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隣の席は君  作者: 姫野 釉月
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◆隣の男子は女子にモテる

◆まちさん視点



 私の隣の席には、美人さんがいる。美人さんと言っても、男子だ。ここ重要。

 その人の名前は佐久間(さくま)(しずか)。丸い黒髪に、切れ長の瞳。通った鼻筋と、健康的な白い肌。

 ルックス、容貌ともにイケメンの類に入る彼が同じクラスとあればお年頃の女子たちはそれはもう盛り上がるしかないわけで。

 彼が朝練から戻り、自分の席に来ると待っていましたとばかりにファンクラブが集い、貢ぎ物…もとい差し入れを手渡しにいらっしゃる。

 その時の様子がこちら。


「静くん! 今日もおつかれさま! これ、作ったから食べて食べて!!」


「必要ない」


 あまりにもざっくばらんに断るものだから、一番の部外者である私が「えっ?!」と面を上げたのも無理はないと思う。

 言われた女子は一瞬何を言われたのか思考が追い付かなくて僅かに口許をひきつらせていた。すかさず、周りの女子が「きゃー! やっぱりクール!!」と黄色い声を出したお陰でその場に険悪な空気は流れることなく事なきを得た。


 これが、毎日続くのだ。


 差し入れる女子こそ変わるものの、彼は一貫としてこの対応なので聞いているこちらの冷や汗が止まらない。

 いつ修羅場にならないかと、そしてそれがこちらに飛び火しないかとビクビクドキドキしている。


 それというのも、過去に一回巻き込まれたことがあるのだ。

 彼の人の手によって。


「静くん! あたしも作ってみたの! 絶対美味しいから! いつも頑張ってるし、甘いもの食べて元気出して!」


「必要ない。……清水さん、はい」


「はぅえっ?!」


 英語の宿題が終わって伸びをしているところでいきなり自分の机に差し入れを置かれると、誰が予想できますか。

 ちょうど欠伸も出かけていたのに驚愕の度合いが高すぎて中途半端に終わった変な顔を晒していたことはこの際、目を瞑ろう。

 問題は何故、彼女の差し入れをこちらに回したのか。これにつきる。

 いくら勝手に自分の机に差し入れを置かれたからって、隣の席にそのまま譲るってどういうことなの?!

 案の定、差し入れた彼女からはかなり鋭い眼差しで詰め寄られた。


「ちょっと! あんたのじゃないわよ!」


 知ってるよ! と言い返せる筈もなく。

 ただただその時の状況把握と彼女の剣幕にたじたじするしかなかった私です。

 渦中の彼はというと、席に座ってこちらを見つめているが、暢気に頬杖をついている。その姿勢、知ってる。我関せずの姿勢だ。物申したい、これはあなたが対応すべき案件です。

 え、本当にこの空気どうするの?! と思ったところで担任が来てホームルームが始まったのでこれも事なきを得た。(差し入れはちゃんと回収していってくれました。)

 それ以来、ちょっと周りの女子の視線が痛いのは気のせいだと思いたい…です。

 そんなふうに親友に私の心境を伝えると驚きの言葉が返ってきた。


「あぁ、それは…。佐久間の口から女子の名前が出たの、あんたが初めてだからよ」


「はい?」


「佐久間って女子の名前覚えないので有名だから。そこであんたの名前が出たらそりゃあ、女子からも睨まれるでしょうよ」


「え、それゼッタイ嘘。名前覚えてないとか。だって、あの人成績トップでしょう?!」


 この高校は、入って一週間もしない内に実力テストがある。結果は誰にも見られないように担任から各教科の彩点数と順位があり、一番右端に総合順位が書かれている細長い紙をもらう。いわゆる成績表(簡易バージョン)だが、皆は“いかそうめん”と呼んでいる。

 彼と同じ中学だった山本くんが、彼のいかそうめんを覗き見たようで「静、一位だってよ!」と言ったことで全ては明るみに出されて、皆の知ることになったわけだが。


 ようするに何が言いたいかというと、学年一位である彼の記憶力があればクラスの女子の名前ぐらい既に頭に入っているに決まってる。

 それで呼ばれた、呼ばれていないの問題で睨まれるなんて理不尽ではないだろうか。

 私の言わんとすることを正確に掴んだ親友は訳知り顔で頷いた。


「女子ってね、そんな単純じゃないのよ」


 それって私は女子になれてないってことですか。ねぇ。

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