秘密の園
旅が始まった。
そんな実感が湧いてきてわくわくする。
新しい仲間も増えたし、これからが楽しみだ。新しい世界を見て、美しいものに触れたい。
私のマドレーヌを食べたその子は私にたくさん話しかけてくれる。
次の街のことやそのまた次の村の話。
どれも私には魅力的で、私は一瞬で彼女に引き込まれてしまった。
「リン?変な名前ねー。意味もいまいちわからないし。」
「意味?」
「そう。意味よ!名前には必ず意味があるわ。ウチはジュエル・スカーレット 意味はーー」
「なるほど!だから宝石みたいに綺麗な紅い目をしているのね!」
「え?ーーええまぁ…」
顔を赤らめ嬉しそうにはにかむ彼女の横顔は美しく神秘的で何か人間離れしたような存在だった。
美人さんだなあ…
ソルくんやリズにも何か意味があるのかな?私の本当の名前の意味は恐らく…古書の国で調べてみようかな…
本当の名前の名前はみんなには言えないけれど。
…この子にも隠しておいた方がいい。
「私はね、元の名前は覚えてないないんだけど、リズがつけてくれたリンって名前はプリンセスが由来なんだよ!面白いでしょ?フリフリのドレスを着ていたから……どうしたの?」
今まで下を向き照れていたジュエルがまるで敵を見る様な目でこちらを睨んでいた。
「お…お前は…またーー!!」
また?私とあなたはどこかであったことがあるの??
「…ついてきて。」
「どこへ行くの?」
私が投げた質問はこともなく地面へ転がり、拾われることは無かった。
ソルくんに言わないと行けないけれど、彼女は私を待つことなく森の奥へ消えていった。
「…すぐ、戻ってくるよね?」
「リン!そろそろ行ーー…リン?」
「綺麗!」
「ここはウチの秘密の園。連れてきたのはお前がはじめて。」
「秘密の…園。」
その響きにうっとりしながら周りを見渡す。ツリーハウスがある一際大きな木に深いブルーの池、光が反射して大きな鏡のよう。所々に宝石のような物が吊るされていて…私たちは切り株に座り話をしていた。
「これはなあに?」
木から吊り下げられていたキラキラした宝石の中に一際輝きを放つ紅い石があった。
「さわるな!!」
「え!?」
パシッ
振り返ると同時に手を叩かれる。
「い…た…」
「ごっごめんなさい…でも貴方が何でもかんでも勝手に触ろうとするからいけないのよ」
「…」
「これは私の芸術作品なの。美術館とか、勝手に触ったらダメでしょう?それと同じよ!」
「そうだよね。ごめんなさい。」
あまりにも綺麗な石に見とれてしまって勝手に体たが動いたように引き込まれたのだ。
「…次触ったら殺すから。」
ぽそりとつぶやいたその言葉は冗談には聞こえなかった。
油断がならない。
こいつ、ウチの作品に触ろうとするなんて…!
この石は決して誰かに触らせてはいけない。
なぜならこの石にはウチのーー
「そう言えば私もそんな感じの綺麗な石を持っているの。」
ゴソゴソとポケットの中から石を探し出している。
「ほらコレーー」
そう言って出てきた石は翡翠色の石だった。
なんだ、魂石か。
ウチはそう思った。
「それ、すごいいしだよ。」
「そうなの?綺麗だもんねー。」
「それ、誰かが亡くなった場所に落ちていたんじゃない?」
「そ、そうだよ。…なんでわかったの?」
「おっしえなーい!」
「なにそれー!!」
バカな人類はまだ気づいていない。むしろただの宝石にしか思ってないだろう。
あれは魂石と言い、人が死ぬ時に何かこの世に強い思いがあれば石として残る。そういうものだ。
生きる意志を失ったものからは何も出てこない。
そして、美しい人生を歩めば歩むほど、石は透明度を増し、輝きを放つ。
この翡翠の石は透明度も高く、輝きもある。きっと自分の信念を貫いた者のものだろう。黒い点がマダラにあるところを見ると、苦悩もあったのだろう。
「私たち、そろそろ戻らない?」
私たちが秘密の園に来てから大分
時間が経っていた。
「ソルくんたちが心配しちゃうよ。」
流石にそろそろ帰らなくては。
「とっても楽しかった!だからもうーーー。」
「戻らないよ。」
「え??」
今…なんて?
「戻らない。あなたと二人これからも。」
つづく
ヽ(*^^*)ノ