表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の席は君  作者: 姫野 釉月
37/42

◆隣の静くんの所在

◆→まちさん視点



 海に行き、親戚のバイトを手伝い、夜に歌のレッスンを少々する。親戚は別に音痴ではないのだが、昔どっかの誰かに「あの叫び声お前か?」と嬉しくないお言葉をいただいてしまい、歌に対して苦手意識が出てきたのだとか。

 それを払拭させるために私の歌と一緒に合わせて歌って自信を持てるようにしたいというたっての願いで年に数回はこうしてお邪魔させてもらっている。

 今回は衣装を手掛けてくれるという私の都合でお客は一人増えたわけだが、一緒にバイトを手伝ってくれ、思わぬ臨時収入も入ったから満足、と言って帰っていただいた。あのスケッチブック、絶対落としてくれるなよ、と先輩相手に思ったのは絶対に言えない。

 私も次の日に帰り、墓参りにも行き、のんびり宿題をしながら家で過ごした。どうしても仲良くなれない数学と化学は後日、親友の梨花とすることにして一旦保留にしておくことにした。苦手なことには向き合いたくない怠惰な性格が休み後半に災いすることを毎度経験しているが懲りない。好きなことなら苦手な部分は粘ってでも頑張れるのだが、いかんせん、こういうことに関しては眠気も応援してくれるのでそれに甘えてしまうのだ。

 学生だからこそ貴重な長い休みをそれなりに楽しんで過ごす中で、部活で学校に行くことはある。体育館が盛り上がっている様子もたまに見かけ、そういえば運動部は夏の大会真っただ中だったか、と思い至る。


 ―――そういえば、静くんは選抜に決まったのか聞いてなかったな。


 自分だけちゃっかり彼からお祝いをもらってしまったのに、お返しもしていなければ彼に対して何もしていない。あの時はもらってしまったことにだいぶと静くんのファンクラブに対して罪悪感を抱いていたから中身を空けるのにもだいぶ時間が掛かってしまったけれど。正直、混乱していたのでそこまで考えが至らなかったと言える。中身がチョコではなくグミだったからそんな大事になることはなかったのがせめてもの救いだ。

 体育館の前まで出てきている他校の女子とこちらの高校の女子が視界に入ってしまって、きっと静くんなら選抜受かっただろうな、と日頃の輝きから予測する。運動部のことはよく知らないけど、あの土曜日にベンチではなかったことからきっと主戦力の一員なのだろうことは想像に難くない。


「……、」


 もらいっぱなしって、やっぱり気持ちわるいな。落ち着かないし、今、客観的に自分のことを振り返ったら胸がぞわっとした。お返しを考えるべきか。

 そう結論に至った時『きゃー!!』と黄色の悲鳴が体育館から聞こえた。

 そして思い出すのは朝の差し入れ隊と静くんのやり取り。渾身の想いを込めた一品をいつも断っているすげない彼―――果たして受け取ってくれるのか…。

 そこまで考えて、あることに気付く。


「あの時のケーキは食べてたな…」


 本当は梨花に一緒に食べられないからという謝罪とせめて腹の足しになればと願いを込めて作ったカップケーキ。思いが溢れたのか作りすぎてしまって『あげすぎは良くない』と父に窘められ、それならばとあげる先を分割するように静くんにあげたカップケーキ。ただ単に余ったからあげたのに、背景に花が咲き誇るような笑顔がこぼれていた彼を思い出す。―――眼福だった。

 渡すとしたらお弁当の後の方が受け取ってくれるかもしれない、と思ったのだが、今は長期休みである。しかもだいぶと時間が経っているお返しという名のお祝いだ。

 彼が夏の選抜隊に入っていると言っても、試合に勝っていなかったらそのお祝いも気まずい。


 ―――詰んだ。


 気付くのが遅すぎた。女子相手ならすぐにお返しを、といつもの私なら考えつくのに、一体何が起こったというのだろうか。性別が違うだけでこんな失態を犯すとは思わなかった。

 兄に対しては『まぁ、兄だしな…』で終えられるし、兄の親友であるあの人に対してはこんなこともない。


「とりあえず、日持ちするもので気を遣わないもの…用意しとこ」


 ガムとか、飴とか…苦手な味とかあるのだろうか。知らないけど、無難な味でいこう。そうしよう。

 感想とか別に求めないものだし、そもそも受け取るかも怪しい。受け取っても表情はそんなに変わらないだろう。『今更?』とか言われたら素直に謝ればそれでよし。自己満足と思われても私にはノーダメージである。私はすっきりしたい。

 またもや黄色い声に混じって『静様ー!!』と言う声も聞こえてしまった。あぁ、やっぱりいるんだ。

 他にも知らない名前が時折聞こえる中、『山本走れー!!』という声も聞こえる。聞き覚えのある響きだったけど同一人物かしら…。


「まっちゃーん、こっちー!」


「はーい!!」


 先輩たちは受験の講習もあるからか、いつも集合が早い。もう数人ほど揃っていて、慌てて駆け寄る。

 今日は合唱コンクールに向けての練習だ。


 ―――さぁ、気を引き締めつつ、楽しもう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ