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隣の席は君  作者: 姫野 釉月
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☆隣の席の女子

隣の席の男子、静くん視点。


 その日は桜の木が満開だった。入学式という、特別な日。木漏れ日が気持ちいいな、と窓際ではないのについ思ってしまうほど天気がよかった。


「え、あ、男子…だった」


 不意に女子の声が耳に届いた。

 もしかしても自分のことか、と思わず相手の顔を見るとほんの少し瞠目した女子が佇んでいた。

 瞬き一つですぐにその動揺は隠れたが、なかなか動かない様子に、こちらは疑問をもつ。しかし、 視線を追えばその疑問はすぐに解消された。

 手早く机の数を数えたようで、ほどなくして隣の席に腰掛けたのだ。そして、気の抜けた息をついた。

 染めたことの無さそうな黒髪は前になるほど少し長くなっている。前髪は目にかからないほどで、化粧もしてないのに、なんだか目を惹く女子だと思った。

 物静かそうな女子。

 これで、自分も平穏な時を過ごせるのかと淡い期待を持てた。

 入学式が始まる前から周りが騒がしかった。


「やったじゃん、あの静様と同じ学校…!」


「ウソッ! わっ、本当だ! なんでこの学校に?」


「しかも、同じ教室!」


「え〜、そっちズルい! あたしもそっちがよかったなぁ」


 それは小・中学から続いた喧騒で、どうやらこの学校に来てもそれは継続されるようだ。

 自分の容姿がわりと整っているのは両親のお陰だと思っているが、随分前にそれを言ったら「お前イケメンかよ」と同じ男子に言われてまた騒がしくなってしまったのでもう言わないと決めている。


「あらヤダ、嬉しい、静様が一緒だわ、これで俺の頭に平穏が訪れてくれる…!」


 その同じ男子はやたらとコミュニケーション能力が高く、入学してから早々に男女関係なく接し、友達百人を地で行くことで有名だ。その名も───。


「山本…」


「よっ、さっきぶり」


「うるさい」


「何その辛辣。せっかく高校も一緒になったんだ。ついでに部活も一緒に…」


 せっかく今、穏やかな空気に浸っていたのに。いつも宿題を忘れるのに、何故同じ高校に入れたのか不思議でならない。今年もこいつからの猛攻撃が来るのかと思うと、今しがた訪れた平穏が曇天に変わる予感すら感じる。


 もう一度ちらりと隣の席の女子を見る。

 いつの間にか傍らに一人女子がいて、二言三言話したほどで、彼女は鞄ごと机に身を沈みこませていた。

両手を合わせて何やら小さく謝っていた。

 謝っているとわかったのは、立っている方の女子が「謝るんなら本人に謝りなさい」と言っていたからで、なんとなく聴き逃したことを残念に思った。


「山本」


「なんだ、友よ」


「うるさい」


「ひどくね?!」


 お前はオレのこと親友だと思ってねぇのか、と泣きべそをかかれたが、それは違う。くされ縁だ、と伝えたらその響き嫌いじゃないな、と返された。中学は三年間同じだったが、こいつのことは未だによくわからない。

 とりあえず、今日はテンションが高いことだけはわかった。


 ほどなくして、隣の席の女子の名前を知る。

 清水(しみず)まち。

 穏やかな雰囲気にあって、その声も透き通るような綺麗な声だった。

 もっと声を聴いてみたいな、と聞き耳を立てるようになってしまったのは誰にも言えない。




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