☆隣の清水さんへ贈り物
☆→静くん視点です。
「あ、ちょうどいいところにいた。佐久間くん、清水さん選抜合格だから」
とある昼休み。バスケの昼練習が終わり、合唱部部長である神矢さんとはち合わせになり、軽く報告された。
清水さんの選抜、ということは文化祭の舞台選抜の件だろうか。詳しくはないのだが、あれだけの合唱部員の中から六人(一年は一人だけと聞いた)が選ばれるというのは結構ハードルが高いのではないのだろうか。どんな選抜の仕方かは、知らないが。
先日、彼女がどこかウキウキと譜面を捲っているのを見て、大体察していたのだが、彼女から知らされることがなかったので確証が持てていないところであった。
まさかその合唱部部長から知らされるとは夢にも思わなかったが、ありがたく情報を受け取る。
「そうなんですか。わざわざありがとうございます」
「その様子だと、彼女やっぱり言ってないんだね。言いふらさない子だとは思ってたけど…『彼氏彼女』っていうのはホントに嘘なんだ…」
「はい。最悪『知人』です」
「君も正直だね。あんなに練習見てもらってるのにうちの歌姫さんは…。なかなか手強いね?」
「仕方ないです。オレは見てるだけなんで」
「見て聞いてもらえることこそ歌い手は至福だけど。あの子もまだまだだ」
若いからこそ、だけどね。
学年は二つしか違わないのに、どこか達観した様子の神矢さんになんとなく分かるような分からないことを言われてしまった。
───たぶん、オレは下心があるからだろう。
神矢さんの言っていることは自分の求めている位置と一緒のようで違うのだと、隣の席で授業を受けている彼女を見て思う。
彼は歌い手としては彼女を近くで見てくれる人は貴重なのだと思ってああ言ってくれたのかもしれないが、自分は『近く』以上のことを求めている。
彼女は察しがいい。だから、素直に自分からの好意は受け取れない。そんな気がする。
まぁ、自分を傷つけないために、先輩なりに話題をずらした可能性もあるからここまで深く考えなくてもいいのだが。
「まち、改めてだけど」
「うん?」
「文化祭の選抜隊抜擢、おめでとう」
「わぁ、ありがとう!」
神矢さんから彼女の選抜合格を聞いて程なくした昼休み。教室に戻ると、彼女はよく一緒に居る女子から何かを受け取っていた。
そこでまた見た明るい笑顔が印象的で、とてつもなく相手の女子が羨ましかった。
彼女への信頼が本当に眩しく思えて、自分の現在の位置が凄くもどかしい。
あの笑顔が見れないものか…。
考えた末、その日の昼休み、親友にとある相談を持ちかけた。
「──女子って甘いものが好きって本当?」
「え、うん…落雁とかはちょっと違うみたいだけど」
「その発想はなかった」
林藤は神社の息子だからか、彼岸が近いからか、咄嗟に出てくるお菓子の系統が違うことに驚きである。
「まぁ、甘いものでもいっぱいあるから、手作りじゃなかったらいいんじゃない?」
自然と清水さんにあげることを想定されているのはやはり勘がいい。
「さすがに手作りは引かれるよな…」
「女子はいいけど、男子が手作りはね…。静ってスイーツ男子のイメージもなさそうだし、無難が一番じゃないかな」
以前に弁当を自分が作ってこようかと彼女に提案した時のあの表情を思い出す。
自分の体調や生活リズムを案じている言葉であったが、驚きの方が明らかに勝っていた。
『それは付き合ってる人にしてあげた方がいいと思う』
そして、冷静に付け加えられた言葉があれである。
弁当を一緒に食べる機会をもってしても彼女の自分への意識はそんなものである。
その対象が急に手作りを持ってきたら警戒されるのは目に見えている。
だから、林藤が言うように無難がいいのだろう。
「……三日後、また一緒に弁当食べるんだっけ?」
「うん」
「食後に渡してあげたら?」
なんで“どうやって渡そうかな”って思ってたのがバレたのだろう。
「天才か」
「顔みたらわかるよ」
「なんか林藤に言われると複雑だな」
「僕も思った。むさ苦しい感じで残念だよ」
そんな軽口を叩きあって、数日後───…。
清水さんの元に、また見慣れない人が突撃してきた。
どうやら、選抜隊というのはいろいろ引っ張りだこらしい。
それにしても、『人魚姫』とはいい例えである。
清水さんがウキウキと譜面を出し、歌い出すと同時に切ない表情に変化するものだから、選抜に受かったのか掴みあぐねていたのもそこに起因する。
イメージとしてもピッタリだと思った。
その後、彼女たちは衣装の話をしていたのだが、どうしても清水さんの水着姿とか人魚姫の姿だとか想像してしまう。
以前の土曜日に見た水色のスカートが頭を掠めたのも仕方ないことだ。
煩悩って、根強いな…。
弁当を食べる時に『海』の話題を引き継いでしまったのも夏休みに入ったら偶然会えないかなと思ったのもあるが、大体煩悩の思考だった。
絶対に彼女に言えない。
最後は不自然にならないように前もって準備していたお菓子を渡す。
「……デザート?」
「違う」
そこで“うん”と言ってもよかったな、と少し思ったが言ってしまったものは仕方がない。
彼女は瞬きをしつつ、こちらと手の中のお菓子を交互に見ている。やはりあの女子のように笑顔にはならない。それどころか、警戒心もほんの少し見えるようだ。
「なんで?」
「お祝い。合唱部選抜いけたって聞いたから」
「あ。…選抜のこと、静くんに言ったっけ」
「直接は聞いてないけど、いろんな筋から聞いた」
「ごめんなさい」
「別にいいよ」
殊勝に頭を下げられてしまった。もともと、彼女も心を許している人しか話していないのだろう。
そのことに気付いた時、本当に彼女との距離は縮まらない事実に愕然とする。
「選抜に決まっても決まらなくても、これまでとすることは変えないから」
「それは…」
ならばせめて、物理的距離はこのままでいられるように、と少しの願いも乗せて言ってみると彼女は何か言いたそうな表情をしていた。だが結局、「応援、ありがとうございます…」とか細く口にしたのだった。
やはり贈り物は気を遣わせただろうか…。
彼女の表情を見て、先程まで水着姿とか想像していた罰がここにきたんだな、と反省するに至った。




