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隣の席は君  作者: 姫野 釉月
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☆隣の女子が気になる

☆→静くん視点です。



 授業のレクリエーションで、イヤになるほど自己紹介をさせられた。あの沈黙の中喋るのはやはり慣れない。しかし、その中で自分の中で楽しみな瞬間がある。


「清水まちです。よろしくお願いします」


 隣の席の女子の自己紹介の時だ。

 高すぎず、低すぎず、聞き取りやすくて、第一印象の通り穏やかな雰囲気も合わさって、自然と顔を向けてしまう。


 相対している時は淡く微笑んでいるのだが、授業中に黒板を見ていたり、教師の話を聞いていたりする時は真顔になっている。

 彼女は大きく表情が変化しない。喜怒哀楽はよくわからないが、少なくとも驚いたときには瞬きが多くなるのが最近わかった。


 教室に入ったら、最近は彼女がいるかどうかを必ず確認してしまう。

 その日は一段と眠たい日だったようで、彼女は朝から珍しく欠伸をしていた。

 気だるげな様子で、動作がスローモーションだった。


「静くん! あたしも作ってみたの! 絶対美味しいから! いつも頑張ってるし、甘いもの食べて元気出して!」


 バスケ部に入り、朝練にも参加するようになってすぐに女子に囲まれるようになった。

 中学はもっとマシだったのに、高校になった途端に差し入れが増えて困る。風の噂によると、自分のファンクラブなるものが出来たと聞いた。意味がわからない。


「必要ない」


 朝練をして腹が空くのは早い。それは確かに感じるが、親しくない女子から送られたものを食べられるほど心は広くない。正直、朝からカップケーキを食べられる体質ではない。昼なら別だが。

 オレの言葉に差し入れた女子が固まるのはいつものことだが、それに一拍遅れて清水さんも「えっ?!」と反応するから思わず笑いそうになる。

 いつものことなのに、ルーティンワークのようにそんな反応をするから、こちらもどんな表情をしていいのか困る。その日は珍しく、困惑させる彼女に少しの仕返しのつもりで差し入れられた物を彼女の机にスライドさせた。


「───…はい、清水さん」


 ちょうど欠伸をしていたのでそのままでは気付かないと思い、一声掛けたら想像以上の反応が返ってきた。

 今まで聞いたことのない頓狂な声をあげて、そのまま固まった。あ、瞬きが多くなった。驚いてる。


「ちょっと! あんたのじゃないわよ!」


 差し入れた女子の剣幕にあたふたするでもなく、すぐさま怒っている女子に焦点を当てた彼女は少なからず戸惑ったのだろう。瞳が揺らいだのがわかったが、次の瞬間には片眉を顰めて相手を睨み返していた。

 初めて見た表情に驚く。同時に、なんだか得した気分を味わった。差し入れてくれた女子には悪いが、良いものが見れた。


 担任が来てHRが始まり、その場は事なきを得た。しかし、後から「静、お前、女子の名前初めて言ったんじゃね?」と山本に言われて過去を少し振り返る。


「英語の時は名前言ってるだろ」


「いや、プライベートでって意味。ちゃんと授業受けてんのか?みたいな眼差しやめて」


「……そう?」


「うん、そう」


「……クラスのメンバーの名前、覚えてるけど」


「さすが優等生! オレたちとは脳の作りが違うってか!」


「お前も覚えてるだろ」


「ええ。なんなら静様のファンクラブの可愛い子達も覚えてる」


 こいつ、『優等生!』と大きな声で叫びたかったからあえて言ったな。

 コロッと切り返してくるあたり、確信犯だと思う。


「山本」


「なんなら朝、差し入れてきた子のこと教えようか? もう、しょうがないなーこれだからモテる静様は…」


「うるさい」


「はい」


 黙らせることに成功し、少し溜飲が下がる。

 放課後、部活に向かう廊下で清水さんが音楽の日野原先生と話しているのを目にする。

 鍵を受け取り、礼を言った後、踵を返そうとする彼女を引き止めて日野原先生は彼女に何かを言った。

 言われたことに対してか、一瞬、本当に驚いた表情をして、それから嬉しそうに笑ったのがとても目に焼き付いた。

 あぁ、もっと間近で見れたらよかったのに。



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