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隣の席は君  作者: 姫野 釉月
24/42

☆隣の席の女子と神様

☆→静くん視点です。



 本日は風の噂で聞いた、席替えの日だという。

 宿題の存在は忘れるのに、そういう情報は決して忘れない山本がそう言ったので、かなりの信憑性がある。


 自分には、好きな人がいる。この三か月間、隣の席が好きな子であった。

 なのでこれは由々しき事態だと、いつもより切羽詰まったような気持ちで今日を迎えた。


 傍目からにはそんなふうに思っているとはつゆほども思われない表情をしているようで、朝早くに訪れた神社で掃除をしている親友の林藤に会ってもかなり訝し気な表情をされた。


「え、早すぎない、静?」


「ちょっと、お願いしとこうと思って」


「お願いって?」


「今日、結構重要な日なんだ」


 わかりやすく首を傾げた林藤に構わず、賽銭をいれて手を合わせる。


 (どうか、今日も奇跡が訪れますように)


 こういう神社では私利私欲にまみれた願いは適していない、と聞いたことがあるが、このぐらい許してほしい。学業成就や部活の勝利は自分で掴むから、どうかささやかな奇跡が起きますように―――。


 果たして、願いは届いた。

 彼女がゆっくりと席を移動していく後ろ姿を目で追って、自分も目的の場所へと歩を進める。

 彼女が荷物を置いた席は、自分の隣。


 さすがに歓喜が胸いっぱいに広がって、自分でも気持ち悪い顔をしているのだろうな、と感じたのですぐに席について顔を隠すように伏せた。

 でも、せっかく隣の席に慣れたのだ。一言ぐらい交わしておきたい。

 彼女はやっとこちらに視線を移して、予想通り何度か瞬きをした。


「清水さん、二度あることは三度あるって言葉、知ってる?」


「ぞ、存じ上げておりますが…」


「そう。じゃあ、よろしく」


 彼女から視線を感じることは普段はあまりないのだが、今回は結構長い時間見られている気がする。急いで顔を伏せたが、このにやけてどうしようもなく気持ちの悪い顔は見られただろう。ちょっと情けない自分を見せることになって、やっぱり声を掛けるのは後でもよかったかも、と少し後悔したのであった。


 SHRが終わったあたりでようやっと気持ちも比較的落ち着いてきて、彼女の方を見る。

 そこには、自分とは違ってどこか沈んだような雰囲気を思いっきり出していた。

 こちらからはあまり見えないようにか、右手を額に当てるようにして俯いていた。普通、日が差し込んでいる反対側を当てた方がいいと思うのだが、あえてそうしているのだろうな、となんとなく察した。


 さすがに夏に差し掛かってきている時分にあの直射日光は厳しいだろう。

 そう思ってカーテンを閉めに行って、再度席に着くと後ろの席から「気遣い上手かよ」と声を掛けられた。


「なんだ山本、そこの席になったのか」


「オレの存在感!! さっき思いっきり叫んだのに?!」


「あぁ、ごめん。聞いてなかった」


 あまり興味がなかったのがバレた。

 清水さんの声はどんなに小さい声でも聴きたいな、と思うが、山本はその枠には入らない。

 むしろ、そこまで聴きたいと思うのは彼女だけだから仕方ないのだが。


「なんで、オレにだけ塩対応なの、静様!」


 そんなふうに叫ぶ山本に対して、何言ってんだコイツ、と心の底から思った。人の機微には聡い相手はさすがに自分が何を言いたいのかわかったようで、ちょっと涙ぐむように顔を腕で隠した。


「先生! 静くんがヒドイんです!!」


「おお、お前にはそのくらいがいいと思うぞ。ついでに宿題見せる時もそのぐらいの対応で全然構わんぞ、佐久間」


「先生?! なんで静に宿題見せてもらってるって知ってんの?!」


「お前、この前反省文に書いてただろ。大丈夫か、記憶力」


「オレは前だけ見て生きます!」


「昔の記憶も大事だぞ」


 そう言うなり担任は授業を始めたものだから、清水さんが慌てて教科書を準備し始めたのが視界に映った。

 先ほどまでの浮かない表情から一変して、真剣な表情に戻っていた。

 彼女のこのオンオフの切り替えの表情もやはり好きだな、と思えてしまう。

 自分も授業に集中しなければ、と気持ちを切り替えて黒板を見つめた。





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