはっは。

 あっはっは。

 二人は不穏に笑う。

 

「では、続きを行きましょう。とはいえ、変更点は細かいのなら多いですが、大まかにすると結構少ないような」

「そうですねー。ブキ絡みならサブウェポンの変化増加ー、スペシャル全とっかえにギアパワーの変更もですけどー、それを微に入り細を穿つと時間がかかり過ぎますねー」

「ステージの方も新しいのもありますし、前作からマイナーチェンジしたのもあります。この辺も話すとなると長くなってしまいますね。新要素は新要素でありますし」

 ではー、とシシデバルが板書しながら提案する。

「どれも少しやりましょうー。それら一つにつき二、三点上げてー、こういうのがあるよー程度にー。詳しい話は追々出た時にでもー」

 パッション郷はそれを受諾して、語りだす。

「では、まずサブウェポンについて」

 シシデバルが1、2と予め板書する。

 それを確認して、パッション郷は話を始める。

「一つ目。まず<チェイスボム>がなくなりました。代わりのように地面を滑って壁で反射する<カーリングボム>やロボットが探知、追尾していく<ロボットボム>が追加されました。どちらも癖が強いです」

 シシデバルが板書する。内容を確認しつつ、次に進む。

「二つ目。相手にぶつけないと効果が無かった類の性能が変化しました。<ポイントセンサー>と<ポイズンミスト>がそれですね。<スプラトゥーン2>からは、落ちた場所から範囲にしばらくの間、そのサブの効果が出るようになりました。より相手を遠ざける能力が上がったと言うべきでしょうね。サブウェポンに対してはもっと細かい点はありますが、それはさておきましょう」

 パッション郷は板書を確認して、次に進む。

「次に、能力を向上させるギアパワー。

 一つに攻撃及び防御アップがなくなりました。攻撃アップの方は、メイン性能アップで確定数、つまり何発当てたら倒せるという部分の調整が残りましたが、防御はなくなったので、そこへのメタがなくなったと言うべきでしょうね」

 シシデバルは板書に集中している。パッション郷も話すことに集中する。

「二つ目。安全靴がメインギアパワーの地位から陥落しました。前作まではメイン限定でしたが、2からは普通にサブギアパワーでもつくように。その分、性能は落ちました。以前の安全靴の性能が良過ぎたというべきでしょうけれども」

 安全靴陥落た! と板書されるのを確認しつつ、パッション郷は続ける。

「三つ目に、新しいタイプのギアパワーが追加されました。これについては結構量があるので、ここでは詳しく触れませんが、とりあえず対物攻撃力アップは使う場面が多いので覚えておくといいでしょう」

 そこまで言うと、パッション郷は既に空いているアルミ缶の中の飲み物をごくりと。ごくりと。そしてふはーっ、と一息入れると続けて話始める。

「スペシャルについては、長くなりすぎるのであえて一つ。

 <スプラトゥーン>から全とっかえだ、とだけ。そのおかげで、バトルの方はかなり様変わりしました。出し得なものから考えて使わないといけないもの、操作簡便なものから相当のテクニックがいるものまで。その辺は前作と大きくプレイ感が変わりましたが、私としてはありの判定ですね」

 シシデバルは書く。パッション郷は朗々と。

「ステージについては、二つ。

 一つは、前作からある既存のステージはだいぶ様変わりしました。細かい物の配置から、今までなかったルートまで、色々と。

 二つ目として新規ステージは比較的狭い感じがある、でしょうか。前作のステージである<ショッツル鉱山>や<キンメダイ美術館>みたいな広い! となるステージが少ないですね。そこが良い悪いは個々人の判断ですが」

「おひい様はどっちなんですかー?」

「人の判断を鵜呑みにしても仕方がないですよ、シシデバル」

「成程ー、言いたくないんですねー」

 無視して進める。

「さて、他の変更点。ガチバトルに新たなルール<ガチアサリ>が入りましたし、ストーリーモードと<オクタエキスパッション>、新たな遊び<サーモンラン>もあります。UIの部分も変わりました。しかしそれらもまた長くなり過ぎるので、今回は割愛しましょう」

「となるとー、大体は話せたことになるわけですねー」

「とりあえず、今回はこんな感じでしょうね」


 さておき、とパッション郷は一つ区切りって言う。

「来ませんね、奴は」

「あのお方は基本きまぐれですからねー。偶に義理堅いことをするからー勘違いしますがー」

 そう取りなすシシデバルであるが、パッション郷は不満気である。それがもろに出て、基本、美な顔が醜悪に歪んでしまっている。

「おひい様ー、お顔がー」

「おっといけない」

 すぐに色素の薄い顔に戻るパッション郷。しかし、苛立ちはあるようで、安楽椅子をガツガツと揺らしている。

 流石に見かねたシシデバルが問う。

「おひい様にしては短気になってますがー、そんなに急を要する話なのですかー?」

「時期的にはまだなのですけれど、早いに越したことはない話です」

「というのはー、一体ー?」

 と、そこで、ドアをノックする音が。

「どなたですかー?」

「互助会の方から来ました」

「そうですかー。じゃあ、開いているんでそのままー入ってきてくださいー」

「そうですか……。では」

 扉が勢いよく開く。そして高速でパッション郷に飛来する一体あり。それはまさしくあっと言う間にパッション郷の隣まで辿り着き、パッション郷を

「ぬるい」

 刺そうとした腕がへし折られ、その折った勢いのまま飛来した凶手は空中で三回転し、落下地点にシシデバルの蹴り。

「よいしょー」

 慣性がバグっいるとしか言えない放物線を描き、何者かは扉の外へ。

「殺しましたか?」

「わちきたちは死なないでしょうー、おひい様ー」

「違いない」

 酷い目に遭いそうだったというのに、余裕を持って薄く笑むパッション郷。ついでに怖いことも言う。

「では、拷問しましょうか」

「普通にー質問からでもいいと思いますよー」

「ですね、質問で答えてくれるなら、あの液体を出す必要もないですね。そうですね」

「またそうやってー拷問したいアピールするー」

 と胡散臭い笑みをしながら言いつつも、シシデバルは抜かりなく行動する。部屋から出て、吹っ飛んで階段口で倒れ込んでいる何者かを確認して、油断なく接近。とりあえず起きているか確認する。

「ふむー、ちゃんと気絶していますねー。これで後詰めがいると楽しいですがー」

 シシデバルは、パッション郷にはあまり見せていない顔をする。つまり、本当の笑顔を。

「いないならいないでいい。いるやつで楽しませてもらうからな」

 それは言うなら酷薄という言葉が、擬音ならニマァというのが合う、恐ろしい笑みであった。

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