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隣の席は君  作者: 姫野 釉月
23/42

◆隣の席の男子と挨拶

◆→まちさん視点




 私のクラスには有名人がいる。

 さらふわな黒髪をもつ丸い頭、鼻筋の通った小顔、涼しい目元に薄い唇───誰が見ても美形と思わず見惚れる容姿端麗な男子。その上、成績も学年一位だと来れば興味の対象として名が上がり、もはや自分達のクラスだけではなく学年を越えて有名人であるその男子の名を、佐久間(さくま) (しずか)という。

 チャラいという言葉とは程遠く、無駄なことは話さず、名前の通りに物静かな彼は、他者にストイックな印象を抱かせる。

 インドア系かと思えば、そうでもなく、部活はバスケという、身体能力さえ文句なしのパーフェクト人間だというのだから、世の不条理を感じずにはいられない。

 夏に差し掛かり、意外にも暑がりなのか早々と半袖組になった彼の腕は細身ながら筋肉質で男子なのだと思い知らされる。

 よく朝練の後に汗を拭くためにタオルで顔や首筋を拭いているのだが、他の男子と違いどこか品があるように見えるのは仕草のせいなのか。それとも、もともとの造りのせいなのか。永遠の謎である。むしろ謎は謎のままでいい。


 それよりも今この瞬間。私、清水 まちは、今回多大な緊張感を持って、手元の紙を見つめている。

 手のひらにゆうに収まるその小さな紙は二つに折られ、その中には数字が書かれている。

 それは私の命運がかかっていると言っても過言ではない重要な数字が。


「四回目はない。絶対ない。仏の顔も三度まで。四回目はない」


 そうだとも。四月はノーカウントとして、五月六月が連続に当たることはあってもこの七月はない。きっと、絶対そうだ。

 神様どうか、この平凡代表の哀れな子羊にお慈悲を……───頼む!!


 傍目にはわからないほどの気負いを手に滲ませ、二つ折りの紙を開く。

 そして、中の数字を確認し、黒板に書かれている座席の番号に焦点を合わせる。


 窓際の前から三番目。いつしかの席にふとイヤな記憶がよみがえる。だが、それはあくまで二月前という昔のこと。今ではない。いくらこの学校の七不思議とて、月日に敵うなんてそんな───。


「清水さん」


「はい!」


 朝イチから軍隊並の元気な声が口から出た。傍らには鞄を持った友人がこちらを見ている。


「もう席変わるところだよ。はい、鞄持って。いってらっしゃい」


 人当たり抜群の心優しい友人に手を振られ、そこまで名残惜しくはない席を後にし、新しい席へ移動する。

 夏場に差し掛かるこの時期は、陽光がかなり攻撃的だ。机にも惜しみ無く光が注がれ、触れるとじりじりと暑さが身を焦がす。

 春は居心地が良かったのに…と少々残念に思いつつ、席に座って鞄の中身を机に移動させる。

 人心地ついて、吐息をついたその瞬間、横合いからはしゃぐ声が耳をついた。


「やったぜ! 静様の後ろの席! オレってばツいてるー!!」


 音の発信源は宿題をあえてしない勇者である山本くん。彼の叫びを聞いて『あぁ、あいつまた宿題見せてもらうつもりだ』とクラス一同が瞬時に理解する程度には有名である。先日それでついに反省文行きになったと聞いたが彼はコりていないのだろうか。

 いや、問題はそこじゃない。この胸のモヤモヤとしたものが何かの予兆というように頭の中で警鐘が鳴っている。

 落ち着け。落ち着きなさい、まち。

 これは暑さのせいであって冷や汗ではない。なんかひしひしと身に突き刺さるものを感じるのはただの錯覚。そして、今まさに聞こえた山本くんの声がかなり近い距離───すぐ後ろから聞こえたなんてそんなこと………。


「清水さん」


 名前を呼ばれた瞬間、確信した。

 恐る恐る隣の席に視線を移すと───…。


「二度あることは三度あるって言葉、知ってる?」


「ぞ、存じ上げておりますが…」


「そう。じゃあ、よろしく」


 簡潔に締めてくれた彼───佐久間 静くんが不敵な笑みでこちらを上目遣いで見てきていた。

 思わず言いかけた言葉は呑み込んで「こちらこそ……はい…」と無難に応えておいた。最後の返事に数分前の元気なんて欠片もない。ついでに、毎度彼と声を交わすときは同じ目線か見下ろされることが多いので珍しい角度だったから二度見してしまった。

今回の席替えも見事に我らが有名人、佐久間 静くんの隣の席を獲得してしまった私は己のくじ運のなさに絶望し、机に身を沈ませるのだった。


 そして同時に、あることを心に誓った。


 今度からは、くじを引く前に祈ろう、と。




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